継業(けいぎょう)という言葉を知っていますか?継業とは、地方移住してきた第三者に事業を承継する事業承継で、M&Aとも一線を画する新しい事業承継のカタチとして注目されています。本記事では、継業というワードについて深堀りします。

継業の定義とは?

継業(けいぎょう)とは、地域に移住してきた第三者に事業を承継することを指します。最初に、継業という言葉が使われたのが『移住者の地域起業による農山村再生』で、そこでは移住者のなりわいづくりの一形態として紹介しています。

 

継業は、地方都市における後継者不足の解消だけでなく、第三者ならではの視点で地域資源の価値を再定義する役割もあり、地方創生の起爆剤としても期待されています。

 

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事業承継の種類

継業を解説するまえに、前提の事業承継について軽くおさらいします。まず、事業承継には、大きく親族内承継、第三者承継、M&Aの3つの種類があります。

親族内承継

子供、配偶者などの親族に事業承継する方法です。社内に、後継者として適任となる従業員や役員がいない場合、親族内承継を選択するケースが多いようです。同居している子供、配偶者であれば、小さい頃から経営の大変さを身にしみて感じているだけでなく、後継者の性格や資質も把握しているため、スムーズな引き継ぎが可能です。また、肉親ということもあり、周囲の理解も得られやすいです。

 

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第三者(親族外)承継

親族外の従業員または役員に事業承継する方法です。実務をとおして、経営理念や業務のすすめ方、経営課題を熟知しているため、顧客やクライアントからの信頼も獲得しやすいです。ただし、親族内承継と比較すると、納得のいく明確な選定理由が必要となり、場合によっては組織内の不和を生む恐れもあります。

M&A

M&Aは、Mergers and Acquisitionsの略で、会社の合併、買収のことをいいます。広義的には、資本提携や合弁会社の立ち上げなども含みます。社外の優秀な後継者候補を探すことができる反面、売約希望条件の折り合いがつかないケースも多く、後継者探しが難航することもあります。

 

M&Aをする場合は、はやくから財務状況の改善と企業価値の向上に向けて対策をおこなっておく必要があります。

継業が注目されている理由とは?

なぜ、今継業が注目されているのでしょうか。そこには、労働人口の減少、中小企業の経営者の高齢化といった、日本に山積する課題が密接に関係しています。

生産人口の減少

国立社会保障・人口問題研究所の調査では、日本は、世界、先進国きっての長寿国、少子高齢化が進む国であり、2015年時点で65歳以上の割合は総人口の26.6%を占め、2030年には総人口の31.2%の3,715万人に到達すると推測されています。また、2045年には2015年と比較すると、総人口の20%以上減少する市区町村の数は70%を超えるという統計データも発表されています。

参照:日本の地域別将来推計人口(平成 30(2018)年推計)

経営者の高年齢化

中小企業の経営者の高年齢化も大きな課題として取り上げられています。帝国データバンクの調査によれば、2019年の社長の平均年齢は59.9歳と観測史上、過去最高を更新しています。また、規模別では1億円未満の中小企業が平均61.1歳で、内訳は70代が22.6%、80歳以上は5.4%となっています。

参照:全国社長年齢分析(2020年)社長の平均年齢、59.9歳 ~ 右肩上がりで推移し、過去最高を更新 ~

 

世界と比較したときに、日本の経営者の平均年齢は高い部類に入るのでしょうか。Strategy&が、世界の上場企業上位2500社を対象におこなった調査では、中国が51歳、アメリカ・カナダが54歳、西欧諸国が53歳であるのに対し、日本は61歳と突出して高いことがわかります。

参照:2016年世界の上場企業上位 2,500社に対するCEO承継調査結果概要

後継者不足

経営者の高年齢化だけでなく、事業承継をする後継者不足も問題となっています。日本の中小企業数は現在300万社ほどで、企業全体の99.7%を占めます。つまり、中小企業の廃業が続けば、日本全体の雇用や経済が衰退するといっても過言ではありません。

 

帝国データバンクの調査によれば、26万6000社の65.1%にあたる約17万社で後継者不在となっています。また、60歳以上の経営者のうち、50%が廃業を予定しており、そのうちの28.6%が「後継者不足」を理由に挙げています。

 

なお、事業承継でもっとも多いのは、親族内承継で34.2%、つづいて0.1ポイント差で、第三者(親族外)承継でした。第三者承継は8.3%で、2018年の6.9%から微増しています。

参照:全国企業「後継者不在率」動向調査(2020 年)

 

また、中小企業庁のレポートでは、現状から脱却できない場合、2025年までに累計650万人ほどの雇用と約22兆円のGDPが失われると警鐘を鳴らしています。

参照:中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題

継業のメリット

継業という働き方のメリットは、大きく以下の2つが挙げられます。

低リスクで事業にチャレンジできる

通常、新しい事業を興すとなると、多額の資金が必要になります。例えば、飲食店なら、物件の契約費用、月々の賃料、在庫の仕入れコスト、商品を製造するための工場、設備投資など……。数千万円近くのコストがかかることもあります。初期投資をかけたとしても、うまくいく保障はありません。継業においては、もともとある物件、顧客ネットワーク、既存製品などを武器にチャレンジできます。

地域の担い手として活躍できる

前述したように、日本の総人口は年々減少しています。総務省が2018年に行った調査では、総住宅数のうち実に13.6%が空き家であり、過去最高値となっています。昭和63年の2.6%から比べると、空き家の数は10%以上増加していることがわかります。

 

参照:住宅・土地統計調査

 

いわゆる空き家問題は、地域の景観を損ね、地域全体の価値や活力を失うものとして深刻な問題になっています。このようなことから、移住者が外の視点や価値観を持ち込み、新たな価値を生み出すことに期待が集まっています。未だに、首都一極集中が是正されないなかで、地域におけるプレイヤーの存在は非常に希少です。地域の担い手として注目され、応援される機会が増えます。

 

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継業のデメリット

継業も良いことばかりではありません。古株の役員との衝突、負債の承継など、トラブルやリスクに巻き込まれることもあります。

創業者や古株の役員との衝突

継業でもっとも多いトラブルが古株の役員、創業者との衝突です。後継者に事業承継したのに、経営方針に口出しをしてくる、創業者が新しく設立した会社に古株の役員が流れてしまう事態になることも。事業承継とは、既存の会社を継ぐということです。そこには、必ず再構築のプロセスが発生するため、大小なりとも意見の衝突や軋れきが生じます。

資産だけでなく負債も承継される

事業用資産、株式といった資産だけでなく、取引負債、金融負債といった負債も引き継ぎます。継業する前に、専門家の立ち会いのもとに財務状況を確認しましょう。

継業の事例

実際に、継業がうまくいった事例についてご紹介します。

焼肉屋「幸三」

店主の坂本幸三さんは、宮崎のスーパーの精肉コーナーで、精肉を長年扱っていました。2018年に廃業する予定だった「牛太郎」を継業しました。ちょうど、坂本さんが働いていたスーパーも閉店するタイミングに、継業の話をもちかけられました。

 

継業してからは、家族一丸となってお店を切り盛りし、店内の内装も知り合いとともにDIYでリニューアル。接客、調理方法、清掃、オペレーションなどを日々改善し、現在は飫肥地区で愛される焼肉店として活躍しています。

株式会社 丹後

父の代から続く不動産業と保険代理店業を営む丹後博文さんは、取引先であるタオル会社を廃業寸前の状態で継業。しかし、継業したときには取引先ゼロ、従業員も7名残っている状態で、最初の半年間は売上ゼロ、資金が流出していく一方だったそうです。販路拡大のため、あちこちの百貨店を回ったり、自社ブランド「OLSIA」を立ち上げたりするなど、試行錯誤の末、少しずつ売上が増えていきました。現在では、伊勢丹や髙島屋での販売、雑誌VERYとのコラボなど、わずか5年で飛躍的な成長を遂げています。

継業したい人、事業者をマッチングするサービス

近年は、継業したい人と後継ぎを探している事業者をマッチングするサービスが登場してきています。いくつか代表的なサービスをご紹介します。

relay

株式会社ライトライトが運営する事業承継マッチングプラットフォームです。

さまざまな外部パートナー会社、メディアとの連携をしており、事業承継に関する情報を

より多くの人にPRをするサポートを行なっています。

また、2022年には上場企業の株式会社ストライクと資本業務提携契約を締結し、累計1.3億円の資金調達を実施しており、今注目の事業承継マッチングプラットフォームです。

ニホン継業バンク

ココホレジャパンが、2020年に立ち上げたマッチングプラットフォームです。代表の浅井さんが、岡山名物の魚・ままかりをアンチョビ風にアレンジした「ままチョビ」の事業承継をした際に非常に探すのに苦労をした経験から始まったサービスです。

市町村(または地域で承継に取り組む団体)と連携をして、このサービスを運営しているため、しっかりと「痒いところに手が届く」サービスになっています。

まとめ

従来では、新規創業には多額の資本金と人脈、ノウハウが必要でしたが、現在ではパラレルワーク、プロボノ、継業など、スモールスタートできる方法が増えています。もちろん、どの方法にもリスクはありますが、格段にゼロから始めるよりはチャレンジのハードルは下がっています。誰かの事業のバトンを次世代に継ぐ。そんな働き方をしてみませんか?

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等