働き方改革が推進されるなか、近年ではテレワークや複業などとともに「スマートワーク」という働き方が注目されるようになりました。スマートワークとは、 ICT(情報通信技術)の活用や、人事制度の最適化をおこなうことにより、従業員の業務効率化をはかる働き方を指します。本日は、スマートワークの概要と導入のポイントについて解説いたします。
目次
スマートワークとは?
スマートワークとは、 ICT(情報通信技術)を活用して生産性を高める働き方のことを言います。スマートワークを導入すると、育児や介護などで時短勤務を余儀なくされていた社員の雇用維持や業務最大化も期待でき、より個々に合わせた効率的な働き方が実現できます。
スマートワークとテレワークの違い
スマートワークに明確な定義はなく、テレワークやABWを含めたICTを活用して実現できる働き方の総称で、テレワークの上位概念になります。また、スマートワークは業務効率アップを目的にしているケースが多いのが特徴です。 とはいうものの、現状ではテレワークやリモートワークと同じ意味合いで使われているケースが多いです。
▶︎▶︎【参考記事】リモートワークとは|新しい働き方のメリットと潜む問題点について
▶︎▶︎【参考記事】ABW(アクティビティーベースドワーキング)とは|生産性を高める未来の働き方
スマートワークによって実現する働き方
スマートワークでは、ICTによってさまざまな働き方が実現されます。その一例をいくつかご紹介します。
フルフレックス
フルフレックスとは、コアタイムがなく就業時間帯を従業員が自ら選べるフレックス制度のこと。1日8時間や週40時間など、決められた就業時間を守っていれば、何時でも働くことができます。
▶︎▶︎【参考記事】フルフレックスという選択肢|変わる働き方
ワーケーション
「ワーク」と「バケーション」をかけ合わせた造語で、2000年頃にアメリカで誕生した働き方です。『日本航空』や『株式会社JTB』といった企業が導入したことで話題となりました。ワーケーションは、休暇をとりながら仕事をする働き方であり、従業員がプライベートと仕事の両立ができたり、また自然豊かなリゾート地で仕事をすることで、業務効率がアップするということで注目されています。
▶︎▶︎【参考記事】旅行しながら働く「ワーケーション」という働き方。バカンスと仕事の両立はできる?
パラレルワーク
スマートワークが実現されれば、本業に依存せずにさまざまな組織や業界を越境して働くパラレルワーカーも増えるでしょう。また、複業の需要が高まりを見せるなかで、新たな複業マッチングサービスやクラウドソーシングサービスが次々と登場しています。
▶︎▶︎【参考記事】パラレルワーカーとは?副業や兼業とは何が違う?
スマートワークを導入するメリット
スマートワークを導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
業務効率化
最大のメリットは、スマートワークの目的にも挙げられている業務効率化です。2020年4月に株式会社イードが行った調査によれば、テレワークのメリットについて、「通勤時間のストレスがない」と回答した割合が72.6%、「通勤時間を他のことに充てられる」が56.7%、「時間配分が自由にできる」が37.5%で、どれも自分に合った仕事の進め方ができることに直結した回答となりました。
同僚や部下から急な業務を依頼される、雑談に巻き込まれる、電話応対をするといった職場でありがちなことが、在宅ではほぼゼロになるため、各々が担当している業務に集中でき、業務効率化が期待できます。
プライベートが充実できる
出社せずに自宅で仕事ができるため、仕事の合間やランチタイムに家族や子供と過ごすことができます。また、テレワークに加えてフレックスタイムやフルフレックスを導入している会社であれば、自由に仕事の合間に息抜きとして趣味に勤しんだり、ウォーキングやジョギングなどの運動をしたりすることで、、メリハリをつけられます。
▶︎▶︎株式会社マツリカではフレックスタイムやフルフレックスをOKとしています
優秀層の採用率向上
スマートワークを導入することで、働き方の選択肢は多様になり、応募者にとって魅力的な会社としてブランディングができます。また、育児中、介護中、病気療養中といった既存の従業員の雇用維持、人材活用にもつながります。
なかなかスマートワークの導入が進まない理由
スマートワークやテレワークは、以前よりも認知度は上がっているものの、普及率は依然として決して高い数値とは言えません。2020年4月にパーソル総合研究所が行った調査によれば、テレワーク実施率の全国平均は27.9%で、以前として7割近くの企業で導入が進んでいません。なぜ、導入が進まないのでしょうか。
ペーパーレス化の壁
企業によって、申請用紙や契約書を全てネット上で完結させているところもあれば、未だに紙ベースで運用しているところもあります。「紙」はスマートワークを妨げる一つの障壁で、業種によっては、法令上全て電子化にすることができないため、なかなかペーパーレス化が浸透していないのが現状です。
情報漏えいリスクの懸念
テレワーク導入で懸念材料となるのが情報漏えいです。社内という機密性・・安全性の高い場所から、自宅というプライベート空間で業務を行えば、従業員個々にセキュリティに対する危機意識を持たせることが必要不可欠となります。そのため、従業員に貸与する社用PCへのセキュリティ対策ソフトの導入はもちろんEDR (Endpoint Detection and Response) の導入など、水際対策を徹底することが求められます。
公平な業績評価の設計の難しさ
従業員の働いている様子が見えないため、スマートワークにおいては、従来のプロセス重視の人事評価制度では公平で正確な評価を下すことができません。なぜならば、勤務態度や労働時間などを直にチェックすることができないためです。だからといって成果のみを評価する結果主義に頼りすぎると、かえって従業員へ過度なプレッシャーを与えることとなり、モチベーションの低下や離職率を高める結果を招いてしまいます。
スマートワークをスムーズに導入するポイント
スマートワークをスムーズに導入するには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。それは、以下の3つになります。
適切な労務管理
テレワークを導入する際には、従来の労務管理とは異なる方法を採用する必要があります。 例えば、もっともシンプルなものとして始業時、就業時にメールやチャットを使い、業務開始・終了の報告をしてもらうという勤怠管理の方法がありますが、このように従業員に全面的に任せてしまうと不正報告されるリスクもあります。 報告してもらう方法と合わせて、従業員のPCの操作ログを記録、管理することで、報告された時間と実作業時間のズレを把握でき、不正防止につながるほか残業代の過少申請抑制にも効果が期待できます。
作業環境の構築サポート
ある程度は、従業員の在宅環境に依存しますが、PC、マウス、ポケットWi-Fiなどの貸与・支給など、できる範囲で従業員の作業環境が均一化するようバックアップしましょう。
詳しくは厚生労働省が公表している「自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備」を参考にしてみましょう。
また、テレワーク導入などに必要なPCなどのデバイスやソフトウェアを購入について、経費として助成される事業継続緊急対策(テレワーク) 助成金など、政府が用意している補助金・助成金制度も活用してみましょう。
通信システムの選定・検討
通話回線、ICT環境、Web会議システムの構築・整備にかかる費用は、企業が負担するのが一般的です。テレワークで最も採用されている通信方式が「リモートデスクトップ方式」です。リモートデスクトップ方式とは、自宅のPCから社内のPCのデスクトップを開くことができ、閲覧だけでなく操作も可能となります。
リモートデスクトップ方式では、従業員が使っている社外PCがウィルスに感染したとしても、社内PCへ影響を与えません。ただし、あくまで遠隔操作のため、自宅の通信環境が悪ければ、タイムラグにより操作性が落ちるデメリットもあります。また、規模が大きくなるとセキュリティの観点から、セキュリティレベルの高い「仮想デスクトップ方式」が採用されるケースが多いです。自社にとって最適な方式・システムを導入しましょう。
スマートワークの導入事例
最後に、スマートワークの取り組み事例をご紹介します。
取り組み事例1.ソフトバンク
ソフトバンクでは、ITやAIなどを活用して生産効率を高める「Smart & Fun!」という取り組みを実施しています。具体的には、「スーパーフレックスタイム制」「在宅勤務の導入」「サテライトオフィスの採用」などを実施しています。日本経済新聞社が実施する「日経Smart Work経営調査」では最高評価の5つ星を獲得しています。
取り組み事例2.コニカミノルタ
コニカミノルタでは、ワークスタイルの変革と称しICTを活用したさまざまな施策を行っています。2017年4月からはリモートワークの本格運用を始めています。また、2018年4月には約200個のRPAロボットを製品開発部門やコーポレート部門で導入し、年間において約2万4000時間の労働工数を削減しています。
取り組み事例3.UQコミュニケーションズ株式会社
2016年から始まった「スマートワークプロジェクト(スマワク)」。具体的には朝方勤務の推奨、集中ブースの設置・立ち会議スペース等のオフィス環境の整備、変形労働時間制の導入、テレワークの推進も行っています。2019年には株式会社ワーク・ライフバランス主催の「働き方改革企業2019」にて優秀賞を受賞しています。
まとめ
スマートワークは、生産性向上を目的とした働き方・取り組みの一つですが、あくまで仕組みであり、最終的にこの仕組みを活かすも殺すも、そこで働く管理職と従業員によります。 ただ、仕組みを導入しただけでは、解決するわけではありません。自社に適したかたちに整えていくことで、はじめてスマートワークは真価を発揮します。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等