グローバリゼーション、IT技術の発展、異常気象の発生、世界的に流行する疫病の蔓延によって、類を見ないほどに産業構造は大きな変化を迫られています。日本でも、終身雇用や年功序列を基本としたメンバーシップ雇用からの脱却を図り、職務を中心に採用を行うジョブ型雇用へ移行する企業も増えてきています。
このジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いは?今回は、日本型雇用とも言われるメンバーシップ型雇用について詳しく解説します。
目次
メンバーシップ型雇用の定義とは?
業務内容や勤務地を決めずに、総合職として採用し、配置転換しながら従業員を育成していく雇用方法です。新卒一括採用、終身雇用、年功序列など、従来から広く日本で採用されてきたシステムになります。新卒一括採用という言葉の通り、スキルや経験よりも、やる気や情熱、描くビジョンなどを尊重し、会社に迎え入れます。
就職してからは、数年単位でジョブローテーションを行い、その過程で経験やスキルを積ませます。スペシャリストというよりは、ジェラリストとしての育成を主眼に置いています。
メンバーシップ型雇用の特徴
メンバーシップ型雇用は、終身雇用を前提としています。人材育成に手をかけて、長く働いてもらうことに重きを置いているため、スキルや経験が少なくても、ジョブローテーションのなかで経験を積んでいくことができます。
ただし、単身赴任を前提とした遠方地への転勤、自分のスキルが活かせない事業部への異動など、自身が描くキャリアビジョンや、出産・育児といったライフステージとミスマッチが発生する恐れもあります。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違い
メンバーシップ型雇用が、業務内容や勤務地を決めずに採用をする、どちらかといえば「就社」であるのに対し、ジョブ型雇用はスキルや職務をベースに採用する「就職」になります。ジョブ型雇用では、採用の時点で職務に求められるスキルや能力を明確にしており、それに見合った人材を募集します。メンバーシップ型雇用では、どちらかといえば若手人材(新卒)が有利ですが、ジョブ型雇用は、年齢や性別、学歴などは関係なく、スキルや能力の高さが重視されます。
また、職務が決まっているため、業務範囲は限定的です。また、即戦力人材として採用をするため、入社後、企業が想定していた水準を下回るスキルや能力であると、活躍は期待できないでしょう。
関連記事:ジョブ型雇用の意味とは|年功序列から脱却した成果主義の働き方
タスク型雇用とは?
近年は、ジョブ型雇用から派生して、タスク型雇用と呼ばれる雇用形態が普及しています。タスク型雇用とは、期間や業務範囲が限定的なタスクごとに採用をする雇用形態です。ジョブ型雇用よりも、柔軟に即戦力人材を採用できるため、変化に強い特性があります。単発で特定の業務をアウトソースするギグワークやクラウドソーシングなどが形態としては近いといえます。ただし、日本の現在の法規制では賃金が不安定になり、また労災や雇用保険などへの加入義務がないため、労働者を適切に保護できないという難点があります。
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メンバーシップ型雇用が普及した背景
メンバーシップ型雇用が普及した背景は、戦後の高度経済成長期の1950〜1960年まで遡ります。この頃には、現在の年功序列、終身雇用制度の原型がホワイトカラーだけでなく、ブルーカラーにも浸透していきます。高度経済成長期の1955〜73年の成長率は、平均で10%前後であったと言われており、比例して給与も増えていくような時代でした。
しかし、1991年にバブルが崩壊して日本経済の成長率が停滞した頃から、今まで採用していたメンバーシップ型雇用では、時代に則さなくなりました。そこで注目を集めているのがジョブ型雇用です。メンバーシップ型雇用のように、終身雇用を前提とせずに、スキルや能力をベースに即戦力を採用する方向に、富士通、資生堂などの大企業も進み始めています。
メンバーシップ型雇用のメリット
メンバーシップ型雇用のメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
基本的に、終身雇用が約束されている
業績悪化など特別な事情がない限りは、終身雇用を前提とした人事制度や育成計画が組まれています。欧米諸国では地域や業界ごとに労働組合が存在しますが、日本では企業ごとに存在し、雇用の安定やベースアップなどの保障がされています。
ジェネラリストを作れる
ジョブローテーションを通して、さまざまな業務を経験させることで、幅広いスキルを持ったジェネラリストを育成できます。自分の管轄範囲だけでなく、他部署・他事業部の課題や役割を即座に把握・認識できるため、万が一、優秀な人材が離職をしてしまっても、社内の従業員で補完させることが可能となります。
採用コストを抑えられる
ジョブ型雇用だと、すでにスキルや能力をもった即戦力人材を採用することになるため、採用コストが高くなります。一方でメンバーシップ型雇用は、新卒一括採用をベースとするため、比較的安く採用が行えます。
メンバーシップ型雇用のデメリット・問題点
メンバーシップ型雇用は、メリットも多く存在しますが、終身雇用を重んじるがゆえに、組織の新陳代謝が停滞したり、優秀な人材が流出したりといったデメリット・問題点なども存在します。
組織の新陳代謝が停滞する
メンバーシップ型雇用は、終身雇用制度、年功序列をベースとした制度です。数年で退職を
されてしまうと、育成に要したコストを回収できなくなってしまいます。そのため、会社は従業員に長くいてもらうために、福利厚生や給与、待遇などを整備します。従業員側からすれば、非常に雇用が安定した良い会社と感じますが、裏を返せば新陳代謝が滞り、やがて衰退していく組織ともいえます。柔軟に対応できるジェラリスト人材を育成しつつも、同時に退職や離職を戦略的に実行できるようなイグジットマネジメントの実施が重要です。
関連記事:イグジットマネジメントとは|個人のキャリアを尊重し、組織の新陳代謝を促進する取り組み
優秀な人材の流出
ジョブ型雇用では、スキルや経験、成果に応じて給与が支払われます。それに対してメンバーシップ型雇用では、勤続年数や年齢などによって給与が反映されます。そのため、能力やスキルが秀でていても、給与の額が大きく増えることは考えにくく、より条件の良い競合他社へ優秀な人材を流出させてしまう原因になる恐れがあります。
人材コストが嵩む
ジョブ型雇用では、即戦力人材を高い給与で雇用します。メンバーシップ型雇用は、新卒一括採用をベースに、不足分を中途採用、キャリア採用で補完するという流れで、一見人材に係るコストは高くないように感じます。しかし、スキルや能力を持っていない新卒の教育コストもかかります。また勤続年数をベースにした給与反映であれば、会社の多くをベテラン社員が占めるようになると、人材に係るコストだけ増えて、それに見合った成果が出ないこともあります。
終わりに
今では、旧態依然としたメンバーシップ型雇用から脱却し、ジョブ型雇用に切り替えようという論調が盛んです。しかし、メンバーシップ型雇用は古くから日本に根ざしてきたシステムであり、すべてを否定することは適切ではありません。
KDDIのように、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用双方の良い部分を取り入れるハイブリッド型を推進する会社も登場してきています。自社にとって、メンバーシップ型雇用、ジョブ型雇用どちらが適しているのか、入念に検討した上で導入を行いましょう。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等