過去に退職した人材を再雇用する、ひと昔前ではタブーとされていましたが、現在は出戻り社員が即戦力人材になり得るとして注目が集まっています。本記事では、出戻り社員のメリット・デメリットや採用のポイントについて解説します。
目次
出戻り社員とは?
出戻り社員とは、一度会社を退職した人が元いた会社に再雇用される社員のことを言います。「カムバック採用」と呼ぶこともあります。社風や仕事の進め方などを理解しているだけでなく、他の会社に勤めて新しいスキルや知見を獲得しているため、会社にとっても即戦力人材になります。
出戻り社員が注目されている背景
なぜこれほどまでに、出戻り社員が注目されているのでしょうか。その理由としては、
以下の3つが挙げられます。
転職に対する意識の変化
一昔前は、転職に対し「仕事を長く続けられない」というネガティブなイメージが持たれていました。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊すると、次第に転職に対する意識は「キャリアアップ」「ライフステージの変化」に伴うものとして、前向きなアクションとして受け取られるようになりました。
2021年に株式会社マイナビが正社員の20代~50代の男女1500名を対象に行った調査によれば、「転職は前向きな行動であるか」という質問に、「そう思う」と回答した割合は69.5%、「転職は必要であるか」という質問に「そう思う」と回答した割合は、50.5%という結果が出ています。
加速する人手不足
少子高齢化に伴い、労働人口も減少傾向にあります。こうした状況下では、優秀な人材は取り合いとなり、採用競争が激化する傾向にあります。2021年10月に帝国データバンクが行った調査によれば、正社員が不足していると回答した会社の割合は43.8%でした。特に多かったのが農・林・水で64.2%でした。ITは市場規模の成長スピードによって需要過多となっていることもあるからか、63.9%が人手不足と回答しました。
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多様化する就業形態とキャリア
働き方改革の推進により、複業(パラレルワーク)、リモートワーク、時短勤務など自分のライフステージやキャリアに合わせた働き方が選べるようになりました。
1つの会社で正社員として雇用されることが重要視されなくなり、あくまで「自分がどうしたいか」を主軸にキャリアを選択する人が増えています。今後、会社に求められるのは、関わり続けたいと思う哲学やビジョンを持つことです。
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より社会のために魅力的な会社であり続けなければ、人材も定着せずに衰退していくでしょう。
出戻り社員のメリット
では、会社が出戻り社員を採用すると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
採用コストの削減
通常の採用フローでは、広告の出稿、履歴書やエントリーシートのチェック、数回の面接実施などを経て採用します。しかし、出戻り社員の場合は、過去の業務を通して適性や実績、スキル、能力などを把握できるため、簡易的な面談だけで採用の判断が可能です。よって、採用コストは通常に比べて格段に安く済みます。
即戦力人材として採用できる
自社で働いた経験に加え、他の会社で培った知見やノウハウを併せ持っているため、即戦力人材として活躍できるでしょう。
外と内の視点から、会社の課題を把握している
同じ会社に長く勤務していると、会社の常識=世間の常識と捉えてしまいます。しかし、出戻り社員は一度退職し、別の会社で働いているため、客観的にも会社を見ることができます。社内に在籍していた時とは異なる角度で課題を分析できるため、会社に新しい風を取り入れることができます。
ミスマッチが少ない
出戻り社員は、良い部分も悪い部分も知った上で、以前勤めていた古巣に戻ってきています。そのため、入社後にミスマッチも起こりにくく、長く在籍してもらえる可能性が高いです。
人材の流動性が高くなる
一見、人材の流動性が高いことはデメリットに感じますが、会社にも一定の新陳代謝が必要です。再雇用制度を導入し出戻りを歓迎することで、流動性が高くなり、優秀な人材の獲得につながります。
出戻り社員のデメリット・注意点
採用コストも安く抑えられて、かつ即戦力人材として期待できる出戻り社員ですが、いくつかデメリットもあります。
給料や待遇面で不満が出ることも
過去勤めていた頃の実績を評価し、既存社員よりも良い給料や待遇を与えると社内から不満が噴出する恐れがあります。給料や待遇は既存社員と平等になるように、もし、過去の貢献度を鑑みて少し高めに設定する場合は、事前に配属先への周知を徹底しましょう。
既存社員とのトラブルの火種になることも
出戻り社員にとっては、社内によく知る部下や同僚などがいるでしょう。しかし、その関係性を知らないメンバーからすれば、「なんだか偉そう」「入社早々、生意気な感じがする」と思う人も出て、社内の雰囲気が悪くなることも。
出戻り社員を採用する方法
上記のようなデメリットや注意点を解消するには、出戻り社員と既存社員の関係が悪化しないよう、事前の周知や再雇用制度などの整備が必要です。
公平に待遇を与える
出戻り社員の過去の功績だけでなく、退職した理由や現在のスキルや実績なども合わせて判断して待遇を決めましょう。「前活躍してくれたから」といった漠然とした理由ではなく、明確な根拠に基づいた判断がなされれば、既存社員も納得感を持って迎え入れられます。
再雇用制度の構築・整備
たとえ、過去高い評価を受けたエリート社員であっても、今の組織に必ずしもマッチするとは限りません。人と同じく組織も変化します。出戻りまでの年数制限、必須スキル、経験など、採用基準を明確にしておきましょう。再雇用制度を構築・整備することで、既存社員からの不満や疑念などが生じることを防げます。
出戻り社員を積極的に受け入れている企業事例
最後に、出戻り社員の受け入れを積極的に行っている企業事例について、いくつかご紹介します。
株式会社PFU(富士通系列)
結婚や育児、介護または配偶者の海外転勤によって離職した方を対象に、カムバック制度を
提供しています。ただし、正規従業員としての勤続年数が1年以上、退職から5年以内という条件があります。
株式会社 明治
明治では、2014年より再就職制度を提供していましたが、条件が厳しかったために過去の採用実績はわずか1名でした。2020年に制度を見直して、新たに「リ・メイジ制度」としてリニューアルしました。正規従業員で3年以上の勤務と、条件の緩和がされています。
サイボウズ
サイボウズには、「育自分休暇」と呼ばれるユニークな制度があります。2012年に立ち上がった制度で、35歳以下のエンジニア、スタッフが対象になります。これを利用すると、退職から6年間は復帰可能となります。出戻り(カムバック)の推奨だけでなく、サバディカル休暇などの意味合いも含まれた制度と言えます。
関連記事:サバティカル休暇とは|再学習の機会とリフレッシュを促す制度
ニトリ
ニトリでは、2014年7月より、ジョブ・リターン(再雇用)制度を導入しています。結婚や育児、介護といったやむを得ない事情だけでなく、キャリアアップのための転職や留学によって退職した方も対象になります。退職後15年以内と、期間が少し長めに設定されています。
終わりに
「出戻り社員=裏切り者」という図式は時代遅れです。育児や介護、出産などやむを得ない事情で会社を離れてしまった優秀な人材も多く存在します。そういった人材を出戻り社員として再雇用できることは、会社にとって非常に有用です。ただし、出戻り社員においては、現在会社で働いている従業員の理解を得られるような形での雇用が重要です。もし実施する場合は、出戻り社員、受け入れ側である既存社員の双方が納得できるような再雇用制度を設計しましょう。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等