感情労働とは、感情の表現やコントロールによって価値提供を行う仕事のことを言います。
「肉体労働」や「頭脳労働」と並び、第三の労働のあり方として、近年注目を集めています。本記事では、感情労働の意味や特徴などについて解説します。

 

感情労働の定義や意味とは?

感情労働とは、1983年にアメリカのボストン生まれの社会学者であるアーリー・ラッセル・ホックシールド氏によって提唱された概念で、ホックシールド氏の定義では「公的に観察可能な表情と身体的表現を作るために行う感情の管理」となります。

噛み砕いて説明すると、自分の感情をコントロールすることで、報酬などの対価を得る労働を指します。自身の体を使って対価を得る「肉体労働」や、知能を使った対価を得る「頭脳労働」と対比される形でよく用いられます。

従来は、「頭脳労働」と混同して認識されていましたが、サービス業の普及により、少しずつ感情面への負荷がかかる「感情労働」と「頭脳労働」を区別して考えることへの理解が進みました。

感情労働と頭脳労働の違い

頭脳労働とは、己の知識や思考などを活用し、対価を得る働き方です。ホワイトカラーとも呼ばれます。具体的には、経理、事務、コンサルタント、人事、また専門知識を必要とする医師、弁護士、会計士なども当てはまります。

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従来は、感情労働も頭脳労働と同じ定義とされていましたが、サービス業の普及により、感情が大きく仕事へ影響を与えることへの理解が高まり、今では別物として考えられています。

感情労働と肉体労働の違い

肉体労働とは自身の肉体を使って対価を得る働き方です。ブルーカラーとも。具体的には、製造業、建設業、農林業、漁業などが当てはまります。接客業は肉体労働に分類されますが、感情のコントロールを伴うため、感情労働にも該当します。

感情労働の特徴

ここでは、感情労働の特徴について解説します。感情労働には大きく以下の3つの特徴があります。

過程の同時性

過程そのものが結果になる状態を指します。飲食店の接客を例に挙げると、接客のゴールはお客様が満足してお店を後にすることですが、大切なのはそのプロセスです。オーダーを聞き間違えたり、料理を配膳する際にそっけない態度だったりすると、その接客対応がそのまま結果に直結します。このようにプロセスと結果が一体になっているため、常に緊張・ストレスがかかることになります。

結果の不確定性

感情労働をする人が対峙するクライアントやお客様も、また感情があります。Web広告であれば、クリック数やCVなどの成果を測ることができますが、人の心は変化するため、結果は常に不確実なものとなります。

人格の不可分性

感情労働に代表される飲食店や小売などの接客業、看護師・介護士などの医療従事者を見ても、サービスの根幹を握るのは、人の魅力そのものといえます。仕事上の人格とプライベートの人格を切り離して考えることもできますが、接客スキルとは印象、表情、言動など要素で構成されるものであり、良い評価、悪い評価ともに、人格に大きな影響をもたらすのです。

なぜ、感情労働が注目されているのか?

なぜ、感情労働というワードが注目されているのでしょうか?そこには、大きく「AIの台頭」「消費行動の変化」の2つの要因が挙げられます。

AIの台頭

AIの台頭によって、今まで以上に我々の生活は快適になりました。iPhoneなどに搭載されている「Siri」や、自動温度調節ができるエアコンなど、身近なところでも、AIの利便性を感じられるようになりつつあります。

 

しかし、その一方で、「AIが仕事を奪う」といったトピックもしばしば目にします。ことの発端は、2013年にオックスフォード大学が行った研究で発表された「米国において10〜20年以内に労働人口の47%が機械に代替されるリスクが70%以上」とされています。これは、非常に行きすぎた結論だとしても、20年後に今の仕事が存在している、またはAIに代替されていない保証はありません。可能性として決して低くはないでしょう。

 

特に、単純作業に関しては、コストメリットが高い分野から早々にAIへの代替が始まると予測されます。そこで重要なのが感情労働です。頭脳労働に関しても、今すぐではありませんが、データが蓄積していけば、やがて人類をはるかに超越した形で、機械への代替が可能となります。しかし、感情は代替できません。感情はその人に主体があり、変化し続けているものだからです。

消費行動の変化

インターネットの発展によって、消費者がより多くの情報を手早く獲得できるようになりました。スペックや価格だけでなく、体験や経験を含めた価値、いわゆる「コト消費」を求めるようになっています。

例えば、飲食店であれば、おいしさだけでなく、店内の雰囲気やスタッフの接客品質を総合的に判断し、お店の評価を決めます。感情労働は、まさに人へ上質な体験を提供するために必要不可欠な要素であり、AIにも代替できない価値のある分野となります。

感情労働の具体例は?必要な職種・仕事

それでは、感情労働はどのような職種や仕事が、具体的に該当するのでしょうか?

医療・福祉(看護師・介護士・医師)

もっとも、感情労働で代表的なのが医療・福祉で働く人々です。提供するものが、飲食店や小売のように、実態のあるものではなく、医療や介護の力で苦痛や悲しみなどをケアする仕事になるため、自らの感情のコントロールがそのまま提供サービスの品質に直結します。よく病院を変える理由として、「寄り添ってくれない」「話を聞いてくれない」という言葉をを聞きますが、まさにこの不満は、感情的なニーズによるものです。

接客業・サービス業(飲食・小売など)

医療や福祉の現場の次に、感情のコントロールが提供価値に直結するのが飲食・小売などの接客業です。前述したように、コト消費が重要視されている昨今においては、味や安さだけでは消費者の心をつかむことはできません。丁寧で心のこもった接客をすることで、初めて評価がなされるのです。

経営者

意外かもしれませんが、経営者も感情労働に含まれます。マネジメント業務の大半を占めるのは人材マネジメントです。人材なくして会社は回りません。尊敬されるリーダー、カリスマ、器の大きいという言葉に代表されるように、経営者には人格や誠実さが求められるのです。

感情労働における課題点

感情労働は、働き手の感情によって、大きな価値を生み出すことができる一方で、感情を大きく消耗することになるため、燃え尽き症候群になってしまったり、クレームなどに嫌気が差して心が折れてしまったりすることがあります。

精神的な負担やストレスが多い

感情労働は、ときに人を笑顔にする、人に感動を与えるかけがえのない仕事ですが、心ない言葉を言われたり、クレーム対応をしたりして、少しずつ精神的ストレスを抱え込んでいきます。感情を起点とした仕事のため、精神的な負担を完全に回復させることが難しいです。

自分の人格と仕事を切り分けられない

先に述べたように、働き手の人格と仕事の成果は不可分です。感情労働の仕事では人の表情や印象、言動それ自体が価値となります。そのため、良い評価も悪い評価も、すべて自身の原因と帰結してしまい、結果として自身を追い込む結果につながってしまいます。

感情労働に向いている人・向いていない人

感情労働に向いている人は、自分と他人を区別できる人です。お客さんのニーズや課題に向き合いすぎて、自身の価値提供の範囲を超えると、必要以上に疲弊してしまいます。

 

また、オンオフの切り替えができる人も向いています。感情労働は、精神的疲労が蓄積するため、プライベートでは仕事を一切忘れて、何か趣味や特技などに没頭するのが良いでしょう。反対に、向いていない人は、共感性が高すぎる人です。共感性が高いと、寄り添うことができるため、現場では重宝されがちですが、他人の感情や課題に踏み込みすぎて、疲弊してしまいます。

 

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終わりに

感情労働は、AIなどにも代替されない、人が担うべき仕事の1つで、今後ますますその重要性は注目されるでしょう。しかし、それと同時に、感情労働は働き手の感情を基軸としたものであり、方法を間違えると、従業員の心が壊れてしまったり、燃え尽きてしまったりしてしまうため、雇用する組織においては、入念なストレス対策やケアを整備する必要があるでしょう。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等