ライフスタイルが多様化する昨今、アメリカのZ世代を中心に注目を集めているのが「静かな退職」。静かな退職とは、成長や給料などを追い求めず、最低限求められる業務だけをこなす働き方のことを指します。果たして、静かな退職というあり方は、会社や社会にとって悪であるのか?この記事では、静かな退職に潜む問題点や向き合い方について考えていきます。

静かな退職(頑張りすぎない働き方)とは?

静かな退職とは、キャリアや成長のために一生懸命働くことをやめて、最低限求められる業務をこなす働き方を指します。英語では、Quiet Quittingと書きます。「頑張りすぎない働き方」とも。静かな退職の起源はアメリカで、ここ最近浸透した言葉です。

アメリカに長く蔓延るハッスル文化に対抗する概念として提示され、キャリアコーチのブライアン・クリーリー氏が自身のTiktokアカウントで静かな退職を言及したことを皮切りに、注目が集まりました。

静かな退職は、何も真新しい概念ではありません。ワークライフバランスの重視、定時退社などの延長線にあるもので、ある意味、時代とともに振る舞い方、生き方として可視化されただけともいえるでしょう。

静かな退職(頑張りすぎない働き方)とダウンシフトの違い

ダウンシフトとは、車のギアを減速することになぞらえて、働き詰めの毎日からペースを落とし、ゆったりとした無理のない生活を送るライフスタイルのことを言います。静かな退職は、勤めている会社内での振る舞いを指す限定的な概念であるのに対し、ダウンシフトは仕事を含めた生活全般を指しています。

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日本の「熱意ある社員」の割合はわずか6%?

静かな退職を実践する従業員が増えてしまったら、会社は立ち行かなくなる……。そう思う方も少なくないでしょう。日本は、真面目で頑張り屋が多い国というイメージが定着していますが、果たして実情はどうなのでしょうか?2017年にギャラップが行った調査によれば、熱意あふれる社員の数は調査対象の139ヵ国中132位で、わずか6%でした。ちなみに、熱意のない社員は71%、まったく熱意がない社員が23%でした。

参照:State of the global workplace2017

なぜ、静かな退職(頑張りすぎない働き方)が起こるのか?

大きな成長を目指さずに、粛々と自分に与えられた職務をこなす「静かな退職」を実践する人が増える背景には、どのような問題や変化があるのでしょうか。

ワークライフバランスの実現

働き方改革により、会社で働く従業員のワークライフバランスを尊重する動きが加速化し、従業員は、自らのライフステージやキャリアに合わせた働き方を選択できるようになりました。従来は「働く」「休む」の二元論だったのが、「働く」と「休む」の間に多様なグラデーションが生まれ、静かな退職のような、今までにはなかった概念が誕生しています。

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ロールモデルの不在

ロールモデルが不在する背景は大きく2つあります。1つが、ワークスタイルが多様化したことで、1人のロールモデルに絞りきれなくなっていること、もう1つが時代の流れが早すぎて、最先端のロールモデルが、”過去の人”になってしまう恐れがあることです。職場など、身近な場所にロールモデルがいないと、将来のキャリアプランを描けませんし、また成長意欲も高まらないでしょう。

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静かな退職(頑張りすぎない働き方)に、会社はどう向き合うべきか?

静かな退職は、従業員のキャリアのあり方として1つの選択肢となり得ますが、雇用側の会社からすると、看過できない状況といえるでしょう。静かな退職を実践する従業員が増えれば、会社全体の士気やモチベーションに悪影響を与えるからです。しかし、静かな退職を実践する従業員は「異分子」ではなく、前述した時代背景に伴って生まれた価値観であり、また、会社の職場環境に対する諦念の結果かもしれません。静かな退職というあり方を許容しつつも、会社として求心力や定着率を高めることを目指していくべきでしょう。ここでは、静かな退職に対して会社がどう向き合うべきかについて解説します。

職場環境の見直し・改善

静かな退職を実践する従業員のなかには、元来からそのような価値観を持っている者もいるかもしれませんが、多忙すぎるがゆえ、結果的に出世のレールから外れようと静かな退職に行き着く者もいます。
つまり、静かな退職は職場環境の改善のヒントにもなり得るのです。出社のルールを撤廃し、原則リモートワークにする、フレックス制度を設けるなど、従業員の事情やライフステージに適応できるように、ワークスタイルの選択肢を多く持っておくと良いでしょう。

 

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存在意義を持てるような仕組みや取り組みを実施する

ピアボーナスやレコグニションのような仕掛けや、定期的なフィードバックの機会を設けることで、従業員は「見てくれている」と感じ、社内における存在意義をもつことができます。

 

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キャリアパスの多様化

管理職などマネジメントのポジションに上がるコースだけでなく、現場で専門分野を極めるコースも用意する、いわゆる「複線型人事制度」を設けることで、多様なロールモデルを社内に作ることができます。複数のキャリアコースを用意することで、キャリアの行き詰まりを解消でき、結果として静かな退職を生み出すことを防げます。

終わりに

一見すると、静かな退職は「やる気のない社員」という見え方になりますが、あくまでキャリアの多様化によって生まれた新しいあり方です。

もしかすると、職場環境が一向に改善されない会社に愛想を尽かし、一生懸命働くのをやめたのかもしれません。ただし、まだ退職していないということは、手遅れではないかも。静かな退職=やる気のない社員と決めつけず、職場環境の改善のきっかけにしてみてはいかがでしょうか?

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等