インターネットの普及により、世界中、日本中どこにいても仕事ができる環境が実現しました。日本では、東京オリンピックを契機にテレワーク普及を推進していましたが、奇しくも新型コロナウィルスの感染拡大により、数年早く広まりました。ビジネス、プライベートに関わらず、コミュニケーションのあり方がオフラインからオンラインへ移行し、人々の生活様式、行動様式そのものが変わろうとしています。

 

そんな中、今注目されているワードが、リモートトラストです。リモートトラストとは、オンライン上だけで人との信頼関係を構築するスキルです。本記事では、リモートトラストの重要性と、リモートトラストを高めるポイントについて解説いたします。

新型コロナウィルスで変化したコミュニケーションのあり方

新型コロナは、生活だけでなくビジネスシーンにも、大きな影響を与えています。

マスク着用がデフォルトに

飛沫感染を防ぐため、人と対面で接するさいには、マスク着用がデフォルトとなりました。マスク着用は顔の半分以上を覆い隠し、微妙な表情の変化を感じ取れなくなるだけでなく、場合によっては、発言内容が聞き取れないこともあります。アクリル板が設置されている場合は、よりコミュニケーションが困難となります。

 

株式会社マンダムの調査によれば、「マスク着用時のコミュニケーション課題は?」という質問に、「相手の声が聞きとりにくい」が最も多く46.9%、つづいて「相手の表情が読み取りづらい」が36.4%、「こちらの感情が伝わりにくい」22.1%と、非言語のコミュニケーションに課題を感じている人が多いのがわかります。

 

参照:コロナ禍の対面コミュニケーションとおしゃれ・身だしなみの実態及び意識調査【マスク編】

 

まずは”対面から”が、”できればリモート”に

従来、プレゼンや商談では、対面での訪問がある種のマナーとなっていました。しかし、今では”できればリモート”で商談するのがマナーとしてとらえられています。

 

弊社が企業の経営者層、営業部門の管理職・マネージャー、営業担当者におこなった調査では、
88.4%の人がWeb会議ツールを利用していると回答しています。

 

参照:営業活動のリモートワークに関する調査結果を発表。約8割が「生産性が上がったとはいえない」。ツール導入後は「オンライン商談や社内間の意思疎通」が課題に

人数を制限した、距離のある会議

3密回避のため、オフラインの打ち合わせや商談の場では人数を制限し、一定の距離を確保するなどの対策を実施するケースが増えています。マスクと同様に、相手の表情や動作が読みにくくなり、コミュニケーションをするのに制約が生まれます。

 

例えば、プレゼンや説明に必要な資料も、感染防止のために紙で配布するのではなく、事前にデータで共有し、各自のパソコンで閲覧してもらうなど、会議や商談の進め方やあり方も変わっています。

急激に普及するオンライン会議

前述したように、ビジネスコミュニケーションに、感染拡大のためのソーシャルディスタンスという行動様式が追加され、もはやリモートでの商談が、その会社のスタンスやリテラシーを示すものとして認識されつつあります。

 

テレワークによって業務効率化やワークスタイルの多様化というメリットが享受できる反面、通信障害が発生する、社内のコミュニケーションが不測するなど弊害も起こっています。

国内のWeb会議システムの市場規模は527億円に到達

株式会社シード・プランニングの調査では、2020年における国内のビデオ会議、Web会議システムなどを含むビデオコミュニケーション市場規模は昨年比の101.5%で、527億円に到達しています。そのなかでも、特にWeb会議システムは2021年から毎年伸びており、2020年はビデオ会議とWeb会議が全体の半数を占めています。

 

参照:2020 ビデオ会議/Web会議の最新市場とビデオコミュニケーション機器・サービス動向
~テレワーク、働き方改革、ビデオ通話クラウドサービスの現状~

一方で新人教育や社内のコミュニケーションに課題も

急激なコミュニケーションの変化に適応できず、一部で弊害も起こっています。特に課題とされているのが、社内のコミュニケーション不足です。日経BPコンサルティングの調査では、「社内にどのようなコミュニケーション課題があるか」という質問に対して、「上司・同僚・部下の行動が見えない」が36.1%、つづいて「社内で気軽な会話ができない」が35.3%という結果となりました。

 

参照:1500人緊急調査「コロナで変質した企業内・企業間コミュニケーション」

 

さらに深刻な問題が新人教育です。株式会社日本能率協会マネジメントセンターがコロナ渦における新入社員教育に関するアンケートで、新入社員教育の内容面についての課題を聞いたところ、「新入社員の同期間や先輩、上司など会社の人との関係構築」への課題意識があると回答した企業は約73%いることが明らかになりました。

 

参照:ニューノーマル時代の新人社員教育に関する緊急アンケート調査
コロナ禍の新人教育における最大の課題は「人間関係構築」

 

新入社員にとって、親睦会、日々の雑談といった信頼関係の構築に必要なプロセスを経ないまま業務に臨むのは、不安で心もとないでしょう。企業側には、研修時点でリモートトラストを高めるようなプログラムの導入が今後求められるでしょう。

オンラインの世界で密状態が発生

度重なる自粛の呼びかけにより、繁華街やビジネス街の人出は少なくなりましたが、オンラインの世界では密状態が起こり、たびたび通信障害が発生しています。ThousandEyesのレポートでは、新型コロナ感染拡大前の1月と比較して、障害発生時は3月で163%、6月で144%と増加傾向にあります。大学がオンライン授業に切り替わった5月ごろからは、青山学院大学、東海大学、早稲田大学など、さまざまな大学で通信障害が発生しています。

 

今や多くの人がクラウドサービスやオンライン決済サービス、チャット・会議ツールを利用しており、ネットワークはまさにビジネスの生命線です。通信障害が発生しても業務が遅滞しないような仕組みづくりや体制が求められるでしょう。

リモートトラストとは?

リモートトラストとは、オンラインのコミュニケーションだけで信頼関係を構築するスキルです。

オフラインでは、相手の言葉、表情、仕草など、さまざまな情報があり、いわゆるお互いの空気をキャッチしながらコミュニケーションを図れました。しかし、リモートでは、表情、仕草など言外の情報が遮断され、言葉だけでその人が伝えたいメッセージを汲み取らないといけません。ときには、解釈の違いが起こり、トラブルになることもあります。

 

どうしたら相手に伝わるか、相手を理解できるか、今まで以上に、能動的に相手の気持ちを慮る必要があります。

リモートワークで誤解を生みやすい人や会社の特徴

従来のコミュニケーションの方法を、そのままリモートワークに持ってきてしまうと、誤解を生む表現になったり、高圧的な印象を与えてしまったりすることも。ここでは、リモートワークで誤解を生みやすい人や会社の特徴をまとめてみました。

 

コミュニケーションの効率化がゴールになっている

対面で会うのは時間がかかり非効率です。しかし、雑談や挨拶から信頼関係が生まれたり、新しいアイデアが着想したりするものです。コミュニケーションを効率化するばかりに、最低限のやり取り以外のコミュニケーションをなくしてしまうと、従業員の帰属意識は薄まって、離職したり、会社への信頼度が下がったりする恐れがあります。

 

伝えたい言葉をそのまま文字にしている

対面でのコミュニケーションの場合、言葉だけでなく表情や仕草といった情報が乗っかります。
言葉にとげがあっても、表情がやわらかければ、ときにはシャレとして、指摘として、解釈できます。ただ、オンライン、特にチャットツールによるやり取りでは、文字だけの情報で相手は状況を理解しなければなりません。場合によっては、相手に間違って伝わり、トラブルになることもあるでしょう。

 

リモートトラストを高める3つのポイント

では、リモートトラストはどのような工夫で高められるのでしょうか。

コミュニケーションのルールを作る

リモートワークの最大のメリットが、それぞれのペースで返信できることです。しかし、全員が自由にコミュニケーションをすると、統率がとれなくなります。例えば、ブレストでは相手の意見を否定しない、読んだメールやチャットにはスタンプでもいいから反応するなど、最低限のルールを敷くことで、円滑に気持ちよくコミュニケーションがとれるようになります。

 

丁寧に、わかりやすく伝える

対面のコミュニケーションでは、主語がなくても、指示語であっても、なんとなくその場の空気感で理解できます。しかし、文面では明確に具体的に書かないと伝わりません。オンラインのコミュニケーションのトラブルの大半は、説明不足によって起こります。中学生や小学生でも理解できるように、丁寧に噛み砕いて説明しましょう。

 

冷たい印象にならないよう気をつける

「こちら、内容が違います。訂正お願いします。」

間違っていることと、修正してほしい意図は伝わりますが、冷たくトゲのある印象を持ちます。もしかしたら、怒っているのでは?と誤解してしまうかもしれません。

 

「こちら、ありがとうございます。内容拝見しましたが、基本的には問題ございません!しかし、一部異なる部分がございます!〇〇の箇所の訂正をお願いできますか……?以上、よろしくお願いいたします。」

 

感嘆符(!)やクエスチョンマーク(?)、三点リーダー(…)を利用したため、言葉自体に温度が出ました。また「基本的な問題ないけど」というクッション言葉を入れて、表現がやわらかくなりました。

 

まとめ

リモートトラストといっても、なにも真新しいスキルではなく、突きつめれば「人と真摯に向き合う」ことにつきます。リモートだと、つい画面の向こう側に人はいないと思いがちですが、オンラインでもオフラインでも、コミュニケーションで重要なことは、相手を思いやる心です。ぜひ、本日の内容を実践してみてください。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等