IT技術や医療技術の進歩により、世界全体の寿命は年々伸び続け、「人生100年時代」と言われるようになりました。このように、長寿化すれば今までは当たり前だった社会通念や価値観は変わっていき、より多様で新しいライフスタイルが誕生していくことでしょう。

ポートフォリオワーカーとは、複数の仕事を組み合わせて働く働き方で、「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」という本で言及されたことから、注目されるようになりました。

本記事では、ポートフォリオワーカーという働き方やメリット、問題点について解説いたします。

人生100年時代、どう生きる?

日本における寿命の変化

経済の発展、IT技術や医療技術の進歩により、日本の寿命は年々伸びています。生命保険などの保険料試算にも使われる「完全生命表」によれば、1891年頃の平均余命は40代でしたが、高度経済成長期下である1954年頃から63歳と急激に伸び率が上がっているのがデータから読み取れます。

参照:第 22 回生命表(完全生命表)の概況|厚生労働省

また、2018年の平均寿命は、男性が81.25歳、女性が87.32歳で男女ともに過去最高値を記録しています。これほどに長寿化が進んでいるのには、日本の医療水準が高いこと、それに加え社会保障制度によって安く医療サービスを受けられることで、未然に重大な病気を発見し、治療できることが背景にあると考えられます。

世界の寿命の変化

年次報告書「世界保健統計」によれば、2016年生まれの子どもの平均寿命は72歳、男性は69.8歳、女性は74.2歳とされています。ただし、先進国など高所得国は80.8歳であるのに対し、低取得国は62.7歳で大きな乖離が見られます。

このように、乖離が起こっている背景には、依然として低所得国に山積している、医療技術の未発達、低所得による栄養失調または免疫力低下、衛生状態の劣悪な環境によって起こるエイズやマラリア、デング熱などの感染症の課題が挙げられます。

「人生100年時代」に向けた政策

2017年、厚生労働省は「人生100年時代構想会議」を設置しました。2018年6月に「人生100年時代構想会議」によって作られた「人づくり革命 基本構想」では、人生100年時代を見据え、幼児教育の無償化、待機児童の解消、介護業界の待遇改善、リカレント教育、シニア層雇用促進・人材活用の実施を掲げています。

 

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「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」で語られている新しい3つのステージとは?

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)は、イギリスの組織論学者であるリンダ・グラットン氏が100歳まで生きることを前提とした生き方、働き方について執筆した著書で、2018年には32万部を突破するベストセラーとして世界的に注目されています。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)では、世界的な長寿化・高齢化に伴い、従来の学習・仕事・余暇という3ステージではなく、個人が柔軟に作り出せる「マルチステージ」を生きることが前提になると予測しています。

このうち、今後新しく登場するステージとして、

  • エクスプローラー(Explorer)…自分のライフスタイルを見直す期間、学び直す期間
  • インディペンデント・プロデューサー(Independent producer)…組織にとらわれず、会社を興すまたはフリーランスとして生計を立てる
  • ポートフォリオワーカー(Portfolio worker)…複数の仕事を組み合わせて働く働き方

の3つを取り上げていました。

本書では、この3つのステージに順番はなく、人脈の再構築のために、エクスプローラーやインディペンデント・プロデューサーのステージに入ったり、新しいスキルの習得のために、ポートフォリオワーカー(Portfolio worker)のステージに入ったりなど、自分のキャリアプランや時代の変化に合わせて、適切なステージを選択できるようになります。

ポートフォリオとは?

ポートフォリオワーカーの前に、ポートフォリオという言葉の解説をします。ポートフォリオとは、複数の書類をひとまとめにした書類入れのことを指します。そこから派生して、金融業界では、「複数の投資商品の一覧や組み合わせ内容」を、クリエイティブ業界では。「過去の制作実績や経歴をひとまとめにした書類やWebサイト」を指します。

ポートフォリオワーカーって?

ポートフォリオワーカーとは、複数の仕事を組み合わせて働く働き方です。VUCAと呼ばれる変化の激しい時代においては、一つの業界が生まれ、コモディティ化するまでのタイムスパンが短くなり、スペシャリストとして生きるのではなく、変化に合わせて、持っているスキルを組み合わせる、または仕事をスイッチングしながら働くスキルが必要不可欠になります。

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ポートフォリオワーカーとパラレルワーカーの違い

ポートフォリオワーカーとパラレルワーカーの定義はほぼ同じです。ポートフォリオワーカーは、生き方、ライフステージという観点が重要視されているため、パラレルワーカーと比べると、もう少し広義的な言葉として使われることが多いです。

 

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ポートフォリオワーカーを実践するメリット

独自化・差別化できる

複数の仕事を持ちながら、それを選べるだけでなく、掛け合わせて唯一無二の価値を生む仕事を作り出すこともできます。常に激しい変化にさらされる中で、自分しか生み出せない、自分ならではの価値を作り出せれば、差別化だけでなく独自化させることもできます。

攻めの姿勢が保てる

一つの仕事に依存してしまうと、保守的になり新しいことにチャレンジする気概が持てません。変化の激しい時代では、あっという間に自分のスキル・価値観の使用期限は切れて、こまめにアップデートすることが求められます。 複数の仕事を持つことで「また別の仕事でチャレンジすればいい」と割り切れるようになり、チャレンジ精神が磨かれていきます。

収入源(キャッシュポイント)を分散できる

1つの仕事だけに依存していると、その業界や会社、職種に価値がなくなるとき、または競合が増えてレッドオーシャンになったとき、収入がゼロになるリスクが高いです。しかし、複数の仕事を掛け持っていれば、別の仕事に乗り換えていくことで、リスクを最小化することができます。

ポートフォリオワーカーの問題点

一方、現状でポートフォリオワーカーを目指そうとしたときに、いくつか問題も存在します。まず、従業員の目線から見た問題点は、スキルやキャリアが未成熟になるリスクです。さまざまなことにチャレンジしたい思いはあるものの、気持ちだけが先行し、全ての仕事が中途半端になり、スキルやキャリアが磨かれないという状況になることもあります。

次に組織・企業目線から見た問題点は、情報漏えいのリスクです。情報漏えいのリスクは、ポートフォリオワーカーだけでなく、パラレルワーカー、テレワークなど、組織にとらわれない個を中心とした働き方を考えたときに必ず議題に挙がる課題の一つです。

ここに関しては、時代とともに超高性能なセキュリティ対策ソフトや、データを物理的に持ち出さない「リモートデスクトップ方式」など、オフィス以外の場所で働く場合におけるIT管理ツールを活用することが必要不可欠です。

 

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ポートフォリオワーカーに必要なスキル・能力

ポートフォリオワーカーに求められるスキルや能力は、大きく「タイムマネジメント能力」「価値を見出す力」「時代を先読みできる力」の3つに分けられます。

タイムマネジメント能力

複数の仕事を掛け持ちしていくには、タイムマネジメント能力が必須です。いかに、無駄な時間を削減し、最大効率で複数の仕事をこなせるのか。仕事だけでなく、プライベートもおろそかにならぬよう、余裕を持ったプランニング、健康を意識した生活習慣の設計などが重要になります。

価値を見出す力

ポートフォリオワーカーは、ただ並行して(パラレル)複数の仕事をこなすのではなく、ときには掛け合わせて、独自の仕事を生み出すこともまた特徴の一つです。これをするには、他の人がまだ発見していない埋もれている価値を見出す力、発想力(クリエイティビティ)が重要です。

時代を先読みできる力

ポートフォリオワーカーに限った話ではありませんが、時代の荒波に上手く乗って生きていくためには、「この業界・職種が淘汰されるときはどんなときか」反対に「この業界に再注目が集まる時はどんなときか」など、少し先の時代の動きを読める力が重要です。

 

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まとめ

働き方改革により、徐々に就社型から、いわゆる個を主体とするプロジェクト型の働き方に変化しています。そうなったときに大事なのが、変化にしなやかに対応できるポートフォリオワーカーのような働き方や考え方です。 まずはボランティアやプロボノという形から、少しずつはじめてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑
Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等