終身雇用が終わりを迎え、複数の会社で転職することを前提とした働き方へ変わり、優秀な従業員を報酬などで留め置くことが難しくなりました。アルムナイ採用という言葉をご存知でしょうか?アルムナイは「企業を退職したOB・OGの集まり」を指し、退職者を”裏切り者”ではなく、”同志”として関係性を継続し採用や新規事業の立ち上げに活用できるとして注目が集まっています。本記事ではアルムナイ採用のメリット・デメリットや企業事例などについて解説いたします。
目次
アルムナイとは?
アルムナイとは、卒業生や同窓生を表す「alumnus」の複数形の「alumni」のことで、同窓生たちという意味を指します。採用のマーケットでは「企業を退職したOB・OGの集まり」を指します。日本では、古くから大学や塾などが校友会の位置づけとしてアルムナイを設置していました。
外資系企業では、アルムナイネットワークを構築し、優秀な人材の再雇用につなげる施策を実施しているケースが多く、近年日本でもアルムナイ採用を活用する企業事例が増えつつあります。
タレントプールとの違い
タレントプールは、選考中に不採用を通知、または内定辞退した求職者の中で優秀な人材の情報をプールすることを指します。過去に接触した優秀な人材のデータベースが蓄積されているため、新規事業の立ち上げに伴う人手不足、配置換えに伴う人材募集の際に、ジャスト・イン・タイムでアプローチできます。
それに対し、アルムナイは自社のOB・OGのコミュニティであり、優秀か否かは問いません。また、採用目的だけでなく協業や業務提携、情報交換といった目的も兼ねています。
アルムナイ採用が注目される背景
では、なぜ今このアルムナイ採用が注目されてきているのでしょうか。 それは、「労働市場の流動化」と「人材不足による採用難」の二つの要因が挙げられます。
労働市場の流動化
今や転職が当たり前の時代となりました。日本は世界的にも長寿国といわれており、人生100年時代をどう生きるかが今後の重要なテーマとなります。
人生100年時代について書かれている著書「LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 」では、教育→就職→育児→老後という単純なライフステージから、さまざまな職を組み合わせて自分らしい仕事を作る「ポートフォリオワーカー」、自分がしたいことや成し遂げたいことを探す時間「エクスプローラー」、自分で事業を興す「インディペンデントプロデューサー」といった新たな3つのライフステージが登場し、より複雑性、多様性が増すと述べられています。
また、副業解禁や同一労働同一賃金といった制度改正に伴い、さまざまな働き方やワークスタイルが登場しています。今後この傾向はさらに強くなることは間違いないでしょう。
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人材不足による採用難
平成27年国勢調査の人口速報集計結果によれば、2015年には国勢調査を開始して初めて、出生数が死亡数を下回り人口減少に転じました。また、地域格差も著しく首都圏に人口が集中する東京一極集中が起こっており、政府は是正策として地方創生戦略を講じています。
奇しくも、コロナウィルスによって東京のような人口密集地域への居住リスクが発生したこと、在宅・テレワーク中心のワークスタイルが浸透したことで、地方移住への関心が高まっており、今後の動向に注目が集まっています。
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いずれにしても、人材不足下ではネームバリューの大きい有名企業に求職者が集中し、中小企業は人材不足または後継者不足により、倒産・廃業せざるを得ない事例が今後増えてくるものと思われます。
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アルムナイ採用のメリット
では、アルムナイ採用を行うと、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
採用・人材育成コストの削減
最も大きなメリットが採用コストの削減です。アルムナイネットワークを通してのリファラル採用では、広告コストやエージェントに支払う手数料は発生しません。
また、OB・OGであるため社内文化やルール、事業内容などにも精通しており、ミスマッチも少なく、通常の中途社員よりもオンボーディングにかかるコストも抑えられます。
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レピュテーション・リスクの防止
レピュテーション・リスクとは、企業に対するネガティブな評判が増えることで企業の信用やブランドが失墜し事業活動に悪影響を及ぼすリスクを指します。アルムナイネットワークを構築することで、退職しても縁をつなぐ会社として退職後も従業員と良好に関係を保てていると認知されてブランディングが向上します。その結果、優秀な人材の採用などにもつながります。
新しい知見やスキルの獲得
アルムナイネットワーク内で知見やスキルが蓄積することはもちろん、出戻り就職した従業員が他業種や他企業からスキルやノウハウを持ち帰り、自社にイノベーションをもたらすこともあります。
アルムナイ採用のデメリット
一方で、アルムナイ採用で気をつけなければならない注意点やデメリットもあります。
情報漏えいのリスク
まず一つは、アルムナイ採用やアルムナイネットワークを通した情報漏えいのリスクです。身内という安心感から社外秘の情報を漏らしてしまったり、機密情報を渡してしまったり、取り返しのつかない事態に発展することもあります。
リレーション維持にコストがかかる
アルムナイネットワークを構築するだけでなく、運用してはじめて機能します。アルムナイ専用サイトの開設、アルムナイ内の交流会の実施、ニュースレターの配信、アルムナイ在籍者とのコラボプロジェクトの運用など、リレーション維持に関わる施策を継続的に実施する必要があります。
待遇や年次における配慮
アルムナイはいわば元OB・OGです。受け入れる側の現場がポジティブに受け取れるのか、それによって働きやすさは変わります。また、ミドルクラスのアルムナイ人材は、現場で不平不満が出ないように配慮しながら、待遇やポジションを与えることが重要です。
アルムナイ採用で変わる働き方
アルムナイ採用が普及すると、働き方はどのように変わるのでしょうか?まず、退職した従業員が出戻りするため、業務効率が高くなるケースが増えてくるかもしれません。 また、出戻りが当たり前になればベテランが若手の下に配属されるケースも増えるため、良い意味で上下関係や社内外の垣根がなくなり、流動的で多様性を尊重する職場環境が構築できるでしょう。
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アルムナイ採用を成功させるポイント
アルムナイ採用を成功させるには、どのようなポイントに注意すれば良いのでしょうか。 ポイントは以下の3つに集約されます。
イグジットマネジメントの実施
近年、働き方が多様化し注目されているのがイグジットマネジメントです。未だに、退職することに対して「裏切り者」という認識が根強く残っています。再び戻りたくなる会社にするには、次のキャリアに従業員を送り出せる仕組みの設計が大切です。また、イグジットマネジメントを実施することで、急な退職や休職を防ぐことができ、その後の人事計画が立てやすくなるほか、レピュテーションリスクを下げることにもつながります。
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出戻り(復職)条件の設定
OB・OGの中には、ミスマッチによって退職した者もいます。離職リスクを防ぐためにも、例えば「〇〇年以上の在籍者」「人事評価が通年で○以上」など、出戻り条件を設定しておきましょう。
受け入れ体制の構築
アルムナイであっても、現場の受け入れ体制が整っていなければ、馴染めずに早期離職につながってしまいます。そのためには、まず配属先の現場従業員とアルムナイとの間でコミュニケーションをとる機会を設ける必要があります。 また、若手の管理職の元で年次の高いアルムナイが働くことに抵抗感がないか、また逆に若手の管理職が配慮をしすぎてしまって、双方のコミュニケーションが取れなくなるなど、実際に機能するか現場目線で確認することも重要です。
アルムナイ採用の企業事例
最後に、アルムナイ採用の企業事例についてご紹介します。
リクルート
日本企業で有名なアルムナイ採用の事例はリクルートです。リクルート出身のOB・OGが「元リク」と呼ばれていることは有名です。MR会(元リクルートの略)と呼ばれる専用サイトも存在し、活発に交流が行われています。元リクにはUSENの社長である宇野康秀氏、リンクアンドモチベーション会長の小笹芳央氏など名だたる起業家がおり、そのスケール、知名度の大きさが伺えます。
アクセンチュア
アクセンチュアのアルムナイネットワークには、世界50カ国25万人以上のアルムナイが在籍しています。定期的にアルムナイ向けのセミナーの開催やリファラル採用などのバックアップも積極的に行っています。
電通
もともと、2014年頃から非公式の電通アルムナイが存在していましたが、2019年10月にオフィシャルのアルムナイが立ち上がりました。現在、登録者数は500人ほどで今後はアルムナイ向けのイベントやクローズドな情報発信を実施していくそうです。
裏切り者ではなく、良きパートナーとして関係を築こう
今や転職が当たり前の時代。いずれ退職することを前提に、退職後も良きパートナーとして従業員と関係を構築することで企業ブランドも向上するし、また戻りたくなる魅力ある企業になるでしょう。ぜひ、本日紹介したアルムナイ採用を参考にしてみてください。