「ジョブ型雇用」を知っていますか?2013年6月の「規制改革会議」で議題にあがり、再び経団連2020年の春闘方針で、ジョブ型雇用の普及の提言が盛り込まれました。そして、同年にはKDDIの働き方改革に伴い、ジョブ型雇用を導入することを発表しています。本記事では、ジョブ型雇用の概要と、ジョブ型雇用のメリット・デメリットについてわかりやすく解説します。

経団連が提唱する「ジョブ型雇用」とは?

ジョブ型雇用とは「職務を中心に採用する雇用契約」のことで、採用してからポジションを与える従来の日本企業の採用方法と異なり、職種別に、適切な人材を採用する制度・取り組みを意味します。2013年6月に行われた規制改革会議からジョブ型正社員の雇用形態について議論が始まり、2019年6月には、労使で合意した業務範囲の明文化が義務付けられる案が提言されました。

 

欧米では、職種や拠点がなくなれば自由解雇できるということで、問題として取り上げられていますが、無期限雇用かつ社会保険にも加入できるため、育児・出産などをして働けない人材の活用につながるといわれています。

 

また、経団連が2020年の春闘方針で日本雇用型システムの再検討をしています。働き方改革の新たな提案として、従来のメンバーシップ型雇用を残しつつ、職務で採用するジョブ型雇用の普及をすすめるという提案が盛り込まれています。

 

<参照:「2020年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」より>

 

2020年には新型コロナウィルスが世界的に流行し、働き方が大きく変化しました。2020年7月31日には、KDDIが正社員13,000人を対象に、ジョブ型雇用の導入を決定しました。この他、日立製作所、資生堂、富士通など続くかたちで、ジョブ型雇用の本格導入へ準備を進めています。

 

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い

メンバーシップ型雇用は、「日本型雇用」ともいわれ、仕事内容や勤務地などを限定せず、会社にマッチする人を採用する手法で、”就社”と言われています。 それに対し、ジョブ型雇用は仕事に人を就ける採用プロセスで、能力やスキルで採用を判断します。欧米では主流の採用方法であり、ジョブスクリプションと呼ばれる職務記述書に基づき、職務が明確に定められます。

メンバーシップ型雇用とは?

メンバーシップ型雇用は、仕事や勤務地を限定していないため、新卒採用でスキルゼロの大学生も雇用し教育します。たとえ、部署や事業部が統合・消滅しても解雇されることなく、他の部署に配置換えされ、OJTなどの研修を通し、新しいスキルを習得します。

メンバーシップ型雇用のメリット・デメリット

長らく日本企業では、このメンバーシップ型雇用が採用されています。多くのメリットがある反面、会社都合の転勤や異動、長時間労働になりやすいという問題点も存在します。

メリット①:安定した雇用

メンバーシップ型雇用は、職能ではなく人柄を重視した採用方針であり、部署や事業部が消滅しても会社が存続する限りは何かしらのポスト・役職に就くことができます。

メリット②:手厚い社員教育

会社に長く勤めてくれて、かつ社風に合った人材を採用する傾向が強いです。一つの分野だけでなく、幅広い分野を任せられるよう、徹底してOJTなどの研修で社員教育を行います。しかし近年は、終身雇用や年功序列制度が崩壊していることに加え、人手不足という状況から社員教育が成立していないケースも増えてきています。

デメリット①:会社都合の転勤・異動がある

雇用が安定している分、自由度は下がります。従業員は職に対してではなく、会社に所属しているため、会社都合の転勤・異動など望まない人事異動にも従わなければなりません。

デメリット②:残業時間が多い

職務が限定されていない分、有能な人材に仕事が集中し、残業が増えます。また、メンバーシップ型雇用では、先に採用してから仕事を割り振るため、自分にマッチした業務、得意領域の業務が与えられるとは限らず、生産性を下げる原因になってしまいます。

ジョブ型雇用が見直されている背景

なぜ、ジョブ型雇用に注目が集まっているのしょうか?そこには、「正規と非正規の格差是正」と「高度IT人材の不足」という背景があります。

正規と非正規の格差是正

正規社員と非正規社員では、未だ福利厚生や賃金の面で格差があり、問題となっています2020年4月からは、「同一労働同一賃金」が実施されます。これは、同じ仕事をする正規・非正規の待遇を同一にするもので、ジョブ型雇用はこの「同一労働同一賃金」と非常に親和性が高く、格差是正の一つの方法として期待されています。

高度IT人材の不足

2019年4月23日に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」によれば、AIやIoTに関わる人材、いわゆる高度IT人材は55万人不足し、それと同時に受託開発や保守運用を担う従来のIT人材は10万人余剰するといわれています。従来型のIT人材に対しての教育、または高度IT人材の採用の門戸を広げるなどしなければ、優秀なプロフェッショナル人材は国内で育たず、海外へ流出してしまいます。ジョブ型雇用を積極的に行うことで、高度IT人材は専門スキルを活用できる場が増え、国内外の優秀な人材を呼び込むことが可能となります。

 

<参照:「IT人材需給に関する調査」より>

 

ジョブ型雇用で働き方はどう変わる?導入メリットは?

もし、日本にジョブ型雇用が定着したら、働き方はどう変わっていくのでしょうか?

年齢・国籍・性別に依らない多様な人材が活躍

ジョブ型雇用は、人柄ではなくスキルや能力を重視するため、年齢・国籍・性別は問われません。下は20歳から上は70歳、80歳まで多様な人材が採用されます。「新卒社員だから」という言い訳も通用しなくなるでしょう。人柄を除外した純粋な自分のスキルや能力が測られるため、よりシビアな実力主義社会になります。スキルをつけようと努力する人は、メキメキと頭角を現します。成果を問われ、よりプレッシャーのかかる環境になりますが、裏を返せば、成果を出していて自分の仕事さえ終わっていれば、休暇や働き方は柔軟で自由です。

 

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生産性の向上

職種に適した人材を配置するため、人材教育や研修などを行わずに業務に取り組んでもらうことができます。従業員にとっては、自分が割り振られた役割や業務に専念できるため、生産性の向上が期待できます。

即戦力採用の促進につながる

ジョブ型雇用では、特定の職務や職種に応じた給与を設定できます。スキル要件や採用基準が明確であるため、活躍の場や成長機会を求める即戦力人材が集まりやすくなります。

雇用主と働き手の関係がフラットに

従来のメンバーシップ型雇用には、「雇い主>従業員」というパワーバランスが存在していました。それは、スキルゼロの社員を雇用して一人前になるまで育て上げたという借りを、社員が成果という形で返すという構図が出来上がっており、途中で退職することは、会社への恩義を忘れていると、後ろ指を刺される行為としてみなされます。

しかし、ジョブ型雇用に変われば、雇用主の労働力確保というニーズと、労働者のスキルや能力がマッチするフラットな契約関係です。 そのため、恩義などの貸し借りが存在しません。ある意味ドライな関係です。しかし、それは労働者からすれば非常に風通しがよく動きやすい労働環境でもあり、雇用主も人情に振り回されることなく、淡々と優秀な人材の採用・確保ができます。

「新卒」は存在が存在しない?ジョブ型雇用のデメリット・問題点

ジョブ型雇用には魅力的な面がたくさんありますが、反面、新卒採用が存在しない、雇用主が自由に解雇できる、成果主義などデメリットや問題点も存在します。

新卒採用が存在しない

ジョブ型雇用の場合、ポジションに欠員が出た時にしか採用が行われないため、実質新卒採用が存在せず即戦力採用になります。スキルゼロ、能力ゼロの人材が採用されるためには、自力で採用基準に見合うスキルや能力を習得しなければなりません。

雇用が安定していない/成果主義

職務記述書に基づいて職務が明確化されているものの、それは裏を返せば、その職務に関しての成果やスキルを求められるということであり、業績が悪かったり、成果が悪い場合は、解雇されることもあります。また、職務を持つ部署や事業部自体が解体・消滅になれば、契約終了になります。

ジョブ型雇用を導入している企業事例

最後に、ジョブ型雇用を導入している企業事例をご紹介します。

富士通

富士通では、2020年4月に幹部社員のみを対象にジョブ型雇用を実施していましたが、2022年4月からは、一般社員45,000人も対象となりました。職責の高さを表すグループグローバル共通の仕組み「FUJITSU Level」に基づき、報酬金額を決定するとしています。

日立製作所

日立では、2020年4月よりジョブ型雇用の実施を開始。一部のジョブを対象に、対象者のスキルや経験、職務などに応じた報酬金額を設定することを明らかにしています。事務職においても、職種別で採用を行うなど、より一層、幅広い職種でジョブ型雇用の推進を強化しています。

KDDI

KDDIが、2020年8月から実施したジョブ型人事制度は、従来の日本企業の人事制度とジョブ型雇用の長所をミックスしたものとなっています。初期配属領域が確定している「WILLコース」、初期配属領域が確定していない「OPENコース」の2つを自由に乗り入れることができ、スキルやキャリアの深化だけでなく、拡大・拡張も行うことができます。

まとめ

メンバーシップ型雇用という形は間違いなく変わり、より専門性の高いスキルや能力を求められるようになるでしょう。働き方が変わってからではなく、今から自分のスキルや知見を蓄え、来たる働き方の変革に備えましょう。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑
Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等