ビジョン経営、ティール組織、その次に注目されている言葉が「パーパス」です。パーパス経営、パーパスブランディングなどと呼ばれ、次世代の企業のあり方として一部の企業で採用が進んでいます。本記事では、パーパスの定義や今の時代に必要な理由や背景について解説します。

パーパスとは?

パーパス(Purpose)は直訳すると、目的や狙いという意味ですが、ビジネスシーンでは
「会社は何のために存在しているのか」「どのような価値を社会に提供しているのか」といった会社や組織の存在意義を指します。

マーケティング戦略モデルの1つに「9P」と呼ばれるものがあります。これは、

・Product(プロダクト)
・Performance(パフォーマンス)
・Position(ポジション)
・Purpose(パーパス)
・Potential(ポーテンシャル)
・Price(プライス)
・Place(プレイス)
・Promotion(プロモーション)
・Profit(プロフィット)

の頭文字をとった言葉です。もともと、Purpose(パーパス)はマーケティングにおいて重要な指標の1つでしたが、ミッション、ビジョン、バリューとともに、欠かせない経営指標となりつつあります。

パーパスと経営理念の違い

パーパスとよく混同される言葉が経営理念です。経営理念(ミッション)との明確な違いは以下です。

経営理念(ミッション)・・・何をすべきか
存在意義(パーパス)・・・なぜ存在するのか

経営理念(ミッション)は、目指すべき姿にたどりつくにはなにをしなければいけないのか、あくまでDoが主体となります。それにたいし、パーパスは経営理念(ミッション)の土台ともいえる部分であり、言うなれば会社の核です。

しかし、組織によっては経営理念とパーパスが混在しているケースも見受けられるため、一概にこのとおりにカテゴライズできるわけではありません。

パーパス経営(パーパスマネジメント)とは?

その名のとおり、パーパスを深めてそれを体現していく経営手法です。資本主義下では、株主を主体とし、利益を追求して事業規模を拡大することが正とされてきました。

 

しかし、テクノロジーの急速な発展、年々猛威を振るう異常気象などを起因として、ビジネス環境は目まぐるしく変化しています。自社だけが勝つのではなく、取引先、業界、国、地球環境などあらゆるステークホルダーと共生していくことが大切になります。

パーパスが注目されている理由

なぜ、これほどまでにパーパスという概念が重要視されているのでしょうか。それは大きく以下の3つに集約されます。

株主至上主義の終焉

高度経済成長期の頃には、利益第一主義、株主至上主義といった言葉が声高に叫ばれていました。営利活動を行う以上、利益を追求することは間違いではありません。従業員の雇用を守るためにも、事業の成長や拡大は避けて通れません。しかし、その結果、地球環境の汚染や地球資源の浪費、格差拡大といった問題を引き起こしています。

2019年には、アップルやウォルマートが加盟する財界ロビー団体「ビジネスラウンドテーブル」は次のような声明を発表しました。

「どのステークホルダーも不可欠の存在である。私たちは会社、コミュニティー、国家の成功のために、その全員に価値をもたらすことを約束する」

 

これは、株主至上主義から脱却し、ステークホルダーを重視する姿勢に転換したことを意味します。株主の意向だけを尊重するのではなく、クライアント、カスタマー、サプライヤー、地域社会、国、地球環境などあらゆるステークホルダーの利益に配慮する考え方は今後主流になるでしょう。

 

関連記事:共創社会で重要視される戦略|SX(サステナビリティトランスフォーメーション)とは?

広がる企業の社会的責任

会社には、社会的良識や規範、倫理を求める傾向が年々強まっています。特に、近年はESC投資という概念があるように、カスタマーだけでなく株主も環境配慮やダイバーシティといった点に目を光らしています。

今やSNSで誰でも発信できてしまう時代です。不正や倫理に反することが発覚すれば、ひとたびすぐに炎上してしまいます。利益を追求するだけでなく、「社会の顔」として正しくあり続けることが必要になっています。

価値観の転換

今後、消費の牽引役となるのが、今の10〜30代にあたるZ世代とミレニアル世代です。ミレニアル世代、Z世代に特徴的なのが、多様性を尊重し自分らしさを大切にする価値観です。いくら、給料の良い会社であっても、その会社が社会や地球環境にとって価値のないものであれば、魅力を感じないのです。

 

関連記事:大学生をしながら正社員で就職。「Z世代」が語る大切にしたい働き方、生き方とは

 

ミレニアル世代の第一線を走るマーク・ザッカーバーグ氏も、2017年5月に母校ハーバード大学の卒業式演説で、下記のように述べています。

「皆さんが自分自身の存在意義(パーパス)を見いだすだけでは不十分。我々の世代に大切なのは、全ての人が存在意義を持てる世界にすること」

パーパス経営(パーパスマネジメント)のメリット

パーパス経営に切り替えると、具体的にどのようなメリットを享受できるのでしょうか。

ステークホルダーからの信頼を勝ち取れる

パーパスを明確に提示することで、カスタマー、サプライヤー、クライアント、株主といったステークホルダーからの信頼を勝ち取れて、持続的な成長につなげることができます。

イノベーションの創出

既存の事業を革新させたり、なにか新しいものを生み出したりするのは、ロールモデルはなく、正解を自ら作り出していく必要があります。そういった時に羅針盤になるのがパーパスです。迷ったときの判断基準となり得ます。

従業員のエンゲージメント向上

給与や事業規模も仕事のモチベーションの1つにはなり得ますが、何より大きなやりがいは会社に対しての誇りです。例えば、対外的には社会貢献を謳っているものの、裏側では不正や倫理に反することをしている事実があれば、その会社を成長させたい、認知させたいとは思わないでしょう。エンゲージメントが高まれば、会社全体の生産性も向上します。

パーパスを導入する手順

パーパスを明確にし、それを伝えたところで現場にいる従業員がそれを真に理解し、
実践しなければ絵に描いた餅で終わってしまいます。ここでは、パーパスを導入する際の手順について解説します。

パーパスの再定義

まずは、ミッション、ビジョン、バリュー(MVV)を整理し、パーパスを再定義しましょう。理想は、経営陣が自分自身で生み出した言葉であることです。表面的なパーパスでは現場には刺さらないし、浸透しません。

よりわかりやすく、シンプルに言語化する

パーパスが再定義できたら、それを誰もが読んでも理解できるように言語化しましょう。どの立場、職位の人が見ても理解できるように、多角的な視点でストーリーをつないでいくことが重要です。

経営計画に落とし込む

パーパスを作って伝達するだけでは、現場で働く従業員には実感が持てません。経営計画、事業計画に落としこんで、はじめて成果を可視化できます。パーパスを作って終わりにせずに、効果検証をし、その後も改善し続けることが肝心です。

1on1による現場への浸透

パーパスを理解できても、それを現場の従業員が自分ごと化できなければ、組織には浸透しません。1on1で現場の従業員と議論して、考える機会、気付きの時間を設けることで、深い理解を促進できます。

パーパス経営(パーパスマネジメント)を導入している会社事例

最後に、すでにパーパス経営を実践している成功事例を紹介します。

ネスレ

ネスレは、創業150周年を迎えた2016年に、「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」というパーパスを掲げました。このパーパスを実現するため、「個人と家族」「コミュニティ」「地球」の3つのカテゴリで推進しています。個人と家族では、コーヒーマシンを活用してもらう取り組み「ネスカフェ アンバサダー」や、自宅で手軽に栄養素を摂取できるスムージー「nesQino(ネスキーノ)」の販売を開始しています。

 

また、コミュニティでは、沖縄で苗木を生育する産学官連携プロジェクト「沖縄コーヒープロジェクト」、保護猫の啓発と譲渡促進を目的とした「ネコのバス」、地球の環境配慮ではネスカフェやキットカットなどの主力商品の紙パッケージ化など、コーヒーにとどまらず多岐にわたり事業展開しています。

ユニリーバ

ユニリーバは、「サステナビリティを暮らしの“当たり前”に」というパーパスを設計し、プラスチックにおける循環型経済へ移行しました。具体的には、一部のブランドでプラスチック容器の生産量減少や再利用、環境配慮型のプラスチック容器の開発などを行っています。

その結果、環境配慮した製品を使いたいユーザーから多大なる支持を得ました。ユニリーバが運営するその他ブランドと比較すると、サステナビリティ戦略を中核におくブランドが46%速く成長したという結果も出ています。

終わりに

パーパスは、企業や組織に内在する価値です。けっして難しいものではないが、パーパスを表面的になぞり、発信しただけではむしろステークホルダーからの信頼は下がり、逆効果です。パーパス経営を実践する際は、絵に描いた餅になっていないか、実態のある取り組みになっているか、確認しながら進めていきましょう。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等