2009年頃には、アメリカ、フランス、そして日本でも一部企業が採用した「ワークシェアリング」。働き方改革により、再度注目が集まっています。本記事では、ワークシェアリングとはそもそもどういうものか、そしてワークシェアリングを導入すると働き方がどう変わるのか解説します。

ワークシェアリングとは?

ワークシェアリングとは、「従業員同士で仕事を分かち合い、それぞれの労働時間を短縮する働き方」を意味します。

ワークシェアリングは、1970年頃にヨーロッパで始まった考え方で、雇用機会の創出を目的に始まりました。特にワークシェアリングを語る上で外せないのがオランダです。オランダでは1996年には正規社員・非正規社員の格差を埋める「同一労働同一賃金」が、2000年には「労働時間調整法」が制定され、急速にワークシェアリングが浸透し、世界的にもパートタイム経済が成功した事例としてたびたび取り上げられています。

近年日本では、再びワークシェアリングに注目しており、厚生労働省は「多様就業型ワークシェアリング」を各企業に推奨しています。

多様就業型ワークシェアリングは、多様な働き方の実現を通して、より多くの労働者に雇用機会を与えることを目的としており、労働時間の減少、ワークライフバランスの向上などのメリットを挙げています。 多様就業型ワークシェアリングでは、「短時間正社員」を代表的な労働形態としています。導入方法や制度のメリットなどについては、「多様就業型ワークシェアリング 制度導入マニュアル 」に書かれておりますので、そちらをご参照ください。

<参照:「多様就業型ワークシェアリング 制度導入マニュアル 」>

https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/01/dl/h0119-1d.pdf

ワークシェアリングとジョブシェアリングの違い

ジョブシェアリングは、ワークシェアリングに内包される考え方です。ワークシェアリングには、労働者の雇用を守るため、各従業員の労働時間を短縮する「雇用維持型」と、短時間勤務を組み合わせて、より多くの人の雇用を作り出し多様な人材を確保する「雇用創出型」の2種類がありますが、ジョブシェアリングは後者に該当します。 ジョブシェアリングでは、ただ労働を単純に切り分けるだけではなく、2人1組が密に連携をとり、2人で1つの成果を追い求め、責任も連帯で追います。

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ワークシェアリングには4つの種類がある

厚生労働省の「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」によれば、ワークシェアリングの種類は、4つのタイプに分類することができます。

雇用維持型(緊急避難型)

経営悪化などの緊急事態の際に、従業員の労働時間を減らし、雇用を維持するワークシェアリング。

雇用維持型(中高年対策型)

定年退職後の中高年の雇用を延長する場合に活用されるワークシェアリング。中高年の従業員の健康状態に合わせた雇用もでき、最大限、高い技術力やノウハウを活用してもらうことができます。

雇用創出型

失業者に新たな雇用機会を作ることを目的としたワークシェアリング。全体の労働時間が減少するため、従業員一人あたりの賃金が減少する懸念もあり、ワークシェアリング制度が進む欧米では別途、補助金・助成金が出る場合もあります。

多様就業対応型

出産、育児、介護といったライフステージに合わせて自分らしく仕事ができるよう、時短勤務やフレックス制度などを導入し、働き方の多様化を目指すワークシェアリング。今までさまざまな事情で働けなかった人に雇用機会を創出することができます。

<参照:「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」より>

https://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0426-4.html

ワークシェアリングはなぜ日本に必要?

なぜ、政府は「ワークシェアリング」というモデルを推進しているのでしょうか?その背景には、以下の3つが考えられます。

労働人口の減少

最も大きな背景が労働人口の減少です。2018年に総務省が行った労働力調査によれば、正規雇用、非正規雇用とも直近4〜5年では伸びています。しかし、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「2030年までの労働力人口・労働投入量の予測」によれば、65歳以上の人口比率の増加に伴い、2024年から減少に転じるという結果が出ています。

<参照:2030 年までの労働力人口・労働投入量の予測~人数×時間で見た労働投入量は 2023 年から減少加速 ~>

https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2018/03/report_180312.pdf

<参照:労働力調査(基本集計)平成30年(2018年)平均(速報)結果の要約>

https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf

長時間労働の是正

2013年には国連人権委員会が日本に、「長時間労働の是正」を求めたように、日本の職場環境や働き方は国際的に見ても遅れをとっています。2016年には、安倍政権が主導で「働き方改革実現推進室」が設置され、2019年4月から正式に働き方改革法案が施行、今の時代に合った働き方ができる社会の実現に向け、さまざまな施策が展開されています。

雇用機会の創出

IT技術の発展により、時短勤務、二拠点居住、パラレルワークなど、さまざまな多様な働き方をする人が増えています。実際に、政府が推奨する「多様就業形ワークシェアリング」の目的も、「多様な働き方を提供することを通して、より多くの労働者に雇用機会を与えること」とあります。ワークシェアリングを推進することで、多様な人材の活躍の場が開け、有能な人材確保にもつながります。

ワークシェアリングの課題・デメリット

ワークシェアリングは魅力のつまった取り組みに思えますが、本格運用するにはさまざまな課題・デメリットを解消する必要があります。これらの課題やデメリットを解消することで、はじめてワークシェアリングの真価が発揮されます。

デメリット1 労働生産性の低下

ワークシェアリングでは、一つの業務に複数人が関わることになるので、必然的に、コミュニケーションコストがかかり、導入当初は作業効率が落ちる可能性もあります。こういった事態を最小限にとどめられるよう、ワークシェアリングに沿った業務フローの抜本的な見直しも必要になります。

デメリット2 賃金低下の懸念

複数の従業員に業務を分配するため、各従業員の賃金が低下する恐れがあります。特に、規模の大きい企業ほど、全体の平均賃金は下がります。複業を社内で認可する、一定時間超過した分から、契約を切り替え、成果報酬体系にするなど、何らかの対策が求められます。

デメリット3 正規雇用と非正規雇用の待遇均一化

現状、日本においては、正社員とアルバイト・パート・派遣社員で待遇差が存在します。どのような条件であれば、賃金などの待遇が一律になるのか、バランスのとれた仕組みの設計が必要です。

海外のワークシェアリング事例

一足先にワークシェアリングの導入が進んでいる海外の事例を見ていきましょう。紹介するのは全部で4つです。

オランダの場合

「働き方先進国」といわれているオランダでは、早くからワークシェアリングが導入されています。特徴的なのは、フルタイムとパートタイマーで福利厚生、賃金、社会保障などの待遇の差をつけていないことです。雇用の柔軟性のフレキシビリティと安全を指すセキュリティをあわせた概念「フレキシキュリティ」が広く浸透しているため、さまざまな多様な働き方を共存させることができています。

イギリスの場合

フレキシブルワークとは、「場所や時間に囚われず働ける労働形態、制度全般」を指す言葉で、イギリスだけではなく、オランダやフランス、アメリカなどでも採用されています。イギリスでは、2000年以降、フレキシブルワーキング法、雇用法、就業家族法など、従業員がより健康に自分らしく働ける環境の整備を始めています。また、イギリス政府が行った「ワークライフバランス調査」によれば、フレキシブルワークを導入している企業は97%、そのうち高い順位から見ていくと、「一時的な時短勤務」が74%、「ジョブシェアリング」が54%、「フレックス制度」が54%と、企業の半数以上が採用していることが伺えます。

フランスの場合

フランスでは、法定労働時間を週35時間にする、早期実施企業には一時的に社会保障負担の軽減措置がとられるなどの内容を盛り込んだ「オブリ法・第二次法」が2000年に成立したのを契機に、ワークシェアリングが広まりました。実際にルノーでは、週35時間労働を遵守し、3年間継続。雇用維持には結びつかなかったものの、新規雇用の創出をすることができました。

ワークシェアリングを行っている企業事例

日本でも一部ですが、ワークシェアリングを実施した企業事例があります。

トヨタ

2009年、米国の自動車売り上げが低迷したため、米国の工場を対象に雇用維持型(緊急避難型)ワークシェアリングが実施されました。また日本でも、2009年国内全12工場で創業を停止する2月〜3月の約2日間、雇用維持型(緊急避難型)ワークシェアリングが実施されたことがあります。

TOWA

2000年頃に、半導体業界が不況に見舞われ、その煽りを受けてTOWAの売上が激減。従業員の稼働を週4日に減らし、ワークシェアリングを実施したことでリストラの危機を回避することができました。

まとめ

今まで、日本企業で採用されてきた事例は、雇用維持型(緊急避難型)ワークシェアリングでしたが、今後、多様就業対応型ワークシェアリングの普及が進むでしょう。 上記でも書いた通り、ワークシェアリングは業務を複数人に分配する性質上、コミュニケーションコストの増大、賃金低下というデメリットが起こり、業種・仕事内容によっては相性が悪いケースもあります。 導入の際には、ワークシェアリングが雇用改善、雇用創出のベストな選択肢なのか、入念に検討しましょう。