2019年4月に本格施行された働き方改革。リモートワークや副業が広く浸透したものの、それはあくまで働きやすさを整備したものであり、根本の働きがいは置き去りにされたままです。近年、働きがいを向上させる働きがい改革に取り組む企業も増えてきつつあります。本記事では、働きがい改革の概要と、その目的やメリットについて解説します。

 

働きがい改革とは?

働きがい改革とは、従業員がやりがいをもって仕事に取り組める状態を作る取り組みです。働きがいは、非常に抽象度の高い言葉であり、人によって感じ方や捉え方は千差万別ですが、一般的に定義するなら「従業員が主体的に仕事に取り組むエネルギーやモチベーション」を言います。

 

働きがいは、心身とも健康に働き続けられるために重要なファクターとして注目されています。例えば、給与が高い、上司や同僚から認められるなどもモチベーションを刺激する要因ですが、あくまで外発的動機付けにすぎません。

 

一方、働きがいとは、自分の内から湧き上がる内発的動機付けです。内発的動機付けが機能すると、行動自体が目的となるため、自発的に目標設定し、それに向かって行動しようとします。

働きがい改革と働き方改革の違い

働きがい改革と似ているものに、働き方改革があります。2つは、重きを置くポイントが異なります。

  • 働き方改革→働きやすさ
  • 働きがい改革→やりがい

まず働き方改革の目的は、働きやすさの改善です。ゴールは、安心して働ける環境を従業員自身が選択できることです。厚生労働省によれば、働き方改革を「労働時間法制を見直して長時間労働を防ぎ、ワーク・ライフ・バランスを実現すること」と定義しています。

 

さらに「正規や非正規など雇用形態の待遇格差をなくし、どの雇用形態でも本人が納得して働けること」を掲げています。

 

参考:働き方改革 ~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~ /厚生労働省

 

一方、働きがい改革の目的は、働きがいを高めることです。所属する会社で働く価値を感じ、積極的に仕事に取り組むようになることがゴールです。

ハーズバーグの二要因理論とは

ハーズバーグの二要因理論とは、仕事に対する満足度を動機付け要因(満足につながる要因)と、衛生要因(不満に関する要因)に切り分けて考える理論で、アメリカの臨床心理学者のフレデリック・ハーズバーグ氏が唱えたものです。

 

二要因理論に沿って考えれば、動機付け要因は「達成されること」「承認されること」「責任」などやりがいに紐づく要素であり、衛生要因は、給与や福利厚生など、働きやすさに紐づく要素と言えます。

 

この動機付け要因(やりがい)と衛生要因(働きやすさ)が両立する環境が理想で、働きやすさが欠けていると、やりがいは生まれにくくなるでしょう。こうした視点からも、働き方改革と働きがい改革、双方とも区別せずに進めることが重要です。

働きがい改革で重要となる「心理的安全性」とは

「心理的安全性」とは、恐怖や拒絶、不安を感じずに発言や意見を表明できる状態を言います。「サイコロジカル・セーフティ(psychological safety)」とも。

 

心理的安全性が低いと、否定や拒絶に対する不安から、気軽に発言や指摘ができない状態になり、ミスやトラブルなどに発展してしまいます。相互を認め合い、気兼ねなく意見を発言できる、心理的安全性が高い環境になってはじめて、働きがいを高めることができます。

 

関連記事:心理的安全性の作り方と高める方法について【グーグルも実践】

働きがい改革を実施するメリット

働きがい改革を実施すると、会社と従業員双方に大きなメリットがあります。

離職率の改善

自分が会社に所属する価値を感じられ、もっとその会社で働きたいと思えると、離職率は下がります。厚生労働省が行った調査では、働きがいがある職場のほうが従業員の定着率が高いという結果が出ています。

 

「今の会社でずっと働き続けたいか」という質問に対して、『働きがいがある』グループの半数が「はい」と回答し、一方で『働きがいがない』グループが「はい」と回答した割合はわずか10%ほどでした。

 

参照:厚生労働省「働きやすい・働きがいのある職場づくり」に関する資料

モチベーションの向上

「自分は誰かの役に立っている」「自分の努力が結果につながっている」といった働きがいを感じることで、自発的に行動をする従業員が増え、社内の雰囲気も活性化します。

業績アップ

働きがいを感じながら働く従業員は、モチベーションだけではなく生産性も上がります。目標を達成するために従業員自ら行動するようになるため、結果的に会社の業績アップにつながります。業績が上がると、従業員もまた働きがいを感じてがんばれる……という好循環が生まれるようになります。

働きがいを高める方法

では、従業員に働きがいを感じてもらうためには、どのような方法が必要なのでしょうか。

多様なワークスタイルの導入

働きがいは、働きやすさの上に成り立つものです。まずは、ワークスタイルの多様化を検討しましょう。リモートワークはオフィス賃料やOA機器のリース費用などの固定費削減や営業効率の向上、BCP対策などの面でメリットも大きいですが、反面コミュニケーションの不足、セキュリティリスクの増大などのデメリットも存在します。

関連記事:リモートワークとは|新しい働き方のメリットと潜む問題点について

 

まずは、オフィス勤務とリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークの導入や、時差出勤などの導入から始めましょう。

関連記事:ハイブリッドワーク(ハイブリッド勤務)のメリットとは|テレワークとオフィス勤務を組み合わせた働き方

評価方法の見直し

従来では、直属の上司が部下の勤務態度や成果、そこに至るまでのプロセスを総合的に判断し評価をする方法が一般的でした。この方法だと、直属の上司の目線1つのみで、「人ありき」の評価になってしまいます。同僚や部下、他部署や他事業部などのメンバーからも評価を行う「360°評価」を導入することで、より実態に合った評価を受けられて、また評価をされた従業員も納得感を持って評価内容を受け入れることができます。

社内の関係性強化

先に述べた心理的安全性を高めるためには、社内の関係性強化が必須です。チャットツールで雑談できる場所を作ったり、定期的に互いの趣味や日常をシェアする雑談の場を設けたりするなど、年次や職位が異なるメンバーが気兼ねなく交流できる施策を実施しましょう。

適材適所の人材配置

働きがいを高めるには、従業員一人ひとりの得意分野や適性に合った人材配置も重要です。成長の過程で、あえて不得意な領域に割り振ることもあるかもしれませんが、基本的に不得意な仕事や、適合していない仕事を続ければ、モチベーションは下がり、業務効率も著しく下がるでしょう。ミスやトラブルなどにつながる恐れがあるため、会社にとっても良い結果を生みません。

 

反対に自分の力が発揮できる場所にいれば、モチベーションも生産性も向上します。従業員の強みや弱み、スキルを見極めて適材適所に配置するのも、働きがい改革において重要なポイントです。

働きがい改革の事例

最後に、働きがい改革を行っている会社の事例をご紹介します。

ウシオ電機

光応用製品事業をはじめとする事業を行うウシオ電機。新事業を創り出して成長するには、従業員一人ひとりの仕事を充実させる必要があると考えた同社は、心理的安全性の向上を課題としました。

 

オンライン上で従業員の取り組みを閲覧できるコミュニケーションツール「U-spot(ユースポット)」を導入。その結果、賞賛やエールを送る人が増えて、「自分の仕事が認められた」「誰かとつながっている」と心理的安全性が高まり、働きがいのある環境が生まれています。

ライオン

ライオン株式会社は、2019年に「ライオン流 働きがい改革」を宣言しました。ライオン流の働きがい改革は、従業員の健康サポートを基盤に、申告制で副業許可する「ワークマネジメント」テレワークやフルフレックスなどの導入を進める「ワークスタイル」、互いの理解と尊重を促進する「関係性を高める」の3要素で構成されています。例えば、副業制度の1つ、「持ち込み型副業制度」では、2021年8月時点で約60名が活用。自己実現の達成やキャリア開発の場となっています。

終わりに

給与や福利厚生、ワークスタイルの多様化といった条件はあくまで「働きやすさ」を改善するための施策です。結局、従業員の心をつかむ経営ができなければ、いずれ従業員は他の魅力的な会社に流出してしまいます。”働きがい”を醸成するには、長い時間がかかりますが、会社も従業員にとっても重要な施策です。ぜひ本日の内容を参考にしてみてください。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等