トータルリワードとは、金銭的報酬に囚われず、総合的に従業員に対する報酬をとらえる考え方で、元々アメリカを中心とした欧米圏で普及していましたが、近年は日本でも少しずつ注目を集めています。本記事では、トータルリワードの定義やメリット、導入のポイントについて解説します。
目次
トータルリワードとは?
トータルリワードとは、「トータル(総合的な)」と「リワード(報酬)」を組み合わせた造語で、金銭的報酬と非金銭的報酬を総合的に勘案して決める報酬マネジメント体系です。元々は、アメリカを中心とした欧米の企業で使われた考え方で、近年日本でも注目が集まっています。報酬と聞くと、給料やボーナス(賞与)、福利厚生などが想起されますが、実は目に見えないやりがいや成長できる環境、ワークライフバランスなども間接的な報酬(動機付け)としてとらえることができます。
金銭的報酬
金銭的報酬とは、一般的に思い描くような給与、ボーナス、深夜手当、残業手当、退職金などが該当します。その他、直接金銭に結びつかない福利厚生、年金制度、能力開発なども当てはまります。金銭的な報酬は、従業員のモチベーションを高める起爆剤となりますが、際限なく上げ続けることは現実的とはいえず、金銭的報酬のみでの動機付けは難しいといえるでしょう。
非金銭的報酬
非金銭的報酬とは、まさに読んで字の如し、金銭を伴わない報酬のことです。例えば、仕事のやりがい、成長できる環境、ネームバリュー、ワークライフバランス、心理的安全性などが挙げられます。金銭的報酬と比較するとコントロールが難しいですが、コストをかけずに動機付けできるため、多くの会社が採用活動で、自社を訴求するポイントとして活用します。
トータルリワードに注目が集まっている理由
なぜ、トータルリワードに注目が集まるようになったのでしょうか。それは、価値観の多様化と労働力不足によるものです。国籍、性別、価値観、世代などの壁をなくし、個々の強みを互いに尊重し合うダイバーシティの観点が重要視され、企業経営においても外せない概念の1つとなっています。
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また、こと日本においては労働力不足が深刻です。2022年に総務省が行った統計によれば、労働人口の中核を占める生産年齢人口(15〜64歳)の割合は全人口の59.4%で、統計開始の1950年以来、もっとも低い数値となっています。
やがて、近い将来、労働力不足が地方都市だけでなく東京や横浜、大阪などの中枢中核都市でも起こると想定されます。そうなったときに、生き残るのは魅力的な会社であり、働きがいのある会社でしょう。早いうちから、トータルリワードという考え方を採用することで、優秀な人材の流出を防げて、企業競争力を高めることができます。
トータルリワードを導入するメリット
トータルリワードを導入すると、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
モチベーションの向上
金銭的報酬だけでなく、非金銭的報酬を取り入れることで、従業員のモチベーションを向上させることができます。「もっと会社に貢献したい」「やりがいがあって楽しい」「自己成長の機会が多くて充実している」などの感情を抱くことで、やる気が高まり、自発的に行動するようになります。
優秀な人材の獲得や定着
トータルリワードを導入することで、従業員の定着率が向上します。ポストオフ制度(役職定年制)の導入においては、特に相性の良い制度と言えるでしょう。高い人材定着率が維持できれば、組織の成熟化にもつながり、優秀な人材獲得競争でも有利に働きます。
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業務効率の改善
金銭的報酬が高くても、非金銭的報酬が不足している状態では、従業員の不満を抑えることはできても、モチベーションを高めることはできません。反対に、非金銭的報酬が高くても、金銭的報酬が低い場合、やりがい搾取のような状況となり、いずれ従業員の不満が噴出してしまいます。金銭的報酬、非金銭的報酬をバランス良く設計することが肝心です。
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トータルリワードを導入するデメリット
トータルリワードの導入は、基本的に金銭的報酬と非金銭的報酬の組み合わせです。特に、後者の非金銭的報酬においては個人差があり、従業員に応じた設計がマストになるでしょう。一辺倒に、トータルリワードを導入すると「まるで気持ちがわかっていない」と、現場社員からの反感を招くケースもあるため、導入の際には、後述するポイントを参考にしてみてください。
トータルリワードを導入するポイント
最後に、トータルリワードを導入するうえで大切なポイントについて解説します。
金銭的報酬と非金銭的報酬のバランスを考える
トータルリワードは金銭的報酬と非金銭的報酬のバランスが重要です。どちらが欠けてもいずれかが偏っていても成立しません。つい、金銭的報酬を手厚くしてしまいがちですが、金銭的報酬は最低限の生存欲求や安全欲求を満たすものであり、社会的欲求(所属欲求)や自己承認欲求を充足するものではありません。やりがいや成長できる環境などの非金銭的報酬があってはじめて、これらの高次的欲求を満たすことができるのです。
報酬を渡すタイミングに注意する
報酬を渡すタイミングに注意しましょう。これは、金銭的報酬にとどまらず、非金銭的報酬でも同様です。例えば、仕事で成果を上げたメンバーがいたとして、その上司が報告があった日にその場で褒めるのと、1ヶ月後に褒めるのでは著しく価値が落ちるように、時間が経過するとともに、報酬の価値が減少してしまいます。
従業員とのコミュニケーションを活発にする
非金銭的報酬で重要なのは、つまるところコミュニケーションの数と密度です。取引先のトラブルを丸く収めた従業員に感謝の念を伝える、昇進を果たした部下に祝福の言葉をかける、遅くまで残業をするメンバーに栄養ドリンクを渡すなど、これらはすべて今すぐに実践できるもの。とにかく些細な気遣い、コミュニケーションの積み重ねが大切です。
終わりに
トータルリワードという考え方は、さほど難しいものではありません。前述したように、従業員に労いや感謝の言葉をかけることも非金銭的報酬に該当します。もちろん、この取り組みだけでは、組織が抜本的に変わるものではありませんが、こういった些細なコミュニケーションの積み重ねが、やがてカルチャーとなり、トータルリワードの取り組みそのものとなっていきます。
ただし、先ほども記載したように、非金銭的報酬を全面に押し出しすぎると、やりがい搾取のような状況になる恐れも。金銭的報酬と非金銭的報酬のバランスを鑑みて、トータルリワードを実践していきましょう。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等