ポストオフとは、定年前の一定のタイミングで役職を退任する制度です。ベテラン社員の早期退職を促進するといったネガティブな印象を持たれがちですが、組織の新陳代謝を活発にしたり、若手社員に活躍の機会を与えることができたりなど、会社にとっても良い効果があります。ここでは、ポストオフ制度のメリットとデメリット、導入のポイントについて解説します。

 

ポストオフ制度(役職定年制)の意味や定義とは

ポストオフ制度とは、定年前のあるタイミングに、役職(管理職)から降りる人事制度のことを言います。役職定年制とも呼ばれます。役職定年後は、一般職に移る人もいれば、特定の分野のスペシャリストとして起用されるなどさまざまです。一般的に、ポストオフ制度が施行される年齢は50代半ば〜60代とされることが多いです。2018年に一般財団法人 労務行政研究所が行った調査によれば、役職定年制を導入した企業の割合は29.5%となっています。

 

参照:旧姓使用を認めている企業は67.5%~民間企業440社にみる人事労務諸制度の実施状況~

ポストオフ制度(役職定年制)が導入される背景

なぜ、ポストオフ制度(役職定年制)がさまざまな会社で導入されているのでしょうか。大きく以下の3つの要因が考えられます。

組織の新陳代謝の促進

ベテラン社員が役職に残り続けると、若手社員は昇進できずに外部へ流出したり、モチベーションが低下したりしてしまう恐れがあります。ポストオフ制度を導入すれば、健全な新陳代謝を促せて、有能な若手社員に活躍の場を提供することができます。また、若手や中堅の社員が管理職や役職に就くことで、会社全体のカルチャーや雰囲気も変容します。

 

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採用競争の激化

日本は世界的に見ても、少子高齢化国家です。2022年に総務省が行った統計によれば、労働人口の中核を占める生産年齢人口(15〜64歳)の割合は全人口の59.4%で、統計開始の1950年以来、もっとも低い数値となっています。

 

参照:人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在

 

10年後、20年後になれば、労働人口はさらに減少し、採用競争はより一層激しさを増すでしょう。先に述べたように「選ばれる会社」になるためには、組織の新陳代謝が必要であり、ベテラン社員が役職のポストに居座り続けるのではなく、一定期間で後進に席を譲る流動性が大切になります。

ポストオフ制度(役職定年制)のメリット

ポストオフ制度を導入すると、企業と従業員にさまざまなメリットがあります。

企業にとってのメリット

企業にとっては、まず人件費の削減になります。役職についていたベテラン社員の賃金が下がるだけでなく、役職定年となったメンバーを、採用に苦戦していた専門職や重要な職務に配置することで、同時に採用コストも抑えることができます。

 

また、ポストオフ制度によって、若手の管理職が増えれば、「自分も成果を出せば、昇進できるんだ」と若手社員のモチベーション向上にもつながり、ひいては組織の生産性向上や活性化などの結果も生みます。

従業員にとってのメリット

ポストオフ制度によって、ベテラン社員が部下、若手管理職が上司という構図が必然的に生まれるため、多世代におけるコミュニケーションが活性化され、風通しが良い職場になります。また、反対にベテラン社員にとっては、新しいキャリアを拓くきっかけにもなります。

 

管理職から再び現場に戻ることで、新たに得られる気付きもあるでしょうし、またさまざまな重圧や責任から解放されることで、新たな仕事へのチャレンジもできます。

ポストオフ制度(役職定年制)のデメリット

反対に、ポストオフ制度の導入で、ベテラン社員のモチベーションが下がったり、ベテラン社員と若手社員の関係が悪化したりするデメリットもあります。

モチベーションの低下

リクルートの調査によれば、ポストオフ制度によって役職を退いたベテラン社員のうち、
約40%がモチベーションが低下したままと回答していることが明らかになっています。ポストオフ制度では、給与が下がるだけでなく権限が減ることで、できることも限られてしまいます。役職が外れ、現場社員に戻るまでに、適切なオンボーディングを行わなければ、ベテラン社員の希望と現場が期待することでギャップが生まれ、モチベーションの低下や最悪の場合は離職につながってしまうでしょう。

若手社員との対立

役職が外れ、現場社員になるということは、つい先日まで部下だった社員が上司になることもあり得ます。ベテラン社員に気を遣って指摘できない、反対にベテラン社員は今まで通りのコミュニケーションをしてしまうなど、双方に歩み寄りの精神がないままだと、組織として機能しなくなってしまいます。

ポストオフ制度(役職定年制)の導入のポイント

ポストオフ制度を導入するには、どのようなポイントに気をつければ良いのでしょうか。

オンボーディングの実施

オンボーディングというと、新入社員が組織に早く馴染み、戦力化するための取り組みというイメージがありますが、ポストオフ制度では役割や職務が大きく変わるため、オンボーディングによって、業務に必要なスキルや情報の共有などが必要となるでしょう。

 

関連記事:オンボーディングとは|新しい仲間を早期戦力化する施策

トータルリワードの推進

トータルリワードとは、金銭的な報酬だけでなく、福利厚生、やりがい、働きやすさ、裁量などの非金銭報酬を含めた報酬マネジメント手法を指します。ポストオフ制度は、給与面だけをみるとメリットが薄いととらえられがちですが、例えば、新しい業務へのチャレンジの機会や、ワークライフバランスの充実など、金銭以外の報酬を提示することで、モチベーションの維持につながるでしょう。

多世代コミュニケーションの場の設置

ポストオフ制度の導入で課題なのが、多世代コミュニケーションです。ベテラン社員である部下に強く言えない若手、若手上司に昔の立場のままで接するベテランの部下という構図が生まれると、世代間で分断が生まれてしまいかねません。多世代がフラットに交流できる場を設けることで、双方の考えや価値観を把握・理解でき、社内のコミュニケーションも活性化します。

ポストオフ制度(役職定年制)の導入事例

ポストオフ制度の代表的な導入事例は、富士通のポストオフ制度です。適用年齢に制限がなく、役職定年制という意味合いは薄いです。役職で規定されているジョブディスクリプションに満たない場合、役職から外れ、適切な職務にアサインされます。これにより、組織内の人材の流動性が高まり、若手社員にも活躍のチャンスが与えられるようになりました。

終わりに

うまくポストオフ制度を活用すれば、社内における人材の流動性が高まり、若手の活躍機会を創出できますが、適切なフォロー体制がないままで進めてしまうと、ベテラン社員のモチベーションが低下したり、離職したり、また若手社員はベテラン社員とのコミュニケーションに戸惑って、会社全体の生産性に大きな影響を及ぼしかねません。導入する際には、本日のポイントを参考に進めてみましょう。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等