「共感疲労」という言葉を聞いたことがありますか?他者の悲しさや怒りといった負の感情に共感しすぎて心が疲れてしまう現代病です。簡単にSNSやYouTubeなどで情報にアクセスできる現代においては、誰でも起こる心の症状と言えます。
目次
共感疲労とは?
「共感疲労」とは、辛い状況にいる人の苦しい気持ちに共感しすぎて、自分自身の心が疲れてしまう状態を指します。具体的な症状としては、無気力になる、気分が沈みがちになる、イライラしがちになるなどが挙げられます。
共感力は、相手の心情や考えに寄り添って理解しようとする、いわば円滑なコミュニケーションにおいて大切な能力の1つです。ただし、共感力が過度に働いてしまうと、相手の辛い気持ちに引っ張られて共感疲労の原因となります。
共感疲労の主な症状としては、
- 寝つきが悪い、寝ても疲れがとれない
- ちょっとしたことでイライラする
- 仕事にやりがいを感じられない
- 気分が落ち込む、悲しくなる
- 気力がわかない
- 注意力が下がってミスが増える
- 朝仕事に行くのがとてもしんどい
- 慢性的な疲労感がある
などがあります。
特に心理カウンセラーや介護士といった仕事に就いている方は、普段から人の心のケアやサポートを行う立場にあるため、共感疲労を起こしやすいといわれています。
共感疲労の成り立ち
共感疲労を提唱したのは、アメリカの心理学者チャールズ・フィグレーです。ベトナム戦争帰還兵のPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの研究をしているチャールズは、1995年に著書で共感疲労を定義しました。
同書では、共感疲労は英語で「compassion fatigue(同情疲れ)」と表現されています。この言葉はセントラルフロリダ大学の記事のなかで「cost of caring」とも表現されており、直訳すると「心配すること(気にかけること)の犠牲」のような意味になります。
共感疲労が起こる原因
共感疲労が起こる要因は人それぞれですが、ここではよくある要因を3つご紹介します。
知人や親戚の自死や闘病によって
家族や親戚、友人など身近な人が闘病中であったり、自ら命を絶ってしまったりすると、共感疲労が起こりやすくなります。
よく知っている身近な存在であるがゆえに、「できることなら自分が代わってあげたい」「本当に何かしてやれなかったのか」と、自責の念を抱いてしまいます。
被災によって
台風や大雨、地震などで被災することそのものが辛く苦しい状況ですが、さらに生き残ってしまったという辛さも重なります。このように、生存者が犠牲者に対して抱く罪悪感を「サバイバーズ・ギルト」と呼びます。サバイバーズ・ギルトが慢性化すると、共感疲労が蓄積し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)として、長い期間心の傷として残ります。
戦争や災害の報道によって
戦争や災害によって壊滅的な打撃を受けたショッキングな映像や写真を頻繁に目にすることで、共感疲労が起こることがあります。
自分とは直接関係はないですが、「世の中はどうなってしまうのか」「何とか助けてあげなくては」「何て悲しい事件なんだ」といった絶望感や焦燥感から、少しずつ心にダメージを蓄積していきます。
共感疲労の症状
次に、共感疲労で起こる具体的な症状をご紹介します。
気が短くなる
ネガティブな情報に共感しすぎると、心に余裕がなくなって怒りの感情が起こりやすくなります。今までは気にならなかった言動や騒音にイライラしがちになります。
疲れが抜けにくくなる
悲観的な辛い情報を見続けるうちに、いつのまにか心が疲弊して「何だか、一日中だるい」「しっかり寝ているのに疲れがとれない」「何もする気がおきない」のように、体のだるさや疲れなどが表れることがあります。
仕事や趣味などにやりがいを感じなくなる
無気力になったり、ものごとにやりがいを感じなくなったりするのも危険信号です。仕事はもちろん、好きな時間である趣味をする気力が起こらない、関心が湧かない状態は、疲れがたまってしんどくなっている証拠です。
共感疲労になりやすい人の特徴
共感疲労になるかどうかは、人によって差があります。悲しいネットニュースを少し見ただけで起こる方もいれば、毎日戦争のニュースを見ていてもまったく起こらない方もいます。
これは共感疲労にならない方が非情なわけではなく、物事の捉え方や感じ方には人それぞれ個人差があるためです。では一体、共感疲労になりやすい人には、どのような特徴があるのでしょうか。
感受性が強い人
感受性が強いと、共感疲労になりやすいです。感受性が強い方は、周囲の状況や周りの人の様子・言動などを敏感に察知します。そのため、目の前の相手がトラウマを背負っていたり辛い気持ちを抱えていたりすると、深く受け止めてしまいがちです。感受性が強く敏感な気質をもつ「HSP(Highly Sensitive Person)」と呼ばれる人は、特に注意が必要です。
好奇心が旺盛な人
意外ですが、好奇心が旺盛な方も共感疲労になりやすいといわれています。前述のHSPのなかには「HSS(High Sensation Seeking)」というタイプの方もいて、好奇心が強く刺激を求める傾向があります。好奇心が強くフットワークが軽いため、すぐに行動に移せるものの、感受性が強いため、途端に大きな疲労を感じます。強い好奇心があり刺激を求めるからこそ、さまざまな情報を集めてしまい、結果的に心が疲弊してしまいます。
社会的使命感を持っている人
強い使命感を感じている方も要注意です。特に、人の心や体のケアやサポートを行う心理カウンセラーや介護士などは「自分ががんばって支えなくては」「何としても治さなきゃ」と、自分にプレッシャーを与えがちで、共感疲労につながりやすいです。
ネガティブ思考の人
「きっと悪い方向に進むに違いない」「どうせだめだ」などとネガティブに考えがちな方は、他人の悲しみや苦しみといった負の感情に引き込まれやすく、共感疲労になる傾向にあります。
共感疲労を解消する対処法・対策
共感疲労は心の自然な反応であり、どれだけ注意をしていてもなることがあります。大切なのは、「共感疲労かもしれない」と自覚し、対処をすることです。自分を追い詰めないためにも、共感疲労になったときの対処法と、普段から気を付けておきたい対策について覚えておきましょう。
ポジティブなことを書きだす
共感疲労になってしまうと、頭の中はネガティブなことで埋め尽くされがちです。しかしどれだけ辛い状況でも、見方を変えれば良い面もあるはずです。ポジティブな出来事や気持ちを自覚するためにも、良いことを紙に書き出してみましょう。
例えば、寝る前に今日あった良いことを1つだけ書き出してみるのでもOKです。「お昼に食べたラーメンがおいしかった」「通勤途中ですれ違った犬が可愛かった」「良い天気だったので洗濯物がすっきり乾いた」のように、ほんの些細な出来事で十分です。大切なのは、日常で起きている良いことを意識的に探し出す思考に変えていくことです。この思考のクセがつくと、普段の生活でも小さな楽しみや幸せに気付きやすくなり、ネガティブな情報に左右されにくくなります。
デジタルデトックスをする
今では、手元にパソコン、スマートフォンがあることが当たり前になっています。どこからでもすぐに情報にアクセスでき、私たちは朝起きてから寝るまで常に多くの情報にさらされています。その生活は便利な反面、ネガティブで見たくない情報にも触れてしまいます。情報に疲れてしまったら、思い切ってデジタルデバイスから距離を置いてみましょう。最初は、定期的にパソコンやスマートフォンをチェックしたくなるかもしれません。しかし慣れてくると、情報から遮断される心地良さや、脳が休まる感覚を味わえるはずです。
関連記事:デジタルデトックスとは|人間の本来の生活を取り戻す新習慣
身近な人に辛い気持ちを話す
もし身近に信用できる人がいれば、自分の辛い気持ちを打ち明けましょう。辛い気持ちを抱えずに、言葉にすることで悩みが整理できます。話す相手は、信頼できる人なら家族でも友人でもOKです。ただし、相手の話を否定しがちな人や、自分の論理を押し付けがちな人は避けましょう。悩みを相手に聞いてもらうことで、受け止めてくれる存在がいることの安心感や、自分を肯定してあげることにもつながります。
「辛い気持ちを聞かせたら迷惑なのでは……」「楽しい話をしなくては」と考えてしまう方もいるかもしれません。しかし、相手も悩みを打ち明けてくれて信用してくれていると感じてうれしいもの。自分だけで抱え込まず、外に吐きだすことを意識してみましょう。
相手と自分を切り離して考える
特に有効なのは、相手と自分を切り離して考えることです。共感疲労になりやすい方は、相手と自分の境界線があいまいで、相手のことも自分事のように捉えてしまいがちです。「相手は相手、自分は自分」のように相手と自分を切り分けることで、共感しすぎることを減らせます。これは決して相手のことを考えていないわけではなく、良い意味でお互いを守るための大切な自衛手段です。適切な距離感を保つことで、相手も自分の力で立ち直れるかもしれません。
睡眠時間を確保する
寝不足の状態が続くと、ネガティブ思考になりやすく、共感疲労になる恐れがあります。日常的に十分な睡眠時間を確保してしっかり心と体を休めることが大切です。なかなか寝つけない方は、寝る前に好きな香りのハーブティを飲んだり、部屋にアロマを焚いたり、間接照明で過ごしたりなど、リラックスできるような一工夫を取り入れてみましょう。
終わりに
共感疲労は、周りはもちろん本人も気づかないものです。疲れやすい、慢性的に調子が悪いと感じたら、無理をせずに心と体を休めてあげることが重要です。うまくネガティブな感情や情報と付き合って、無理せず過ごしていきましょう。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等