みなさんは「アドレスホッパー」という生き方をご存知ですか?特定の住所を持たず、コリビングサービスやゲストハウスを活用した定住しない新時代のライフスタイルを指します。本記事では、アドレスホッパーの意味や成り立ち、メリット・デメリットについて解説いたします。

テレワークの普及で「定住しない暮らし」が浸透

政府が推進する働き方改革により我々の働き方は変化を遂げています。政府は、東京オリンピックを一つの区切りに、「テレワーク・デイズ」の開催、「働き方改革推進支援助成金(旧名は時間外労働等改善助成金)」の制定や「ふるさとテレワーク推進事業」の設立など、テレワークの普及を本格的に進めていましたが、新型コロナウィルスの蔓延により皮肉にも数年早くテレワークの普及が拡大しました。

 

関連記事:モバイルワークとは?テレワークとの違いや導入事例について解説

関連記事:スマートワークとは?生産性アップの働き方|メリットや導入事例についても

 

しかし、2020年6月に東京商工リサーチが行った調査によれば、「在宅勤務やテレワークを実施している」と回答した企業の割合は31.0%、「実施していたが現在はやめている」という回答は26.7%で、外出自粛が解除されてからは少しずつ元の状態に戻ってきており、政府が目標としているテレワーク普及率70%には到達していません。

参照:第6回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査

 

ただ、テレワークやソーシャルディスタンスという新しい生活様式を契機に、自らの働き方やライフスタイルを変えようと考える人は増えてきているようです。内閣府が実施した調査によれば、「地方移住への関心が高くなった」と回答した割合は15.0%、その中でも東京都に在住の人は特に関心が高く35.4%、約4割弱の人が関心があると回答しています。

参照:新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査|内閣府

アドレスホッパーとは?

アドレスホッパーとは、第一人者である市橋正太郎(いちはし・しょうたろう)さんが提唱したライフスタイルで、特定の住所を持たずコリビングサービスやゲストハウスを活用し、各地を転々としながら暮らすことを意味します。若者の間で話題となっており、中には若い女性の実践者もいます。小さな島が集まっているリゾート地を訪れ、それぞれの島を短期間滞在し転々とする「アイランドホッピング」という言葉にインスパイアを受け「Adress(住所)」と「Hopper(転々とする人)」という造語が生まれました。

 

2019年にはマツコ会議や情報番組のZIPなどにも取り上げられて話題となりましたが、「住所不定」「ホームレス」などといった否定的なイメージもつきまとい、賛否両論の声があがっています。 ただ、リモートワークの普及に伴い、HafH(ハフ)、ADDress (アドレス)といったコリビングサービスがここ数年で登場し、アドレスホッパーには追い風の状況になっています。コリビングサービスとは、提携している全国の施設にどこでも住み放題の定額制(サブスクリプション)サービスで、利用者の中には、フリーランスだけでなくリモートワークをしている会社員も増えてきつつあります。

ノマドワーカーや多拠点居住との違い

多拠点居住は、別荘や実家といった生活拠点が存在しますが、アドレスホッパーには中心拠点と呼ばれるものが存在しません。いわば「無拠点居住」と言い換えることもできます。ノマドワーカーは、働く拠点(オフィス)を持たず、カフェやラウンジ、コワーキングオフィス(ドロップイン)などさまざまな場所で働くワークスタイルの一種です。アドレスホッパーとノマドワーカーは親和性が高く、各地を転々としながら仕事をしているアドレスホッパー実践者も多く存在します。

関連記事:デジタルノマドとは?国を転々としながら自由に働くワークスタイル

アドレスホッパーのメリット・魅力

アドレスホッパーというライフスタイルには、どのようなメリット・魅力があるのでしょうか?

行動力が上がる

アドレスホッパーの生活を始めるには、自身の家を手放すことになります。毎日決まった帰る場所がなくなるため、状況変化に合わせて自身の行動力も上がっていきます。また、持ち物も最低限になるため、物事の判断や決断もよりスピーディーになります。

生活コストを抑えられる

生活コストで最も高いのが家賃です。コリビングサービスや友人宅、実家など、工夫次第で生活コストを抑えることができます。特に、東京など都心部に住んでいる方は、コストメリットを非常に実感できるでしょう。

人とのつながりが増える

多くの場合、ゲストハウスやコリビングサービスはドミトリー(相部屋)です。また、1Fに交流できるカフェスペースがあることが多く、自然と滞在者同士での交流が生まれます。

好きなときに旅ができる

家もなく持ち物も最低限になるため、気軽に遠出ができます。今週は軽井沢、来週は沖縄といったように、行きたいと思ったら衝動的に現地に行くことができます。

アドレスホッパーの課題点やトラブル

ここまで、アドレスホッパーのメリット・魅力について見てきましたが、反面、大変な部分や乗り越えないといけない課題点もあります。

施設によって「生活の質」が左右される

滞在施設によって、アメニティや設備やWi-Fiの速度など状況が異なります。ある場所では、アメニティが充実しているけど、一方の場所ではWi-Fiの接続が不安定など、生活の質に影響する変化もあるでしょう。その想定外のトラブルを毎度楽しめるかが試されます。

学区の問題があり、子供連れは現実的に難しい

子供連れのアドレスホッパーの方も一部存在しますが、就学している子供だと、学区の移動が発生するため、子供と一緒に旅をするのは現実的に難しいのが現状です。オンライン・オフラインの選択可能が一般的になれば、もう少し子連れアドレスホッパーを実践する人も増えてくるかもしれません。

郵便物の受け取り(住民票の問題)

固定の住所を持たないため、郵便物の受け取りには工夫が必要になります。多くの場合、実家に郵送されるように手続きをしているケースが多いです。フリーランスや経営者であれば自身のオフィスで対応できます。近年コリビングサービスでは住民票登録サービスを用意している場合もあるそうです。

税金の手続き

郵便物と同じく現住所がなくなるため、税金の処理が複雑になります。これも郵便物と同じく、実家や住民票登録ができるコリビングサービスなどを活用し、納税地を変更します。

荷物を減らす必要がある

家を解約するということは、家具や家電はもちろん日用品などの荷物を最低限までに減らす必要があります。近年は、携帯一つで荷物を預けられる「サマリーポケット」などのサービスもありますが、それでも預けられる荷物には限りがあります。思い切って荷物を捨てる勇気が必要となります。

アドレスホッパーに向いている仕事

リモートワークで仕事が完結するプログラマー、Webデザイナー、ライター、カスタマーサポートの他に、フットワークが軽くなることにより、仕事に有利に働くのがカメラマン、営業、打ち合わせの多い士業(弁護士、税理士、司法書士など)などです。 ただし、機密情報を扱う業務、個人情報を扱う業務を行う場合は、閉鎖された空間で働くことが望ましいので滞在する場所の選定やリモートデスクトップの設定などが必要になります。

アドレスホッパーに向いている人・向いていない人

アドレスホッパーには、身軽になれて自由にどこにでもいける魅力があると同時に、常に変化にさらされること、滞在場所によって生活の質が左右されるという課題点もあります。予想外のトラブルが多いため、こういったトラブルを楽しめなければアドレスホッパーになってもかえってストレスが溜まってしまうでしょう。

 

【アドレスホッパーに向いている人】

  • 飽き性で常に刺激が欲しい人
  • 人見知りせず、自ら積極的に交流できる人
  • トラブルを楽しめる人 ・長距離移動などを耐えぬけるタフな人
  • 好奇心旺盛な人
  • 食べ物の好き嫌いがない人
  • 運転ができる人

旅をしながら暮らすというと、非常に華やかで楽しげなイメージですが、実際はハードです。自然の豊かな地域に滞在するとなれば、買い物やカフェに行くだけでも長距離の車移動、電車移動が必要になります。慣れない土地、慣れない行動パターンに疲弊せずに、日常通りの生活を送るタフさが求められます。

 

また、車は持っておいたほうが生活の質は上がりますが、実はこれよりも「人見知りせず、自ら積極的に交流できるスキル」のほうが重要です。コミュニケーション力があれば、いろいろな人に頼ることができるため、車に同乗させてくれたり、野菜や果物を譲ってくれたりします。一人だけでもアドレスホッパーの生活は成立しますが、人を頼れれば難易度はグッと下がります。

まとめ

アドレスホッパーは、「旅をしながら暮らす」という誰もが憧れる理想の生活を実現できますが、自分の家や荷物を手放す必要があり、はじめるには大きなリスクを伴います。まずは二拠点生活や多拠点生活など、段階的にチャレンジし、複数拠点で生活する実感を得てからでも遅くはありません。

 

二拠点生活の取材記事はこちら

なぜ二拠点生活をはじめた?東京と山梨を行き来する辻さんが語る、移動しながら過ごすくらし方の魅力

 

多拠点生活の取材記事はこちら

西出さんが語る多拠点生活の魅力。旅でも移住でもない次世代の暮らし方とは

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑
Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等