社会に生きていても、なかなか身近に感じることのない仏門の世界。お寺で働くお坊さんは日頃どのようなことを考え、過ごしているのでしょうか?本記事では、臨済宗建長寺派満昌寺の副住職、永井宗徳(ながい・そうとく)さんに、お坊さんの仕事の魅力や大変さについて話を伺いました。

 

「仏教とロックの思想は似ています」満昌寺 副住職の永井宗徳さんが語る仏門で働く魅力

 

大学院で心理学を研究し、その後仏門の世界へ。

 

――まず永井さんについて教えてください。

臨済宗建長寺派満昌寺で副住職をしている永井宗徳です。小さい頃から家のお寺を継いでお坊さんになろうと考えていました。喪失をはじめとした、様々な理由で心に傷を負った方の心のケアもできるようになれたら良いなと思っていたので、早稲田大学の人間科学部に進学しました。

 

3年生からは、日本でマインドフルネスを心療内科治療に導入した第一任者である熊野宏昭先生の研究室で臨床心理学を学びました。

 

大学を出たらすぐに出家しようと思っていましたが、もう少し勉強したい気持ちがあり、大学院に進学しました。そのまま熊野先生の研究室を受験するか迷いましたが、私が目的としているところと少し方向性が違うと思い、同じ大学の文学部の越川房子先生の研究室を受験し入らせていただきました。

 

――大学院を修了後、お坊さんの道へ進まれたんですよね?

そうです。まずお坊さんになると僧名をつけられます。私の本名は宗徳(むねのり)ですが、僧名は宗徳(そうとく)になります。このように本名を音読みするケースが多いです。また、お寺の家系で生まれた人は、僧名を見越して赤ちゃんの名前をつけることもありますし、必ずしも僧名が本名の音読みにならないこともあります。

 

――本名とは別に僧名があるんですね。出家されてすぐにご実家のお寺に戻られたのでしょうか?

禅宗の僧侶は一人前として認められて入寺するにあたり、修行をする決まりがあります。まず、お寺には臨済宗、曹洞宗、浄土宗など宗派があります。さらに、臨済宗でいうとそのなかに天龍寺派、南禅寺派などの宗派があり、満昌寺は臨済宗建長寺派に属します。

 

なぜ、宗派の説明をしたかといえば、宗派によって少し入寺のルールが変わるためです。臨済宗建長寺派では、住職となるために臨済宗派の修行道場で原則最低3年修行する決まりがあります。ただ、修行僧の面倒をみる老師が見込みがある、反対にまだ修行が足りないと判断した場合は、期間が延長することもあります。

 

修行する道場は臨済宗派の修行道場であれば不問で、自分に合っているところを探します。私は宗派の本山である建長寺で修行しました。

 

――ちなみに修行ではどのようなことをするのでしょう?

修行道場の師であられる老大師に参禅※1し、公案(こうあん)と呼ばれる禅問答を全て透過し(解き)て自己を究明し、見性成仏※2となることが修行の最大の目的です。

 

公案をすべて透過する(解く)には20年くらいかかります。公案を全て透過し、師である老師より認められ、印可を受けた方が老師となられます。老師を代々辿っていくと、禅宗の初祖であられる達磨大師に行きつきます。

 

参禅以外の時間は、坐禅や托鉢、掃除などの労務、それ以外では禅僧にふさわしい生活態度を身に付けるための修行がほとんどですね。例えば、部屋に入るときは履物を揃える、食事のときは音を立てない、正しく着物を身につけるなど、ささいなことまで厳しく指導されます。

 

また、修行道場には最低限のものしか揃っていません。ご飯は釜で炊き、風呂は薪で沸かし、お湯は沸かさないと出ません。着る服は夏も冬も薄着かつ素足です。もちろんジュースやコーラなどはなく飲み物は水かお茶です。

 

※1禅道を学ぶこと
※2身に本来そなわる仏性を見抜いて、仏果を悟ること

 

――外出はできるのでしょうか?

基本的に、外出は許可されません。また、手紙の私的な利用は禁止で、携帯電話の使用も原則禁止です。しかし、修行中生活が少し慣れてくると、月に一回くらい少しの休息と身の回りのものを支度するため、日没まで外出が許されます。

 

そんなタイミングでジュースやコーラを飲むと本当においしくて。ひたすら一日一日、その日その日に起こることに向き合う生活ですが、でもそれで十分なんですよね。そこに気付けたのは大きかったと思います。

 

――携帯電話も使えないんですね……。本当に別世界です。制限された生活を送ることで、ささいな日常に感謝や幸せを感じられるようになったんですね。3年の修行を経て、ご実家のお寺に戻られたのでしょうか?

3年で帰る予定でしたが、最終的に5年ほど修行道場に残り、暫暇(ざんか)という形で道場から自坊である満昌寺へと戻らせていただきました。

 

――暫暇(ざんか)とは何でしょう?

さきほどもお話ししたように、修行は参禅し、自己の究明と見性成仏が目的です。それを中断しているため、「しばらく暇をもらって外に出る」状態になります。これを暫暇と言います。

副住職ってそもそもどんな仕事?

――まず、副住職の仕事についてお伺いする前に、そもそも、お寺とはどういう組織なのか教えてもらっても良いでしょうか?

お寺は宗教法人にあたり、宗教法人の代表役員である住職、責任役員の副住職(法類※の和尚がなることもある、満昌寺の場合は閑栖住職が副住職の代わりに就いている)、檀信徒の皆様の代表者、役員数人で構成されます。

 

また、お寺は本山と末寺という従属関係があり、寺院の宗派長が本山、それに属するお寺を末寺と呼びます。数は少ないですが、どの宗派・宗旨にも属さない「単立」と呼ばれるお寺もあります。

 

また、一般的な会社と同じように、お寺にはお金の使い方や住職・副住職の任命、建物を建てる際の取り決めやルールが書かれた宗制があります。満昌寺は建長寺の末寺になるため、当寺だけで勝手に決めて動くことはできません。

 

本山と檀家さんの代表者の了承が必要になります。その他法類の住職にも了承を得ないといけません。そうしないと規律がめちゃくちゃになってしまうので。
※同宗同派に属するお寺のこと

 

――続いてお寺の仕事についてお聞きしたいのですが、役割や職務は細かく分担されているのでしょうか?

業務はそこまで明確に分担はされていません。まず、基本、お寺には住職と私、引退した前住職である閑栖(かんせい)住職の3人がいます。基本的には住職、副住職のどちらかは必ずお寺にいます。これは、檀信徒の皆様のお寺を守る意味合いもあります。

 

お金の管理は、原則住職が行いますが、お寺によっては住職の奥さんである寺庭(じてい)婦人が行う場合などもあります。

 

――1日どのようなスケジュールで動かれているか、教えていただけますか。

まず、満昌寺では朝6時に朝課(ちょうか)※をあげます。本尊であるお釈迦様、歴代の祖師方、満昌寺の開山様、開基であられる三浦大介義明、檀信徒の皆様方に向けてお経を読むため、30分から40分ぐらいかかります。

 

そのあとは寺の敷地内を掃く日典掃除(にってんそうじ)をします。土日は法事があることが多く、おおむね朝9時、10時頃から始まります。また、満昌寺には鐘があるので、夕方5時に時報の鐘を鳴らします。

 

禅宗は掃除をはじめとした日常の生活を大切にするため、何も用事がないときは掃除の続きをします。

 

このように、法事だけでなく葬儀があればその場所にお伺いしたり、満昌寺に拝観に来られた方の対応をしたり、日によってスケジュールは全く異なります。

※お経を詠んで供養をすること

 

――なぜ掃除は重要なのでしょう?

掃除も修行の1つなんですね。別に掃除しなくてもなんとかなるんですよ。でも掃除をすれば細かいことに気付けるようになりますし、また一心に掃除をすることで日頃巣食う執着心から離れることができます。掃除、履物を揃える、朝課をあげる、坐禅をする……。お寺の仕事をしながら、なるべく修行を続けています。

 

――お寺がどのような財源で成り立っているか気になる人も多いと思います。ここを少しお聞きしても良いですか?

まず、大きな収入源は檀信徒の皆様からの寄付やお布施です。例えば、満昌寺は600件ほどの檀信徒様がいらっしゃって、ありがたいことに私と住職と閑栖住職を雇えるだけの、宗教法人としての財源が確保できています。

 

お寺の規模が小さければ、お寺の法務に従事するのみでは生活することが厳しい場合もあり、学校で教員をするなど掛け持ちをされる和尚様も少なくありません。ただ、檀信徒様が1,000件を超える規模のお寺は、住職・副住職だけで手が回らず、近くのお寺さんに応援をお願いする必要がある場合もあります。

 

――檀家さんの寄付やお布施以外に、他にはどのような収入源が考えられますか?

土地と駐車場の管理、観光地の近くでは拝観料、お土産、グッズ、また抹茶やカフェなどを展開しているお寺もあります。

 

ただ、何をするにも本山、そして何より寄付やお布施をしてくださっている檀家さんの意見が大切です。そこをさしおいて観光やグッズなど手広く展開するのはあまり良くないですよね。

 

だから、満昌寺エリアが人気になっても、商業的な観光営業に力を入れようとはあまり考えていません。それよりも目の前の小さなことを大切にしたいと思っています。

 

この話の続きは後編で。後編では、お寺で働く魅力ややりがい、大変なことについて話してもらいました!

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等