半農半Xとは、農業で食べる分だけ稼いで、残りの”X”で自分の好きなことで生計を立てるライフスタイルです。もともと長濱さんは会社に勤めていましたが、なかなか家族との時間をとれない生活に疑問を感じ、2017年に独立。地元掛川で半農半Xの生活をスタートします。本記事では、半農半Xの実践者である長濱さんに、半農半Xの魅力やデメリットなどについて話を伺いました。

 

社会インフラに依存しない、豊かな暮らし|実践者である長濱さんが語る半農半Xの魅力とは|プロフィール

「ライフラインが止まればなにもできない」東日本大震災で実感した人のもろさ

社会インフラに依存しない、豊かな暮らし|実践者である長濱さんが語る半農半Xの魅力とは

ーーまず、現在されているお仕事について教えてください。

新卒から12年勤務した会社を退職し、2017年にフリーランスになりました。独立当初はWebライターをしていましたが、現在はライターだけでなく講師やゲストハウス、NPO、コミュニティマネージャー、掛川の総合計画策定委員や移住促進など、多岐にわたって仕事をしています。

 

ーー半農半Xをしてみようと思ったきっかけは?

10年以上前に、塩見直紀さんの書籍『半農半Xという生き方』を読み、半農半Xを知りました。ただ当時は、会社員でそんなライフスタイルを実現するのは無理だろうと思っていました。

 

半農半Xをしようと思ったきっかけは東日本大震災です。当時、私は東京にいたのですが、人は地震によって何もできなくなってしまう存在なんだなと気付かされたんですね。外部の影響によって自分たちの生活が脅かされない暮らしを作れないかということで興味をもつようになりました。

農と向き合うことで「待つ力」が養われる

社会インフラに依存しない、豊かな暮らし|実践者である長濱さんが語る半農半Xの魅力とは|mazrica times

ーー半農半Xで苦労したことやデメリットがあれば教えてください。

時間をかけて種を植えたけど、まったく育たないことかな(笑)ぶっちゃけ、生産性をつきつめてしまうと野菜を買ったほうが良いんですよね。体力も使いますし。なので、そのへんの前提条件を受け入れながら、生産性以外のところに価値を見出すことが大事かなと思いますね。

 

ーー「生産性以外のところに価値を見出す」まさにこれから始める人にとっては金言ですね!では、反対に半農半Xをしたからこそ感じられる魅力やメリットはありますか?

やはり、社会インフラに依存せずに生活できる点が魅力ですね。食物を自給できる点はもちろん、農業を通して仲間が増えて地域とのつながりも豊かになります。それこそ、「梅持っていきな」と周りの人からおすそ分けしてもらえて、それもある種依存先になりますよね。

 

ーーたしかに農業を始めると既存の社会インフラに依存することなく、自然や地域のつながりなど、さまざまな依存先が増えますね。

生産性だけで見れば、農業は圧倒的にコスパが悪いんですね。種を植えても芽が出ないこともあるし、実るまでに半年かかることもあるし(笑)それこそ、オンラインを主体とした現代の生活とは対極にあるものだと思うんですよね。

 

ただ、農業という不確定なものと向き合うことで、待つ力や受け入れる力が育まれる気がしていて。なので、新しい仕事を始める時に「まぁ、うまくいかないこともあるよね」というマインドが醸成されることは価値だなと思いますね。

 

ーー抗わず自然に身を任せる力が養われる。深いですね……。

あと、自然と向き合うと季節を肌で感じられることも魅力のひとつですね。自然の少ない都会だと、イルミネーションや音楽など人工的なものでしか季節を感じられないじゃないですか。ただ、自然に即して生活すると、自然の芽吹きや咲いている花の移ろい、季節の移り変わりを肌身で感じられて、とても心が豊かになります。

 

ーー農業をしてみて、健康や食への考え方も変わりましたか?

野菜って自分が体に取り入れるものとして、重要じゃないですか。コンビニやスーパーでうっているものって、保存するための添加物が入っていたりするもので、無視して摂取し続けていくのって長期的にリスクがあるわけですよね。だけど、自分たちで育てた野菜であれば、そこの安心感もありますよね。

 

身体にはよくはないものがいっぱい入っている。そこらへんはみてみぬふりをしてきたんだなと。自分たちが納得の行くものを食べることが、自分たちのためにも、子どもたちのためにも地域のためにもなるのかなと思います。

自分たちが食べる分だけ作れれば良い。最初はゆるく始めよう

社会インフラに依存しない、豊かな暮らし|実践者である長濱さんが語る半農半Xの魅力とは|mazrica times

ーーちなみに、半農半Xを始める前は実家で農業の手伝いをしたことはありましたか?

サラリーマン家庭だったので、農的な関わりはなかったですね。独立してすぐに、今住んでいる畑付きの家を購入して、妻と二人でコツコツと畑を耕しました。

 

ーー農業と聞くと、始めるハードルが高いと思うのですが、いきなり畑から始めるなんてすごいですね!

いえいえ、全然すごくないですよ(笑)農業で生計を立てていたわけでもないので、当時は半農半Xできれば良いなくらいに、ゆるーく農業していましたから。

 

ーー最初から畑を持てない人も多いと思います。そういった方は、最初何からはじめるのがおすすめですか?

プランターを使った家庭菜園からで良いと思いますよ。最近はレンタル農園も増えてきているので、そういう場所を活用するのも一つの手です。

 

ーー初心者が育てやすい野菜はありますか?

育てやすいのはイモ系全般です。実って見栄えが良い野菜は、トマやピーマン、ナスといった夏野菜ですね。

 

ーー最初にした失敗、それを工夫して改善したエピソードがあれば教えてください。

初年度に保存がきかない野菜をたくさん植えてしまったことですね。トマトやピーマン、スイカはたくさん実るわりに日持ちしないんですよね。短時間でたくさん食べられないので、廃棄することになってしまって……。今は日持ちする野菜を多めに植えたり、漬物やお酒などに加工したりして、廃棄が出ないようにしています。

 

ーー半農半Xをするために必要な資材や器具があれば教えてください。

農業の先輩に三種の神器として聞いたのが、草刈り機、耕運機、軽トラですね。これがあれば農業はできるといわれました。

 

ーーやっぱり運転できないときついですか?

そうですね。特に地方だと車がないとスーパーにも行けませんし、肥料や農具といった荷物を積めないですから。誰かの手伝いをするときも、車がないとそのたびに迎えに来てもらわないといけないので、車がないときついかもしれません。どうしても、経済的コストを下げたいなら、何人かで車をシェアをするのでも良いと思います。

 

ーーこれから半農半Xをしたい方へメッセージがあればお願いします。

最初はしんどくない程度に農業と向き合いましょう。ゆるさはほんとうに大事です!楽しいなと思ったら、時間を増やせば良いだけなので。

 

あと、農業をすると自然の偉大さに気付かされます。例えば、Web系で働く人たちにとってGoogleやAppleは依存先だったりするわけですよね。ビジネスにおいては非常に強力なサービスですが、規約やルールが変わるだけで検索順位が下がったり、広告単価が上がったり、仕事に大きな影響が出てしまうこともありますよね。

 

ただ、自然は揺るぎないんですよ。もちろん災害が起こるリスクはありますが、天地がひっくり返るような変化が起こることはないと思うんです。自然を一つの依存先とするのは、のちのちの人生の安心感につながると思います。

 

ーー今後の展望について教えてください。

今、「お金をかけずに子供の教育をする」という実験に取り組んでいます。これはまさに僕が今肌身で感じている「お金」と「家族との生活」のバランスをどう取るかという悩みから生まれたものです。子供を育てるのには教育費を稼がないといけない、そんな思いから目の前の子供との時間を犠牲にしていたことにハッと気付いて……。「仕事をセーブし、お金を多く稼がなくても創意工夫で子供の教育はできる」という仮説のもと、今取り組み中です。

 

【#私の働き方実験】仕事やめます。そして”試事”をはじめます

 

農業の面でも、現状は妻がメインで関わり、X(仕事)の部分を僕が担うみたいな状態になっていて。正直、個人的にも満足のいっていない関わり方になっています。まずは、農的な取り組みに関わる時間を増やすこと、そして理想としている自給率80%にすべく、ジビエや釣りなどのスキルも身につけていきたいと思います。

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等