「ダウンシフト」という言葉を聞いた事はありますか?ウィズコロナで一人ひとりの大切にしたいものや優先順位が変化を遂げる昨今、じわじわと注目され始めています。本記事では、「ダウンシフト」というライフスタイルの魅力、メリット・デメリットについてわかりやすく解説いたします。

ダウンシフトとは?

「ダウンシフト(downshift)」を直訳すると、より低く(=down)、切り替える(=shift)という意味です。ここでは、車のギアを1段下げて減速することになぞらえて、「生活のペースを落とす」ことを意味します。具体的には、働き詰めの毎日から思い切ってギアを落とし、自分の好きなことに費やす時間を作り、ゆったりとした無理のない生活を送るライフスタイルのことを指します。

もともとダウンシフトという概念は、アメリカが発祥といわれています。仮に年収が半分になったとしても、その分残業や休日出勤からは解放され、趣味や家族との時間をゆっくり楽しめる。そんな生活の素晴らしさに気づいた人を中心にこの考えは広まりました。無理をして生活を切り詰めるのではなく、あくまでも自分の意思で労働時間や競争社会から抜け出し、自分の身の丈にあった収入の中でゆとりをもちシンプルに生きていけることが一つのポイントとなります。

アーリーリタイアやセミリタイアとの違い

アーリーリタイアは、「定年を待たずに早期に仕事を退職し、貯蓄などで悠々自適に過ごす生活」を指します。セミリタイアは、完全に社会と断絶はしないまでも、自分の自由な時間を確保する生き方を指しており、少し類似していますが、ダウンシフトには「現役を退く」というニュアンスは含まれません。

仕事にかける割合を減らし、自分の好きなことや家族のための時間に使う時期もあれば、またギアを上げて仕事の比重を増やす時期もあります。あくまでも「比重の移動」が核となっています。

ダウンシフトが注目される背景

では、ダウンシフトという考え方がこうして注目されてきたのにはどのような背景があるのでしょうか?

終身雇用の崩壊

その大きな理由の1つに、長年培われてきた「終身雇用」の崩壊があります。一昔前まで、日本企業では常識だった終身雇用ですが、今の労働市場を見てみると、年々減り続ける正規雇用の数、目まぐるしく変化する、いわゆるVUCAのビジネス環境で、もはや「終身雇用だから一生安泰」という考え方は薄れつつあります。身を削って長時間働き続け、稼いでも終わりの見えない安定しない雇用体制。1つの会社に正社員で居続けるという一昔前の「安定」ではなく、世の中の変化の波に順応することが求められる時代になってきています。

関連記事:VUCA(ブーカ)の意味とは?|激変する時代を生き抜く組織のあり方・働き方

人生100年時代を見据えた生き方の見直し

日々発達する医療制度や生活環境によって、寿命は更に伸び続けるとされており、「人生100年時代」が到来すると言われています。定年まで働いたとして、リタイアしてからの余生はあと40年程も残ることになります。そんな長い人生を生き抜くには、若いころに寝食忘れてがむしゃらに働き続けるだけではなく、若いからこそスピードを落としゆとりをもって生きてみる時期、そしてアクセスをかける時期、そんなメリハリを作ることが大事になってきます。 マラソンでも最初に全速力で走り出してしまっては、終盤にかけてスピードが遅くなってきてしまいます。そうではなく、若いうちから体力を温存し健康を維持し、長く細く走り続ける、長距離マラソンのような生き方・働き方がこれからの時代を生き抜く上で重要になります。

マラソンでも最初に全速力で走り出してしまっては、終盤にかけてスピードが遅くなってきてしまいます。そうではなく、若いうちから体力を温存し健康を維持し、長く細く走り続ける、長距離マラソンのような生き方・働き方がこれからの時代を生き抜く上で重要になります。

セーフティーネットの充実

ITの発達により、サブスクリプションサービス、シェアリングエコノミーサービスなど、今までは考えられない便利なサービスが次々と登場しています。 例えば、月額費用(月数万円・光熱費込み)を払えば、提携の物件に住み放題できるADDress(アドレス)HafH(ハフ)のような「コリビングサービス」、他にも、仕事の受発注がオンライン上で行うことができるランサーズやクラウドワークスなどの「クラウドソーシングサービス」など、こういったサービスを活用することで、年収を落とすという選択肢を取るハードルが下がってきています。

ダウンシフターになるための方法・手段

では、具体的に「ダウンシフター」になるためにはどのような方法があるのでしょうか?いくつかその例を見ていきましょう。

ミニマリスト

ミニマリストとはその名の通り「最低限=(ミニマム)」な暮らしをする人のこと。その基本は「ものを持たず、最低限のもので暮らすこと」です。今の自分にとって本当に必要なものだけに絞り込み、最低限のものだけで暮らす、という考え方はまさにダウンシフトと通じる部分があります。

自給自足/半農半X

「半農半X」とは、半分は農業で自分や家族の食べるものを自給自足し、残りの半分「X」、で自分の好きなことややりたいことをして暮らすライフスタイルです。Xに入るものは人それぞれで異なり、半農半ライターや半農半翻訳など様々。ポイントは、食べるものは自給自足で補えるため、収入が減っても好きなことをする時間を増やしても無理なく暮らしていける点です。

関連記事:半農半Xとは?より人間らしいおだやかな暮らし方|実践事例もご紹介

アドレスホッパー

アドレスホッパーとは、住む場所に縛られず、特定の住所も持たず、色々な拠点を移動しつつ暮らすライフスタイルのこと。家やモノなどを極力減らして身軽になることで、人や場所との出会いが生まれます。

関連記事:アドレスホッパーという”定住しない暮らし方”|住所や税金はどうするの?

ポートフォリオワーカー

「ポートフォリオ=たくさんの書類をまとめるファイル」という名前からもわかるように、複数の仕事を組み合わせて働く働き方です。複数の仕事をかけ持つことで自分の仕事のオリジナリティを出すことができたり、収入減を分散できたりすることで1つの仕事に収入を依存することなく、不測の事態にも対応できるというメリットもあります。

関連記事:ポートフォリオワーカーとは|複数の仕事を持ちながら、変化にしなやかに対応していく働き方

ダウンシフトで得られるメリット・デメリット

まず最大のメリットは、何よりも「自由な時間」が得られることです。どうしてもお金をたくさん稼ぐことを重視して、寝食の時間を削って長時間労働しがちな人が多くなってしまう現代社会。仕事の時間を減らすことで、農業や小さなカフェを始めるなど、自分がやりたいことのための「自由な時間」を作ることができます。もちろんその分収入は減りますが、好きなことができる豊かさ、自分らしくいられる時間が増えることがダウンシフトの大きな醍醐味でしょう。

逆にデメリットは、収入が減り、生活のレベルが低下する可能性が大きいことです。例えば家賃を今までよりも抑える必要があったり、日々の食材や日用品、服など、そこにかける金額の自由度は少し下がるかもしれません。収入が減る分、全体の生活費を下げていく工夫が必要となります。

ダウンシフトに向いている人・向いていない人

ダウンシフトという生き方は魅力的ですが、人によって向き不向きがあります。では、ダウンシフトに向いている人はどのような人なのでしょうか?

まず、「贅沢しなくていいから自分の好きなことに時間をつかって無理せず暮らしたい」のように、お金 < 時間、という価値観を持っている人には合ったライフスタイルです。誤解されがちですが、この生き方は決して生活レベルを下げて金銭的に貧しく暮らすことではありません。収入を下げてでも、自分の自由な時間を増やして、おだやかに暮らすことが大きな目的となります。

いわゆる、マイホームを建てる、年収を上げていくという一般的な路線から外れた生き方になるので、ロールモデルが少ないのが現状です。手探りで、ライフスタイルを作っていける好奇心とチャレンジ精神が必要です。

そのため、生活に安定を求めたい、失敗するのが怖い、このままでも自分は十分幸せというタイプの人には、ダウンシフトはあまり向いていないかもしれません。また、お金を使って、生活の質を向上させることを目指している人には、むしろストレスのかかるライフスタイルになるかもしれません。

ダウンシフトの実践事例

ここでは、先陣を切ってダウンシフトを始めているダウンシフターの事例をご紹介します。 『減速して自由に生きる −ダウンシフターズ−』などの著書でも知られる髙坂勝さんは、仕事の心労のために30歳で仕事を辞め、Organic Bar [ たまにはTSUKIでも眺めましょ]を運営しつつ週の半分は農業を営むという、まさに半農半Xの暮らしを実践されていました。今はお店を閉め、NPO SOSA PROJECTで農作業や里山活動をされています。会社員時代よりも収入は少ないけれど、今のこの暮らし方が幸せと話す髙坂さんの笑顔がとても印象的です。

まとめ

不必要なものは手放し、競争社会からあえて離れ、最低限の収入でも好きなことに時間を使って暮らす「ダウンシフト」という新時代の生き方。ものやお金をたくさん持っていればそれで幸せ、という概念はもう崩れてきており、これからは何が豊かな暮らしなのか、人それぞれ多様な選択肢が増えていくことでしょう。

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑
Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等