「関係人口」という言葉を聞いたことはありますか?地域に深く関わる人材のことを指し、移住者や観光者とは区別されます。地方のまちづくりや産業の後継者が不足する中で、新たな人材として期待されています。本記事では、関係人口の可能性や期待されている役割、各地方自治体の取り組みについて解説いたします。

「東京一極集中」と地方過疎化の問題

「東京一極集中」とは、政治や経済(ヒト・モノ・カネ)などが東京に集中する現象のことをいいます。背景には、一つに政治の中枢、企業の本社が多く進出している経済的要因があります。さらに、関東平野という立地的な要因により、モノ(運搬)や人の往来が容易にでき、都市開発や経済の中心集約化が加速していきました。

総務省の調査によれば、人口増減を示す「転入・転出数」において、転入超過をした都道府県は、東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,大阪府,福岡県,滋賀県、沖縄県の8県のみで、他の県は転出超過となっています。東京圏(東京、神奈川、さいたま、千葉)だけでも14万8783人の転入超過で前年に比べ8,915人も拡大しています。

参照:住民基本台帳人口移動報告 2019年(令和元年)結果|総務省

このまま東京一極集中が進行すれば、災害による首都中枢の機能麻痺、人口や資産の集中による物流停滞の多発、医療機関・保育施設の不足といったリスクに直面する可能性はますます高くなり、一刻も早い是正・改善が求められています。

東京の転入超過数が減少。地方創生に転機?

このリスクが現実のものとして現れたのが、コロナショックです。コロナウィルスによって、リモートワーク、オンライン上での物品購入など、ソーシャルディスタンスを基準とした新しい生活様式が浸透し、「人が密集していること」自体がリスクになりました。

実際に、人口が集中している東京では感染者数が多く確認され、コロナ後の統計では東京外へ移住を希望する人が増加傾向にあります。総務省が2020年5月に行った調査では、東京の転入・転出数の状況は、転入者数が22,525人、転出者数が23,594人で、1,069人転出者数が上回り、2013年7月以来初めての転出超過となりました。

参照:緊急事態宣言下における国内移動者数の状況~東京都の状況を中心に~ -住民基本台帳人口移動報告2020年5月の結果から-

また、内閣府が行った調査で、「地方移住への関心に変化はあったか?」という質問に対し「関心がある」と回答した割合は、東京都23区で「35.4%」、また年代別では20代が「22.1%」30代が「20%」と若い人ほど高く関心を持っていることがみてとれます。

参照:新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査|内閣府

関係人口とは

関係人口とは、言葉通り、地域に関わってくれる人のことを指し、地域活性化、地方創生などの文脈で使われることが多い言葉です。総務省では、2017年に「関係人口創出事業」を、また、翌年の2018年には「関係人口創出・拡大事業」を実施し、関係人口を増やす活動を行う地方公共団体を支援しながら推進しています。

定住人口や交流人口との違い

定住人口は移住した人、またはそこに居住している人を指します。交流人口は観光で来た程度の薄い関係性で、あまりその地域との接点を持たない人を指します。それに対し、関係人口は住んでいないけどその地域に縁がある、または二拠点居住先の一つとしている、知人の仕事の手伝いで定期的に往来しているなど、定住まではいかないけど深く関わりのある人を指します。

従来は、交流人口から定住人口を作るという構想でしたが、移住というハードルは非常に高く、いかに地域との「関わり白」が大きい「関係人口」を増やすことができるかが、地方創生で語られている文脈になります。

関係人口が注目されている背景

関係人口が注目されているのは、「東京一極集中の是正」が大きな要因の一つですが、人材不足の解消やライフスタイルの多様化といった要因も関係しています。

東京一極集中の是正

前述した通り、東京一極集中が進行すれば、災害時における首都機能の麻痺や人口が密集することによる輸送の遅延、排気ガスによる大気汚染、産業廃棄物の処分問題など、次々と問題が表面化します。このような問題が発生する前に、首都機能を地方に分散させることが必要です。

人材不足の解消

今、地方都市では地場産業の後継者がいない、人手不足といった問題を抱えています。地方都市にいる若者に良質な雇用の機会や情報が正しく行き渡っていないケースが多く、結果、東京や大阪、福岡といった大都市に流出してしまい、負のスパイラルに陥っているのが現状です。

ライフスタイルの多様化

交流人口から定住人口へ、という流れが一般的でしたが、今は関係人口という新たな可能性を探っています。これは、二拠点生活、週末起業、地方副業、ワーケーションなど、デジタルの発達に伴い、移住に限らない働き方、暮らし方が増えているからです。

地方で働く新たな選択肢

ITサービスの発展、交通網の発達により、以前と比べると格段に地方都市に行きやすくなりました。一定額の費用を払うと提携している物件に住み放題のサービス「コリビングサービス」は、二拠点生活/多拠点生活/アドレスホッパーといったライフスタイルをより実現しやすくしていますし、また地場産業と複業人材をマッチングするプラットフォームも次々と登場しており、より地方で複業をするハードルも下がっています。

地方複業/半農半X

半農半Xとは、塩見直紀氏が1994年頃に提唱した生き方で、農業で食べていくための自給自足の生活を送りながらも、もう半分で自分の好きなこと(ライフワーク)をする生き方です。地方に農地を買い、居住地の首都圏から週末だけ二拠点生活で農業をしている方など、半農半Xのあり方も多種多様です。まさに、関係人口が作る働き方の一つでしょう。

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二拠点生活(デュアラー)/多拠点生活/アドレスホッパー

二拠点生活とは、今の居住地を起点に、週末または週の半分を別の地方などで過ごすライフスタイルで「デュアラー」とも呼ばれます。多拠点生活は、複数の拠点を持ちながら、常にさまざまな場所で過ごすライフスタイルのこと。アドレスホッパーは、多拠点生活と似ていますが、特定の拠点を持ちません。キャリーケース一つで、住所をホッピングするように、その日、その時の気分に合わせて暮らします。どれも、地域と密接に関わられる余白があり、二拠点生活、多拠点生活をきっかけに地方の魅力に気づき、移住を決める人も少なくありません。

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ワーケーション

ワーケーションとは、ワークとバケーションをかけ合わせた造語で、休暇をとりながら仕事をする働き方を意味します。新型コロナウィルスの影響で、三密を避けながら仕事、生活をしたいというニーズが高まっており、ワーケーションに注目が集まっています。「トレンドマップ2020夏」の消費分野でランクインしたことから、その注目度が伺えます。

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関係人口を促進している取り組み事例

最後に、関係人口を促進している自治体の事例についてご紹介します。

神奈川県下田市

下田では、株式会社LIFULLと「空き家等の利活用を通じた地域活性化連携協定」を締結し、関係人口や移住者の増加を促進する取り組みを行っています。株式会社LIFULLが運営するLiving Anywhere Commonsの下田拠点はランサーズなどと提携し、フリーランスまたは複業をしたい人材を集め、ワーケーションツアーを企画・開催して下田の魅力を伝えたりなど、外部人材の関わりの余白が出せるコンテンツを定期的に実施しています。

長野県高森町

長野県高森町では、2019年度から「タウンプロモーション計画」という関係人口を増やす取り組みを始めています。定住ではなく、街の認知度を高めることを主眼に置いています。神奈川県川崎市の地域イベントに参加し、街の名産品である柿、リンゴ、桃などの販売をしたり、地元出身の学生たちが中心となり活動している「わかもの特命係」によって、SNSや動画などで情報発信をしたりなど、街一丸となって盛り上げています。

まとめ

いち消費者としては、観光、移住以外の地方への関わり方ができたことで、お試し移住やワーケーションといったプロジェクトに参加でき、また地方都市の事業者ならびに自治体は、移住や観光に囚われないさまざまなアプローチができます。

関係人口というキーワードを一つチャンスに働き方を変えていき、地方への関心、可能性を探っていくのもまた面白いでしょう。

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑
Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等