経済紙やニュースで取り上げられることの多いグローバル化や少子高齢化。これらに対処するための方策としてダイバーシティ経営という戦略があります。本記事ではダイバーシティ経営のその概要やリット・デメリットについて解説します。

ダイバーシティ経営の意味とは?

ダイバーシティ経営とは、「組織内の多種多様な人材を活かすことで、企業の持続的な成長と優位性を構築する戦略」です。今のビジネス市場は、グローバル化や技術の発展などさまざまな要因により、めまぐるしく変化し続けています。ダイバーシティ経営は、この変化に柔軟に対応できる経営手法の一つとして考えられています。

では、ダイバーシティ経営の認知や実際の導入は、どのくらい進んでいるのでしょうか?

「エン・ジャパン」が1万人を対象に実施したアンケートによれば、ダイバーシティという言葉について「意味を知らない」と7割が答えたものの、その目指すところについては9割が「ポジティブ」に捉えているようです。

また、「積極的に自社が取り組んでいる」と感じているのは14%に留まっています。取り組み内容としては、『女性の採用・活躍支援』が最も多く、『LGBTの採用・活躍支援』が最も低い結果になりました。

参照:エン転職「ダイバーシティに関するアンケート」

ダイバーシティとインクルージョン

ダイバーシティとは、人種や性別など外見的な違いから価値観や嗜好など内面的な違いまで、人々の持つ様々な背景の違いのことを言います。インクルージョンとは、それらの「違い」を認め、受け入れて、積極的に活かしていこうとする考え方で、「ダイバーシティ&インクルージョン」というように使われます。多様な人材がそれぞれの特性や能力を活かし、活躍できるような社会を目指します。

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ダイバーシティ経営の特徴

ダイバーシティ経営には、以下の3つの特徴があります。

1.個人の違いを強みとする

能力の高さそのものではなく、各人の違いや個性を活かし相互補完的に機能することで価値を発揮できるようにします。

2.違いを尊重する

人は類似の性質を持った人間に安心感を覚えるため、似たような人間を中心に集団を形成しがちです。 同質性の高い集団の中でイノベーティブなアイデアは生まれにくく、企業の発展のためには「違い」を受け入れ、尊重し合うことがカギとなります。

3.属性に囚われることなく成果で評価する

公正な評価がされない環境では前例を覆すようなアイデアは出ません。そうならないためにも、性別や肩書きなどの要素に囚われることなく、会社にもたらした成果を中心に評価が行われるようにします。

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ダイバーシティ経営を促進すべき理由

では、ダイバーシティー経営を促進すべき理由は何でしょうか?
それは、日本国内に存在する以下のような課題を解決する糸口となるためです。

・必要な労働力の確保

少子高齢化の影響により、生産年齢人口(15歳以上~65歳未満)はますます減少しています。2010年には8,000万人以上いましたが、2030年には約7,000万人を割り込むと予想されています。

 

参照:内閣府「令和元年版高齢社会白書(全体版PDF)」2019年

・価値観の多様化

個人のニーズや価値観は多様化し、世の中にはさまざまな物やサービスで溢れかえっています。このカオス的市場環境はVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとってVUCA(ブーカ)と呼ばれています。

このように不確実かつ変化の早い世の中に順応するには、従業員や会社全体の意識を変えていく必要があります。その実現には様々な価値観を持つ人材が必要不可欠になるでしょう。

>>>>VUCAについてはこちらの記事を参考に

VUCA(ブーカ)の意味とは?|激変する時代を生き抜く組織のあり方・働き方

・グローバル化による外国人労働者の増加

2016年時点では、届け出のある外国人労働者人口は約108万人でしたが、2018年には約146万人と2015年から継続して過去最高記録を更新しています。

参照:厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成30年10月末現在) 』2019年1月

外国人労働者の違いを強みとして受け入れ、新たな価値を生み出す土壌を整える必要があります。

ダイバーシティ経営のメリット・デメリット

ダイバーシティ経営のメリット

ダイバーシティ経営について理解が深まったところで、この戦略を進めるメリットを考えていきましょう。

・人材の確保、雇用拡大

少子高齢化により、これまでのように国内労働者のみで充分な労働力を確保することは難しくなります。高齢者、障がい者、外国人も含めた人材を受け入れ、ダイバーシティ経営を推進することで、不足分の労働力を補うことができます。

 

関連記事:出戻り社員は嫌われるのか?採用するメリット・デメリットについて

・ビジネスチャンスの拡大

様々なスキルや視点を持つ人材が集まることで、独自の着想を得て優位性の高い商品やサービスを作るチャンスが広がります。

・コミットメントの強化

企業と従業員との心理的な距離が縮まることで、組織に受け入れられているという安心感・信頼感が生まれます。その結果、仕事に対してより強いコミットメントを持って取り組むようになります。

 

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・従業員の成長

ダイバーシティ経営により、人材の多様化が進むことで、多様なタイプの人間と接する機会が増えます。お互いの価値観や意見を、ときには衝突させながら意見を交わす過程で、社員個々の視野や考え方の裾野が広がり、成長が促されます。

ダイバーシティ経営のデメリット・課題

ダイバーシティ経営には大きなメリットがありますが、一方で導入にあたってデメリットや課題も存在します。

・ミスコミュニケーションの増加

多様な人材を雇用することは、「違い」による衝突リスクも大きくなります。また、悪意はなくとも先入観から仕事の割り振りなどで不要な気遣いをしてしまい、管理者と従業員ですれ違いが生じることも考えられます。

・組織やチーム運営の混乱

働き方が多様化することで、同じ時間帯・場所で働くことが減り、これまでと同じようにチームワークや連携をとることが難しくなります。

・人事評価の複雑化による不満発生リスクの増加

多様な人事評価を求めるあまり、誰もが納得いく評価をすることが難しく、従業員の不満や離職につながる可能性が出てきます。

ダイバーシティ経営の進め方

メリットを踏まえたところで、具体的な進め方について解説します。
以下、4ステップにまとめました。

ダイバーシティ経営の4ステップ

1.経営方針を固める

ダイバーシティ経営では、多様な人材が集まることで今までにない革新的な発想が生まれますが、その一方で軋轢も生じます。解決に向けてどのように考え行動すべきなのか議論できるよう、理念と具体的な行動指針を経営方針として固めます。

2.人事制度・人材登用

多様な人材を活用する場合、一律の評価制度・人事制度では機能しません。評価の不公平性が生じないよう、あらかじめ評価ポイントを明確に提示します。多様な意見を取り入れるためにも、重要案件などへの登用をマイノリティ人材から積極的に行います。登用後に充分なフォロー(経験不足を補う研修など)をすることで、能力を充分に発揮できる環境を整えていきます。

3.ダイバーシティ促進の勤務環境・体制整備

障がい者など合理的な配慮が必要な従業員には、バリアフリー化など職場の整備を行います。勤務時間や通勤自体に制約がある人材でも意欲を持って能力を発揮できるよう、フレックスタイム制やテレワークなど、個々の事情に合わせた柔軟な働き方を導入します。

 

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4.従業員の意識改革・能力開発

違いを活かすためにも、従業員(特に現場を指揮するマネジメント層)の意識改革が必要となります。加えて、マイノリティ人材がマジョリティの中でも活躍できるよう、メンター制度を通じたノウハウ提供やOJT以外のスキルアップ支援を積極的に行います。

ダイバーシティ経営を導入する3つのポイント・注意点

マイノリティ人材の管理者登用数など形だけではダイバーシティ経営を成功させることはできません。成功させるには以下の3つのポイントを意識する必要があります。

1.現状把握と目標の明確化

ダイバーシティ経営では、性別・国籍などの属性で従業員をカテゴライズし、割合や離職率・昇進ペースなどを可視化します。このように現状を把握することで、従業員数の推移を予測し、属性別の具体的な採用人数を決めるなど明確な数値目標を設定します。

 

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2.全体への影響を考慮した施策

特定層の従業員を活用するなどの施策を行う際は、それによる周囲への影響やコストを考慮し、歪みが生じないようフォローします。一部だけに注目するのではなく、全社的に見て組織力が向上する施策となるよう配慮することが重要です。

3.充分な効果測定と改善

ダイバーシティ経営を実行したら、従業員の活用ができているか、全社的に組織力が向上しているかの2点について効果測定を行います。その際に従業員アンケートもあわせて行うと、経営データに加えて現場の声を織り交ぜられるようになり、最適な施策を出すことができます。

ダイバーシティ経営を導入し、労働力不足を解決

少子高齢化に伴う労働力不足という深刻な問題が差し迫る日本においては、特にダイバーシティ経営はスタンダードな経営方針として浸透していくと思われます。

今後の展望としては、各企業は記事で紹介したメリットや導入ポイント、懸念点を踏まえつつ、事業内容や各組織の目指す方向性によって最適な「多様性」の形を探していく必要があるでしょう。


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この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等