「退職者は裏切り」そう思われていた時代もとうに過ぎ、今や快く退職者を送り出し、その後も関係を構築するイグジットマネジメントという考え方が主流になっています。雇用主と労働者ではなく、会社という枠にとらわれない人対人の関係性が重視されてきています。
目次
イグジットマネジメントとは?
イグジットマネジメントとは、人材の退職や契約解消を戦略的に行い、会社全体の新陳代謝を促進する取り組みです。「退職マネジメント」とも。求職者と企業の相互理解を深め、入社後のミスマッチを減らすエントリーマネジメントと相互補完する施策となります。
終身雇用という絶対神話が崩れ去り、会社は強制的に従業員を慰留させることが難しくなっているのが現状です。無理に引き止めるのではなく、むしろ新しいキャリアを踏み出す従業員を応援することで、会社のイメージの向上にもつながり、その後の関係性を良好に保つことができます。
イグジットマネジメントとリテンションマネジメントの違い
リテンションマネジメントは、リテンション(維持)とマネジメント(管理)を組み合わせた用語で、人材定着や従業員活躍の場を作る人事施策です。例えば、社員教育や福利厚生の充実、ワークスタイルの多様化など、離職防止に向いた施策となります。イグジットマネジメントは、優秀な従業員のエンゲージメント向上と転職をしたいと考える従業員の後押しの両輪で動いているため、リテンションマネジメントはイグジットマネジメントに内包される概念といえます。
イグジットマネジメントの取り組み
イグジットマネジメントの取り組みは、大きく「離職を防ぐ」「再雇用の促進」「離職の促進」の3つに分けられます。
離職を防ぐ
優秀な人材の能力や強みを最大限引き出し、キャリアチェンジをしたいと考える従業員を快く送り出すのが、イグジットマネジメントの本目的です。たとえ、転職が当たり前な時代であるとはいえ、人材が定着しない会社には成長や未来はありません。強制的に引き止めるのではなく、給料の引き上げや裁量権の付与など、できる限りその従業員の個人のキャリアの実現に沿うような提案をします。
再雇用の促進
定年退職をしたシニア世代や退職したOB・OGなどを歓迎し、再雇用の窓口を作ります。OB・OGとの長期的な関係構築をする方法としては、アルムナイネットワークが主流です。近年は、OB・OG専用のWebサイトやコミュニティなどを設立する企業も増えてきています。
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離職の促進
離職の促進とは、ミスマッチした人材や能力値が不足している人材を切り捨てることではなく、キャリアに悩む従業員に他社への転職も含めた選択肢を提案することを指します。フォローアップの方法を間違えるとトラブルに発展し、レピュテーションリスクが高まります。
イグジットマネジメントが注目される理由
イグジットマネジメントが注目されるようになったのには、採用市場の変化が大きく影響しています。政府が主導する働き方改革により、複業や転職など各々が自分に適したワークスタイルを選べるようになりました。
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マイナビが実施した調査によれば、転職に対するイメージについて「転職は前向きな行動である」と回答した割合が68.3%という結果が出ています。特に、20代女性が81.6%、30代女性が74.1%と、若い女性にはポジティブに受け取られていることがわかります。
マイナビ 転職動向調査2020年版
日本は少子高齢化という深刻な課題も抱えており、人材不足が懸念されています。転職を前提にキャリアを設計する人が増えれば、会社はよりオープンで魅力的になるよう努めないといけません。
イグジットマネジメントのメリット・役割
イグジットマネジメントを実施すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
レピュテーションリスクの防止
レピュテーションリスクとは、企業に対する悪評が広がることによって発生するイメージの毀損リスクのことを指します。さらにいえば、商品を購入した、サービスを利用したエンドユーザーからの口コミよりも、退職した従業員からの悪評や暴露のほうが信憑性が高く、致命的なダメージとなります。
日頃の業務で無意識に発生しているパワハラやセクハラ、退職希望者への圧力行為、従業員への退職強制など、これらの言動は100%ではありませんが、未然に防ぐことができます。管理職研修の実施やハラスメント相談窓口の設置など、従業員がいかんなく能力を発揮できるような職場づくりを心がけましょう。
アルムナイネットワークが構築できる
退職者を裏切り者とみなさず卒業生とすることで、良好な関係を構築できます。短期的に見れば、自社のノウハウの流出が懸念されますが、OB・OGがいつか出戻り社員として就職した場合、他社で培ったナレッジやノウハウを持ち帰ってくることも期待できます。また、異業種との交流が深められ、事業連携や新規事業の立ち上げなどに役立てることができます。
組織の新陳代謝を図れる
ベテラン社員が残りにくい文化が醸成され、結果として組織の新陳代謝が図れます。ベテラン社員の割合も少なくなるため、変革が起こりやすく若い組織であり続けることが可能となります。
イグジットマネジメントを取り組むときに気をつけること
組織をより健全に、価値のあるものにしていくためには、どこかで変革が必要となります。ときには、退職勧奨をしなければいけないこともあります。
従業員を駒として見るのではなく、一人の人間として話ができているかがポイントになります。ここを見誤ると、レピュテーションリスクにつながったり、パワハラやセクハラ、退職強制をきっかけとした訴訟に発展してしまったりすることがあります。
まとめ
イグジットマネジメントは、従業員を尊重し全面的に会社がセカンドキャリアを後押しをする意味にとどまらず、「居残り続けず卒業する文化」を醸成することでもあります。
「卒業する=優秀な従業員が残らない」ではなく、組織が常に若く変革できているというブランディングも獲得できて、むしろ、入社を希望する優秀な人材が増えていきます。
従業員が長く定着することが必ずしも良いとは限りません。イグジットマネジメントをうまく活用し、今後の企業の成長戦略に役立ててみてはいかがでしょうか。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等