イクボスの意味とは?

イクボスの意味とは、イクメン(育児メンズ)になぞらえてできた造語で、「部下の仕事と育児を応援し、自らもそれを実践している管理職」のことで。イクボスは、NPO法人ファザーリング・ジャパンの創設者、安藤哲也氏によって提唱されました。2014年から、イクボス養成講座、イクボス検定などを含む「イクボスプロジェクト」が始まり、普及活動に乗り出しています。近年では、厚生労働省とも連携し、徐々にイクボスの取り組みが企業や自治体に広がりつつあります。

イクボス宣言とは?

イクボスプロジェクトの一環として、イクボス宣言と呼ばれるものがあります。これは、企業、自治体がイクボスの計画について宣言をし、実行に至るまでを報告する取り組みです。宣言する前には、NPO法人ファザーリング・ジャパンが独自に作成したイクボス10か条に誓うことにサインします。

イクボス宣言には決まった様式はなく、各企業、自治体独自のフォーマットで宣言を行っています。イクボス宣言することで、それぞれの企業、自治体の育児に対する取り組みが明らかになり、社内外に仕事と育児の両立の重要性を浸透させるきっかけになります。

イクボス企業同盟とは?

イクボスプロジェクトの一環で立ち上がったもので、加入すると同盟内で開催される勉強会に参加できたり、情報交換ができたりします。みずほ銀行、損保ジャパン、清水建設、サントリー、カルビーなど名だたる企業が加盟しています。

企業同盟は、企業規模によって「イクボス企業同盟」と「イクボス中小企業同盟」の2つに分かれています。イクボス企業同盟には誰でも加入できるわけではなく、以下の要件を満たす必要があります。

  • ダイバーシティ経営の推進を行っている、これから行おうとしている
  • 管理職の意識や働き方改革を模索している
  • 経営トップがそのことに理解があり、経営戦略としてコミットしている
  • イベントまたは定例会への参加と取り組みに関する情報発信ができる

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イクボスに欠かせない「イクボス10か条」

イクボスを実施する上で外せないのが、「イクボス10か条」です。NPO法人ファザーリング・ジャパンから、抜粋引用しました。

1.理解
現代の子育て事情を理解し、部下がライフ(育児)に時間を割くことに、理解を示していること。

2.ダイバーシティ
ライフに時間を割いている部下を、差別(冷遇)せず、ダイバーシティな経営をしていること。

3.知識
ライフのための社内制度(育休制度など)や法律(労基法など)を、知っていること。

4.組織浸透
管轄している組織(例えば部長なら部)全体に、ライフを軽視せず積極的に時間を割くことを推奨し広めていること。

5.配慮
家族を伴う転勤や単身赴任など、部下のライフに「大きく」影響を及ぼす人事については、最大限の配慮をしていること。

6.業務
育休取得者などが出ても、組織内の業務が滞りなく進むために、組織内の情報共有作り、チームワークの醸成、モバイルやクラウド化など、可能な手段を講じていること。

7.時間捻出
部下がライフの時間を取りやすいよう、会議の削減、書類の削減、意思決定の迅速化、裁量型体制などを進めていること。

8.提言
ボスからみた上司や人事部などに対し、部下のライフを重視した経営をするよう、提言していること。

9.有言実行
イクボスのいる組織や企業は、業績も向上するということを実証し、社会に広める努力をしていること。

10.隗より始めよ
ボス自ら、ワークライフバランスを重視し、人生を楽しんでいること。

近年、この中で特に重要なのが「ダイバーシティ」です。入管法も改正され、これから多くの外国人労働者が日本に増え、より多様な価値観と考えを受け入れる姿勢が大切です。どれだけ従業員のライフスタイルを理解し、寄り添えるかがポイントです。

▶︎▶︎フルフレックスな働き方を推進する企業も増えております。
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育児休暇と育児休業の違い

イクボスを実施するには、育児休暇と育児休業の違いを理解しておきましょう。両者は似て非なるものです。育児休暇は、あくまで休暇であり、法律で定められたものではありません。それに対し、育児休業は、「育児介護休業法」という法律で定められたものであり、以下の条件を満たした場合のみ取得可能です。

【条件】

  • 1歳未満の子供を持つ全ての人
  • 雇用期間が1年以上

認可が降りると、国から「育児休業基本給付金」「育児休業者職場復帰給付金」がもらえます。また,社内、規定に育児休業の項目の記載がなくても、企業は育児休業の実施を拒否できません。もし、拒否あるいは不当解雇や左遷など従業員に不利益をもたらす行為をした場合、従業員は労働局に是正を求めることができます。

 

詳しくは「育児・介護休業法のあらまし」をご参照ください。

なぜイクボスが注目されている?

イクボスが注目されている背景とは?それは以下の3つのポイントに集約されます。

育児休暇・休暇を取りにくい現状

厚生労働省が行った「平成30年度雇用均等基本調査(速報版)」によれば、男性の育児休業取得者の割合は6.16%、女性は82.2%となっています。男性の育休取得率は、6年連続でアップしているものの、未だ一桁台にとどまっています。

<参照:平成30年度雇用均等基本調査(速報版)

また、三菱UFJリサーチコンサルティングが行った「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査」によれば、育児休業制度を「利用したかったが制度がなかった」が20%、「利用しなかったが利用したかった」が15.3%で、約35%は育児休暇をとりたいのに何らかの理由で取得できていないことが伺えます。また,育児休業を利用しなかった理由で多いのが、「育児休業をとりにくい雰囲気」がダントツで、次に人手不足が挙げられています。

<参照:平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査

このような現状から、政府も育児休暇・育児休業の推進をしており、2020年までに男性の育児休業・休暇取得率を13%まで押し上げることを目標に掲げています。

若手人材の減少

2030年頃から、団塊ジュニア世代が引退し、働き手が減少するとされています。少子化により、高齢者の割合が30%を超え、若手人材が貴重な存在になります。少子化を防ぎ、若手人材を流出させないよう、管理職がまず育児に専念し、若手人材と同じ目線に立つことが求められます。

管理職の負担軽減

大量採用の反動で、ベテラン社員と若手社員の間を埋める中間層の不足が多くの企業で起こっています。また、長時間労働の規制により、未完了の業務のしわ寄せが全て管理職に来ている現状があります。管理職のワークライフバランスを改善することで、より若手の人材育成をする余力もできるということで、このイクボス制度が注目されています。

イクボスをすることで得られるメリット・効果

では、イクボスを推進することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

エンゲージメント率の向上

育児休暇・育児休業を取得できる職場に生まれ変わることで、プライベートも仕事も全力で取り組めるケースが増え、結果的に長く働く従業員が増えます。その結果、企業に対するエンゲージメント率が向上します。

採用コストの削減

イクボスの活動が求心力となり、企業イメージのアップにつながります。また、その取り組みに共感した求職者からの問い合わせも多くなり、「自然に人が集まる企業」になります。

業務効率の改善

皆がプライベートと仕事を両立することで、全体のチームワークも向上し、業務効率アップにつながります。特に、管理職が育児に取り組む様子を見せることで、風通しの良い雰囲気に変わります。

▶︎▶︎フルリモートを活用することで更に業務効率が向上します

イクボスを導入するのに必要な3つの要素

イクボスの導入で重要なのは、「制度設計・見直し」「普及活動」「業務量」の把握の3つです。

支援制度の設計・見直し

育児休業は、法律によって決まっている制度です。従業員が自発的に取得できるような社内規定の見直しや、制度設計が必要です。また、現実的に従業員側が長期休暇をとれない場合でも、短期間取得できる制度を独自に設計することも大切です。産前休暇制度、リモート支援制度など、各企業では育児をサポートするさまざまな取り組みが行われています。

 

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育児休暇の普及・促進

育児休暇の制度を作っても、従業員に知ってもらわなければ意味がありません。前述のアンケートでもあったように、「育児休暇をとりにくい雰囲気」が育児休暇の普及を妨げる原因になります。管理職が自ら制度を利用し、率先して部下に働きかけましょう。

業務の効率アップ・業務量の調整

働き方改革法案により、長時間労働に規制がかかり、管理職にだけしわ寄せが来ているケースが多く見受けられます。イクボスの普及には、管理職の育児と仕事の両立が絶対条件です。改めて、経営者が売上優先で従業員を疲弊させていないか、業務量を見直しましょう。

イクボスを採用している企業の取組事例集

最後に、イクボスを採用している企業の取組事例をいくつかご紹介します。

トヨタ自動車株式会社

トヨタでは、管理職が在宅勤務を経験する「イクボストライアル」という制度を実施しています。これにより、「在宅勤務は特殊である」という偏見をなくし、在宅勤務の導入をスムーズにしました。また、意識改革の面では、社内イントラにて管理職のイクボス宣言を掲載、これにより男性の育児に対する考え方を変えるきっかけになっています。

アイシン精機株式会社

2015年9月からイクボスを育成する「イクボス塾」を設立。徐々にイクボスに対する社内の意識も前向きに変化しました。さらに、イクボス卒業生は次期以降には「アドバイス役」として「イクボス塾」に参加。その結果、ノウハウが社内に蓄積し、年々この「イクボス塾」でユニークなイクボスに関する取り組みや制度が立ち上がっています。

まとめ

イクボスを導入する際に注意したいのが、世代間の価値観の擦り合わせです。上の世代では、長時間労働を良しとする価値観で過ごしてきた人も多く、この価値観を否定せず、どうイクボスという制度に理解を示してもらえるかが、イクボス普及成功のカギとなるでしょう。

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑
Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等