インバスケットは、英語で「未処理箱」のことを言いますが、ビジネスシーンでは制限時間の中でより多くの案件を処理するビジネストレーニングを指します。このインバスケット思考のプロセスを身につけることで、たくさん抱えている業務の優先順位を即座に判断し、こなすことができます。本日はインバスケット思考の効果的なプロセスや効果についてお伝えします。

インバスケット思考とは?

インバスケット思考とは、タスクを与えられた時間内に的確に、高い精度でこなすための思考法です。

もともと、インバスケットは、1950年代にアメリカ空軍によって開発されたシミュレーションゲームです。主人公の立場になって、不測の事態を仮定し、与えられた時間内で的確に高い精度で目標達成をすることが求められます。この訓練を行うことで、人命救助や敵の襲撃といった非常事態などの際に、自分の頭で迅速に的確に行動する力を身につけることができます。今では、管理職研修やリーダー教育などのツールとして使われています。

インバスケット思考で重要な3つの指標

インバスケット思考では、重要な指標が3つあります。

1.当事者意識を持つ

インバスケット思考では、当事者意識を持つことが大切です。つまり、架空の人物になりきるということ。もしかしたら、例題の中には管理職からの目線、経営者からの目線、人事からの目線など、今の立場と違うこともあるかもしれません。しかし、分からない中でも、できるだけ現実的なシチュエーションを設定し、解決策を探ります。また、このインバスケットには絶対的な正解はありません。自分の頭で考え、制限時間内でより最善と思う解答を作ることが求められます。

2.優先順位をつける

インバスケット思考では、優先順位の異なる/同列のタスクがたちはだかります。これらを適切に迅速に処理することが求められます。例題を示しながら、解説していきます。

【メーカー会社の場合】

  • 3日後に迫った先月の出張経費の申請
  • 新規案件の見積もりの依頼の確認
  • 顧客からの苦情連絡対応
  • 時間後に迫った商談書類の最終確認

まず、優先順位を分ける場合は、緊急性と重要性のバランスで考えます。緊急性が高いのは、「商談書類の最終確認」に見えますが、圧倒的に重要なのは「顧客からの苦情の連絡対応」です。

以下のように分類できるでしょう。

インバスケット思考|タスクの優先順位を即断できる思考プロセス|mazrica times

・3日後に迫った先月の出張における経費の申請(重要ではない/割と緊急)

・新規案件の見積もりの依頼の確認(重要/緊急ではない)

・顧客からの苦情の連絡対応(重要/緊急)

・1時間後に迫った商談書類の最終確認(わりと重要/緊急)

商談書類の最終確認は、部下に任せることができるし、商談相手と交渉し、商談の時間を調整することも検討できます。

 

【料理店の場合】

  • 10枚あるうち、お皿が8枚割れてしまいました。買いにいったほうがよいでしょうか?30分後に、7名でコース予約のお客様が来られます。
  • 手違いで、7名コース予約の分のメインディッシュの仕込みを忘れてました。
  • 製氷機のスイッチが入らず、氷が溶けている。
  • 化粧室のトイレットペーパーが切れている。

今回のケースでは、緊急の業務が並列しています。このような場合は、緊急度で分類します。

インバスケット思考|タスクの優先順位を即断できる思考プロセス|mazrica times

・10枚あるうち、お皿が8枚割れてしまいました。買いにいったほうがよいでしょうか?あと30分後に、7名でコース予約のお客様が来られます。(お皿がないと提供できない:緊急度100%)

・手違いで、7名コース予約の分のメインディッシュの仕込みを忘れておりました。(他の料理に変更する:緊急度90%)

 

・製氷機のスイッチが入らず、氷が溶けてしまっている。(クーラーボックスで代用:緊急度70%)

 

・化粧室のトイレットペーパーのストックが切れている。(緊急度60%)

まず、飲食店にとって料理を提供できないのは致命傷であり、クレームにつながりかねないので、すぐにお皿を購入します。メインディッシュの仕込み忘れは、他の余り食材でなんとか凌ぐことができます。緊急の業務が並んだ場合は、代替できない/後回しできないものから処理します。

3.100点の正解は求めない

インバスケット思考を上手く進めるコツは、100点満点の正解を求めないことです。上の飲食店の例で示したように、緊急度と重要度が均衡した業務が並列した場合、お客さんが100%満足する状態を作ることが難しいからです。 満足してもらいたいからと、メインディッシュを仕込んで客さんを待たせる、お皿を買いに行くのを後回しにしたために、熱々の状態で提供できなかった、これらは全てクレームの原因になります。不測の事態が起こったら、満足してもらうことを考えるのではなく、どうすれば苦情につながらないか、不測の事態がさらなるトラブルを引き起こさないようにすることが大切です。

インバスケット思考を習得すると、働き方にどんな効果をもたらす?

インバスケット思考を鍛えると、働き方にどのような効果をもたらすのでしょうか?

さまざまな立場の視点を持てる

組織で仕事をする場合、業務には自分だけではなくさまざまな人が関わっています。人事、経営者、経理、管理職など。インバスケット思考では、さまざまな立場から、当事者意識を持って問題に臨みます。多角的な視点を身につけられることで、業務における抜け漏れを防ぐことができます。

必要のない業務に疑問を持てる

インバスケット思考では、業務の優先順位を即断する力が養われます。業務効率化でもっとも大切なのは、作業スピードをアップさせることではなく、「締め切りは本日中だが、なぜ明日ではダメなのか」、「作成する提案書を30ページも作成する必要はあるか」といった本質的な問いを立てることです。「〜なければならない」の裏側には、「より〜があったほうがよい」「〜怒られるかもしれない」という考えが潜んでいます。しかし、業務で大切なことは、安定的に業務を遂行することであり、100%のクオリティは求められていないことがほとんどです。

完璧主義から脱することができる

完璧主義は、インバスケット思考とは真逆の考え方です。完璧主義に囚われてしまうと優先順位をつけられず、またはつけることに時間がかかり、不要にエネルギーを消耗します。インバスケット思考で大切なことは、重要でないことへのエネルギーを極力減らし、重要ではない業務に対するエネルギーを集中させることにあります。

インバスケット思考を行うときの注意点

インバスケット思考を行う時にいくつか注意したいポイントがあります。

1.時間の見積もり不足

1つ目が、「時間の見積もり不足」です。人は自分に対し甘く評価してしまいがちで、緊急度と重要度が同列の業務があるとき、全てこなせると楽観的に考えてしいがちです。まず、緊急度と重要度のレベルが同じ業務がいくつか残っている場合は、1つに絞りきるくらいの判断が必要です。それは、前段で述べた完璧主義から脱し、本当に重要な業務に集中するためです。

 

2.問題の理解不足

2つ目が「問題の理解不足」です。インバスケット思考では、フレームワークを用いて進めることが一般的ですが、フレームワークはあくまで問題整理をするためのツールであって、方向性や戦略を導きだすものではありません。整理した問題から、どのようなアプローチ・方向性で進めるのか、ここが肝心です。

インバスケット思考で役立つフレームワーク

最後に、インバスケット思考で役立つフレームワークを3つご紹介します。

アイゼンハワーマトリクス(重要度×緊急度)

かの有名なアメリカ大統領、ドワイト・D・アイゼンハワー氏が実践していたタスク管理術で、図のように重要と緊急で4象限に分類します。最もポピュラーなマトリックス分析で、幅広くビジネスシーンで活用されています。特に、重要だけど緊急ではない項目は、後回しにしがちですが、ここがいずれ第一象限に繰り越されるため、迅速に処理することが重要です。

インバスケット思考|タスクの優先順位を即断できる思考プロセス

リスク評価ヒートマップ(影響度×発生確率)

リスク管理の現場で使われるフレームワークです。「影響度」と「発生確率」で4象限に分類します。1つの重大事故の裏側には、29件の小さな事故、そして事故ぎりぎりの異常が300潜んでいるといわれる(ハインリッヒの法則)ように、全てのリスクは関連し合っています。影響度が小さいものから潰していき、大きなリスクを軽減します。

インバスケット思考|タスクの優先順位を即断できる思考プロセス|mazrica times

ペイオフマトリクス(効果×実現性)

「効果」と「実現性」で4象限に分けるフレームワーク。ペイオフマトリクスで大切なことは細分化です。実現性が低いものでも細分化することで、実行可能なものになったり、費用をかけずに実行可能な業務を見極めることができます。

まとめ

インバスケット思考を採用することで、業務の優先順位の判断力が早くなるだけでなく、「そもそも、この業務はやる必要があるのか」と、当事者意識をもって本質的な問いを立てられるようになります。ぜひ、この記事を参考にインバスケット思考を取り入れてみてはいかがでしょうか?

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等