フリーアドレスの次に今注目が集まっているのがABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)というワークスタイルです。フリーアドレスは「固定席を持たないこと」ですが、ABWは「時間と場所を自由に選択できる働き方」を指し、リモートワークやテレワークも内包する広義的な概念です。本記事では、ABWがどのような可能性を秘めているか、われわれの働き方にどのような変化をもたらすかについて解説します。

 

▶︎▶︎リモートワークに関する記事はこちら

 

ABWとは?

ABWとは、「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の略で「時間と場所を自由に選択できる働き方」のことを指します。取り組む業務に合わせて最適な環境を主体的に選択できるため、業務効率を向上する一つの施策として注目されています。現在では、グーグルやアクセンチュアといった外資系企業が取り入れています。

 

フリーアドレスと比較すると知名度はまだまだ低いですが、日本でも、テレワークの推進や働き方の多様化に伴い、注目されています。

例えば株式会社マツリカでは従業員のパフォーマンスを最大化するためにリモートワークを行う社員もいます。


▶︎▶︎オフィスとリモートの壁―「目指すものが同じなら距離なんて関係ない!」を実現する秘訣

 

ABWの起源はオランダ

ABWは、1990年頃にオランダのコンサルティングファーム、、Veldhoen+Company(以下ヴェルデホーエン)によって生まれたワークスタイルです。単に自由な働き方を目指すだけではなく、チーム間の連携、リレーションの強化、イノベーションの推進という目的を元に作られています。2019年11月には、株式会社イトーキがヴェルデホーエンと資本提携を結び、ABWのコンサルティング事業を開始、イトーキ本社もABWに最適化したオフィスに改築、「ITOKI TOKYO XORK(ゾーク)」を設計しています。

ABWとフリーアドレスの違い

フリーアドレスは、単に従業員の固定席制をなくし、オフィス内の席を自由に行き来できるのに対し、ABWは「業務に最適な環境」を従業員が選択するため、ときにはオフィス外も選択肢になります。企業という枠に当てはまらない、長期的で本質的な組織の利益拡大を目的とした働き方です。

ABWの10の活動

ABWを提唱したヴェルデホーエンでは、仕事を「10の活動」と定義し、下記の指針に基づいてオフィススペースを設計しています。

ABW(アクティビティーベースドワーキング)とは|生産性を高める未来の働き方

引用:https://www.itoki.jp/company/value.html
  • 高集中
  • コワーク
  • 電話/WEB会議
  • 2人作業
  • 対話
  • アイデア出し
  • 情報整理
  • 知識共有
  • リチャージ
  • 専門作業

仕事の種類によって、求められる職場環境は異なります。例えば、非常に高度でクリエイティブな作業は、雑音を遮断した密室の空間よりも、刺激が得られる海や青空が見える場所かもしれないし、カジュアルな面談や雑務をこなすのであれば、カフェスペースのような場所が適しています。

このように、業務内容から職場環境を決めることで、全体の業務効率が向上し、長期的には業績アップ、また従業員のモチベーションの向上にもつながります。

ABWのメリット・デメリット

ABWにはフリーアドレスにないさまざまなメリットが享受できます。

ABWのメリット

生産性の向上

最大のメリットは生産性の向上です。一般的なオフィスだと、自席から終日離れることなく、昼食後の眠気とも戦わなければいけません。また、近くの同僚や上司の電話対応で集中力を削がれることもあります。しかしABWでは、作業に適した職場環境を選択できるので、集中できない、作業が捗らないというストレスから開放されます。

従業員満足度が上がる

シービーアールイー株式会社が行った「オフィス利用に関するテナント意識調査2019 ~オフィスワーカーのためのこれからのワークプレイスとは~」によれば、ABWを採用した会社の70%以上で、「従業員の満足度が上がった」と回答しています。


参照:「オフィス利用に関するテナント意識調査2019 ~オフィスワーカーのためのこれからのワークプレイスとは~」|CBRE

ABWのデメリット

ABWは、従業員のパフォーマンスを高めるメリットが得られますが、反面、会社への帰属意識の希薄化やチームコミュニケーションの低下といった問題に直面する可能性があります。本段で詳しくデメリットとそれに対する対策を解説します。

帰属意識の希薄化

職場環境において主体的な選択ができるため、従業員のパフォーマンスは向上するものの、社内で仕事をする必要性がなくなるため、帰属意識が希薄化します。導入前に、自社で「チームで働くとは何か?」「ABW(テレワーク)で会社員をする意義は?」といった課題について確固たる答えを持っておくと良いでしょう。

チームコミュニケーションの低下

ABWの性質上、テレワークの従業員と出勤している従業員が混在し、うまく連携がとれなくなる恐れがあります。全従業員の予定を可視化する、Slackなどのチャットツールを使いコミュニケーションの数を増やすなど、コミュニケーションの質を落とさない工夫が必要になります。

 

関連記事:リモートトラスト|オンラインで信頼関係を築くこれからのコミュニケーション術

ABWで働き方はどう変わる?

ABWを導入すると、働き方はどのように変わるのでしょうか?
1つは、「多様な人材の活躍」が期待できることです。人によって心地よい職場環境、時間帯、人間関係はそれぞれ異なります。持病があり長時間作業が難しい人やADHDのように注意散漫な人のように、今までは画一化された職場環境の中で働くことを強いられ、本領を発揮できない側面もありました。

しかしABWでは、業務内容や従業員の体調によって、職場環境を選択できるため、最大限のパフォーマンスを発揮できます。

もう1つが、「イノベーティブなアイデアの創出」です。株式会社キャスターが行った、自社で働く従業員700名を対象に行った「リモートワーク(テレワーク)による働き方と生活の変化に関する意識調査」によれば、「今の働き方になって、仕事面で変わったことはなんですか? 」という質問に、「まずやってみる・自ら動く体質になった」が59.7%、今の働き方になって、生活面で変わったことはなんですか?という質問に、「新しいことにチャレンジするようになった」が48.1%と、新しいことに取り組む姿勢がついたという声が半数以上にのぼりました。

 

参照:リモートワーク(テレワーク)による働き方と生活の変化に関する意識調査|株式会社キャスター

 

1つの場所にとどまって働くのではなく、適度に変化をつけて働くことで、自分の考え方や価値観にも変化が起こり、このようなポジティブな結果が出ているのだと考えられます。

ABWを導入している企業事例

最後に、実際にABWを導入している企業事例を3つご紹介します。

シスコシステムズ合同会社

働きがいのある会社ランキング大規模部門で1位を獲得したシスコシステムズでは、2018年のオフィスリニューアルを機に、ABWを採用しました。家具・設備のバリュエーションを増加、椅子を例にとっても、集中して作業できる椅子、立ち仕事用の椅子など、それぞれのシーンに合うよう細かく設計されています。また、私語・食事厳禁の「クワイエットエリア」をリニューアル、完全に締め切らずに緩く区分けすることで、適度に集中力が保てると、利用者が以前よりも増えました。

パーソルグループ

パーソルグループが掲げているコンセプト「はたらいて、笑おう。」を体現する試みとしてABWが導入されています。パーソルグループで最も大きな改革が会議室の全撤廃です。当初は反発の声が多数ありましたが、結果として不要な会議が削減されるなど、大きな成果につながっています。また、仮眠室や卓球台などが設置されている社員の休憩に特化した「チャージフロア」、新規事業の立ち上げに特化した「イノベーションフロア」、従業員同士の交流やカジュアルなワーキングに特化した「コミュニケーションフロア」など、業務内容に応じて働けるよう、さまざまなタイプの空間が用意されています。

株式会社イトーキ

イトーキでは、ヴェルデホーエンと業務提携をし、積極的にABWを自社・他社に導入しています。ヴェルデホーエンが提唱する10の活動に基づき、利用シーンごとにオフィスを細分化しています。専用アプリでオフィス利用状況を逐一計測し、PDCAを回しながら10の活動と実際の働き方との乖離、新しいニーズを拾い上げて、絶えず職場環境の改善を行っています。また、作業効率という側面だけではなく、従業員の心身の健康を維持する「ウェルビーイング」という概念に基づいた「WELL」認証も取り入れています。

 

関連記事:ウェルビーイング(Well-being)の定義とは?|持続可能な幸せを目指す働き方

まとめ

ABWは、非常に画期的なワークスタイルではあるものの、全ての会社に適しているわけではありません。テレワークやフリーアドレスと同様、業務効率を悪化させたり、従業員同士の連携がとれなくなったりと逆効果になることもあります。導入する前に、自社にとってABWは業務効率の改善やワークライフバランスの向上に最適な手段なのか、他の方法と比較検討しながら考えてみましょう。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等