新しい働き方やワークライフバランスが重要視される今、注目を集めているのが「時差出勤」というワークスタイルです。本記事では、時差出勤のメリットや、導入方法などについてわかりやすく解説します。

 

時差出勤の意味や定義とは?

時差出勤とは、人によって始業時刻に時差を持たせるワークスタイルのことを言います。

もともとの始業時刻が9時だとすると、Aさんは30分早く8時半に出社、Bさんは通常どおり9時出社、Cさんは1時間遅く10時出社など、パターンは人それぞれです。もちろん始業時刻に合わせて、退勤時間も後ろ倒しになります。

時差出勤とフレックスタイム制(裁量労働制)の違い

時差出勤と混同されがちなものにフレックスタイム制(裁量労働制)があります。2つはまったく異なる働き方で、違いは1日の労働時間が変わるか否かです。

 

時差出勤は始業時刻を早めたり遅くしたりする制度であり、1日の労働時間は変わりません。一方フレックスタイム制は、月間における総労働時間を満たし、コアタイム(必ず働かなければいけない時間)さえ守っていれば、自由に始業・終業時刻を設定できます。

 

例えばコアタイムが13時〜15時だとすると、10時〜16時、11時〜15時、11時〜19時という時間設定が可能です。このように1日の労働時間を柔軟に変更できるのがフレックスタイム制の特徴です。

 

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時差出勤とシフト勤務の違い

シフト勤務と時差出勤の違いは、あらかじめ出勤時間が決められているかどうかです。シフト勤務は、シフトのパターンがいくつか決まっており、社員は自分が入れるシフトを選択します。

 

それに対して、時差出勤は社員一律で決められた始業時刻を基準に、各自早めたり遅くしたりして勤務します。あくまでも社員一人ひとりの生産性や働きやすさの向上が目的のため、個人の事情に合わせて始業時刻を決めることができます。

時差出勤が注目される理由

時差出勤が広がってきた背景には、どのような理由があるのでしょうか?

家庭と仕事の両立を図る

ワークスタイルの多様化、QOLへの関心の高まりなどを背景に、家庭と仕事の両立を重視する動きが活発化しています。育児・出産、介護など家庭の事情により、やむなく離職をする人もいます。時差出勤を導入することで、始業時刻の選択肢が広がって家庭に費やせる時間を捻出できますし、プライベートも充実も図れます。

 

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感染症対策

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、密集を避ける動きが加速しました。時差出勤を導入することで、オフィスに勤務する人数を減らせるだけでなく、満員電車など不特定多数の人との接触頻度を下げることで、感染リスクを減らせます。

通勤ラッシュの混雑緩和

時差出勤を取り入れる人や会社が増えることで、それが結果的に通勤電車の混雑緩和につながって、ひいては電車の遅延や電車内におけるトラブルを減らし、社会に良い影響を与えます。

時差出勤のメリット

時差出勤を取り入れることで、社員・企業双方にどのようなメリットがあるのでしょうか。

 

まず社員にとっては、通勤ラッシュを避けて出社できます。通勤ラッシュを避けられれば、朝から精神的・肉体的ストレスや疲労を感じることなく、仕事に臨めます。

 

また、育児や介護などで定時出社が難しい方が、家庭やプライベートを犠牲にせずに働けるようになります。

これら社員自身のメリットは、結果的に企業のメリットにつながります。家庭と仕事の両立が図れることで、社員の心身の状態が改善され、結果的に生産性アップや離職率の低下などにつながる可能性があります。

時差出勤のデメリット

その一方で、時差出勤のデメリットもあります。時差出勤は個人によって出勤時間が異なるため、正確な勤怠管理が求められます。あらかじめ勤怠管理システムや申請方法などを決めておきましょう。

 

また、個人によってオフィスに在席する時間が異なるため、コミュニケーション不足に陥る可能性があります。出勤時間の把握や、オンライン会議を取り入れるなど対策を講じましょう。

 

気持ちの面においては、時差出勤制度を活用する従業員が退社しにくい雰囲気が醸成されるというデメリットも考えられます。このように、心理的安全性が低い状況では時差出勤制度は定着せずに形骸化していきます。時差出勤制度の周知徹底、管理職が率先して利用するといった対策を行いましょう。

 

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時差出勤を導入する手順・やり方

具体的に、時差出勤を導入するには、どのような手順が必要になるのでしょうか。

時差出勤の実施期間や対象を決める

まず、時差出勤の実施期間や対象を定めます。緊急対応時や繁忙期など、より多くの人的リソースを必要とする期間は除外します。また、時差出勤をすることで業務効率の低下が予想される部署や事業部(密な連携が必要とされる)も除外とします。

就業規則の整備

就業規則も見直しましょう。時差出勤の導入にあたって労使協定の締結は不要ですが、就業規則には時差出勤の旨を明記しておきます。主な見直し対象箇所は「労働時間」の部分です。

時差出勤とフレックス制の違いとは|課題やメリットについて|mazrica times

加えて下記のように、時差出勤がある場合の補足を定義します。

時差出勤とフレックス制の違いとは|課題やメリットについて

原則の労働時間(始業・終業時刻)は就業規則の絶対的必要記載事項に当たるため、必ず明記しなければなりません。そのため時差出勤のような変則的な時間労働制は、上記のように条件を具体的に記載する必要があります。

もし時差出勤を取り入れることで始業時刻・終業時刻を選択制にする場合は、すべてのパターンを規則に書きます。記載例は下記のとおりです。

 

時差出勤とフレックス制の違いとは|課題やメリットについて

合わせて、時差出勤を何日単位で利用できるのか、利用する場合はいつまでに申請すれば良いかも明記します。

業務フローの見直し

時差出勤で懸念される点がコミュニケーション不足です。コミュニケーション不足の状態下でいると、ミスやトラブルが多くなり、最悪の場合はクレームや炎上などに発展します。決済フローの見直し、情報共有ツールやコミュニケーションツールの導入など、担当者が不在でも円滑に連携できるような仕組みを構築することが肝心です。

時差出勤を導入する際の注意点

最後に、時差出勤の導入で注意すべきポイントについて解説します。

一斉休憩は適用除外に

労働基準法の第34条では、労働時間が1日6時間を超えたら45分以上、8時間を超えたら1時間以上の休憩時間をとるよう定められています。

しかし、時差出勤では一人ひとりの勤務時間がバラバラなため、一斉休憩の適用が難しくなります。時差出勤を導入する際は、労使協定の締結を行い、就業規則の休憩の項目を修正します。

 

ただし、運送業や金融広告業、飲食店や旅館、電気通信などのサービス業では、利用客が不便にならないように休憩時間の一斉付与は適用外とされています。労使協定の締結も不要です。

通常と同じく、深夜残業では割増賃金になる

時差出勤でも同様に、深夜残業は割増賃金扱いになります。労働基準法の第37条によると、深夜(原則として午後10時〜午前5時)に労働させると、25%以上の割増賃金を払う必要があります。

 

労働時間の把握を徹底する

時差出勤制度では、社員によって出社や退社の時間がバラバラになります。労働時間を正しく管理していなかったばかりに、残業代が未払いになっており、遅延損害金(遅延利息)の支払いを請求されるトラブルに発展することも。勤怠管理ツールを導入し、勤務状況の管理を徹底しましょう。

終わりに

心身の負担を減らして健康的に働くことは、社員のみならず企業にとっても良いことばかりです。働き方の選択肢を広げて、社員一人ひとりが無理のない働き方をするために、時差出勤の導入も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等