リモートワークが全国的に普及し、今注目を集めているのが「半農半X」です。半農半Xは、自分の小さな半径数mの暮らしを成立させる農業と、生きがいとする仕事のXをかけ合わせた言葉です。本記事では、この半農半Xの言葉の意味や魅力、始め方について解説します。

リモートワークの普及で、地方暮らしの価値が高まる

2019年に本格施行した「働き方改革」では、長時間労働の是正、時差出勤、テレワークなど、今までさまざまな施策がとられてきました。

総務省は、テレワークを働き方改革の大きな取り組みとして掲げ、2020年オリンピックに向けてテレワーク国民運動プロジェクト「テレワーク・デイズ」を始めました。これは、テレワーク普及促進を図るもので、「テレワーク・デイズ2019」には、2887の団体、およそ60万人以上の人が参加しました。

しかし、2020年にコロナウィルスにより緊急事態宣言が発令され、東京オリンピックは延期となりました。ただ、皮肉にも緊急事態宣言により、多くの企業が在宅勤務要請を出したため、テレワークの普及率が一気に高まりました。総務省の調査によれば、企業のテレワーク導入率の推移は2016年に13.3%、2018年には19.1%でした。

参考記事:第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0

しかし、コロナウィルス発生後に、パーソル総合研究所が行った緊急調査によれば、正社員のテレワーク率は、全国平均で27.9%、東京都は特に多く49.1%と突出して高い数値が出ています。ただし、非正規社員の実施率は17%と、まだまだ雇用形態で導入率に差があることがみてとれます。

参考記事:新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査|株式会社パーソル総合研究所

また、コロナウィルスの発生をきっかけとしてリモートワークが実現できたことと、都心部における人口密集のリスクなどの観点から、地方移住、二拠点生活を検討する方が増えてきています。 内閣府の調査によれば、テレワークを実践している4人に1人、特に20代を中心に地方移住へ関心を持っていることが明らかになっています。

参考記事:新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査|内閣府

テレワークの普及により、職住近接の魅力も薄れ、今後は仕事よりも暮らしを重視する人が増えることは間違いないでしょう。

半農半Xとは?

半農半Xとは、1994年頃に塩見直紀氏が提唱した生き方で、半分農業で食べていくための自給自足の生活を送りながら、もう半分で自分の好きなことややりたいこと、やりがいのある仕事をする生き方です。読み方は半農半X(はんのうはんえっくす)です。そしてコロナウィルスによる生活様式の変化で、また脚光を浴びてきています。近年は、さらに広い解釈として農と関わりながらおだやかに過ごす「農的暮らし」という言葉も使われています。

半農半Xと兼業農家の違い

兼業農家は農業以外の収入の柱を作る働き方で、半農半Xと比べるとあくまで収入面における意味合いが強く、そこにライフスタイルの意味合いは含まれていません。半農半Xは、農業で最低限の生活を保ち、かつ農業によって人間らしい生活を送り、そして自分が好きなことを仕事にする生き方です。Xには、家庭教師、バーテンダー、プログラマー、ゲストハウスマネージャーなど、さまざまな仕事が当てはまります。

半農で生活をつくり、半Xで好きなことを。広がる選択肢

半農半Xの暮らしの核は、収入を得るためのライスワークから脱却し、農業を通じて自分や家族などの生活に必要な食糧を自給し、もうひとつのXで自分のやりたいことや好きな仕事を追求することです。

そのため、Xにはさまざまな選択肢があります。保育士をする方もいれば、エステティシャン、ダイバー、ケーキ職人、バーテンダー、ライターなど実践されている方の職業もバラエティに富んでいます。

企業に勤めて多くの収入を得られたとしても、朝早く満員電車に揺られながら出勤し、残業で帰りは遅く、休日は平日に溜まったストレスを晴らすかのように、自分の趣味や家族との時間であっという間。いつも時間に追われている、そんな方も多く見受けられます。

しかし、農業ができる郊外または地方に移り住み、自給自足、そして自分が楽しいと思える仕事をすることで、たとえ以前よりも収入が少なくても、非常に豊かで穏やかな暮らしができるようになります。

半農半Xの魅力

半農半Xには、生活が豊かになるだけでなく、生活費が抑えられたり食物を作る喜びを通してクリエイティブな心を育むことができるなど、さまざまなメリットや魅力にあふれています。

生活コストが抑えられる

東京では、一人暮らしの物件で家賃が70,000円、都心部になればさらに値段は上がります。これに加えて光熱費や食費、車を所有している場合は維持費や駐車場代がかかります。しかし、地方移住して半農半Xのライフスタイルにすれば、家賃は空き家物件を活用すれば、月に2~3万円で畑や駐車場付きの一戸建てを借りることができます。地方は人が少なくなっているため、補助金・助成金などの制度も使えば、初期費用も抑えながら移住することができます。また自給自足のため、生活費もさほど気にすることなく、自分の好きなことややりたいことに専念できます。

クリエイティブな心を養える

自分で農地を耕し作物を育てます。都心部にいると、娯楽にあふれて消費するクリエイティブに目が行きがちです。田舎暮らしは、けっして娯楽にあふれているわけではありません。むしろ自ら娯楽と思えるものを作ることが求められます。慣れないうちは、それがストレスになるかもしれませんが、作る喜びや楽しみはかけがえのない価値や時間を生んでくれます。

家族との時間を大事にできる

家族と手伝いながら、農地を耕し作物を育てていく。残業続きで家族との時間を作れなかった都心の生活から、農業を通して人間らしい豊かな暮らしを作れます。

半農半Xの始め方

では、具体的に半農半Xはどのように始めればよいのでしょうか。独立就農をするステップを簡単にご紹介します。

新規就農相談センターに行く

新規就農相談センターは、就農相談だけでなく独立就農したい人も相談できる公的機関です。各都道府県に設置されています。就農情報や農業体験情報、求人情報など、農業に関するあらゆる情報を取得できます。

農業体験に参加する

まず、農業について知るために農業体験に参加してみましょう。農業法人が提供しているケースが多いですが、国や地方自治体が独自で募集していることもあります。情報は、新規就農相談センターでも取得することができます。 日本農業法人協会が運営している「農業インターンシップ」、専修学校 日本農業実践学園が実施している「チャレンジ・ザ 農業体験」などがおすすめです。

補助金・助成金を活用する

新規就農する際には、資金が必要になります。国や地方自治体では、就農者を増やす、育成するために、補助金・助成金制度を設けています。

農業次世代人材投資資金

農業次世代人材投資資金は、45歳未満でかつ農業法人または農業大学校などが主催する指定の研修を受けている新規農業経営者を対象に交付される補助金です。経営開始型の場合は最長で5年間、居住の都道府県から年間で最大150万円を、経営準備型の場合は最長2年間で年間最大150万円が交付されます。 ただし、就農後5年以内に認定農業者又は認定新規就農者にならなかった場合、交付から1年以内に49歳以下で独立就農または雇用就農しなかった場合は、返還の対象となります。

認定新規就農者制度

就農前に計画書の提出、18歳以上45歳未満就農することが決まっていることが条件ではありますが、認定新規就農者制度をクリアすれば農業次世代人材投資資金が受けられるほか、上限が3700万円(条件を満たせば1億円まで)の無利子融資「青年等就農資金」、農業用機会の導入費用の支援金である「経営体育成支援事業」を受けられます。

半農半X支援事業

新規就農者に対して補助や助成を行う制度を設けている地方自治体もあります。例えば、島根県では半農半Xを応援する「半農半X支援事業」を行っています。「半農半X支援事業」では、定住に必要となる経費「定住定着助成」を最長1年間、1ヶ月あたり12万円、就農に必要となる経費「就農前研修経費助成」を最長1年間、1ヶ月あたり12万円を助成する制度です。

農地を借りる・購入する

農地を借りる・購入する場合、居住地域の行政機関に申請を行い許可を受ける必要があります。手続きとしては「農地検索サービス」で農地を探し、売却主と価格交渉を経て行政手続きに入ります。審査が完了すれば、借りる・購入することができます。近年は、農地付き(菜園付き)物件も売られていることがあるので、物件検索サイトも合わせてチェックしてみましょう。

半農半Xの実践事例

山田さん夫妻

2人とも教師、企業勤めをするフルタイマー。半農半Xに興味を持ち、まずお試しに田んぼを借りてミニマムでスタートしたそうです。その後、平日は浦安、週末は山梨県都留市と週末移住へシフト。山梨県の物件は、半年かけて探して空き家を購入、リノベしたのち現在は家のそばに田んぼを借りて、本格的な週末半農半Xスタイルになりました。

https://agri.mynavi.jp/2018_08_19_36307/

大森誠さん

IT企業に勤務していましたが、パートナーの実家が埼玉県所沢で農家をやっており、義父が病気で倒れたのを機に農業の手伝いをするようになったそうです。。それをきっかけに農業の魅力に取りつかれ、現在は週3回会社員、週2回農家として半農半Xを実践されています。

https://agri.mynavi.jp/2017_08_20_3735/

 

まとめ

半農半Xというライフスタイルは、リモートワーク、地方移住の延長線上にある、より人間らしく暮らせる生き方です。今後リモートワークが一般的になれば、半農半Xのように仕事を中心に住まいを考えるのではなく、暮らし方を中心に住まいを考える人は増えていくでしょう。ぜひ、本日の内容を参考にしてみてください。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等