近年、注目度が上昇している言葉、「リスキリング」。リスキリングとは、新しい業務で必要となる知識やノウハウを学ぶことを指します。IT技術の進展やグローバル化によってビジネス環境が大きく変わる昨今では、常に新しい知識やスキルの獲得が必須となります。本記事では、リスキリングの言葉の意味と、メリットや企業事例を解説します。
目次
リスキリングの意味や定義とは?
リスキリングとは、「繰り返す」を意味する英語の「Re」と、「技術」を意味する「Skill」を掛け合わせた言葉で、新しい職業や業務に就くために必要な知識やノウハウを学ぶことを指します。資格取得がリスキリングと語られる例も多く見受けられますが、あくまでリスキリングの手段の1つであり、リスキリング=資格取得という結びつけは間違いです。
リスキリングという言葉が使われ始めたのは、2018年に開催された世界経済フォーラム年次会議(通称ダボス会議)の「リスキル革命」と呼ばれるセッションが開催されたことがきっかけと言われています。さらに、2020年1月のダボス会議では、「2030年までに世界で10億人をリスキルする」という宣言がなされ、大きな注目が集まりました。
近年は、DXにおいて発生する変化に順応するために、新たなスキルや知識を獲得すること、またはその取り組みという意味合いで使用されることが多いようです。
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リスキリングとリカレント教育の違い
リスキリングに類似する言葉に、リカレント教育があります。リスキリングは仕事を続けながら同時並行で新しいスキルを習得するのに対し、リカレント教育は就労と教育を交互に繰り返す学習制度のことを言います。
関連記事:リカレント教育とは|生涯学習との違いやメリット・デメリットについて
リスキリングとアンラーニングの違い
アンラーニングは、日本語に訳すと「学習棄却」を意味する言葉で、つまり今まで学習した知識やノウハウを白紙にして、新しく学び直すことを指します。アンラーニングは古い知識と新しい知識をすべて取り替えるイメージですが、リスキリングはその時代に合わせて、必要な知識やノウハウを適宜学びます。
日本リスキリングコンソーシアムについて
日本リスキリングコンソーシアムは、グーグルジャパンを中心に、総務省や経済産業省、サイボウズ、オラクルジャパン、ランサーズなど、49の自治体、国や企業が参画する官民共同プロジェクトです。
2021年度の世界デジタル競争力ランキングで、日本が68ヵ国中28位であったことに危機感を抱いたグーグル日本法人の代表の奥山真司氏が同団体を立ち上げました。リスキリングのプログラムを提供し人材育成を加速・サポートする「リスキリングパートナー」、ジョブマッチの機会を提供・支援する「ジョブマッチングパートナー」、協力・後援パートナーを増やし、ビジネスや会社に変革をもたらす人材育成を50万人にすることを目指しています。
現在、200以上のトレーニングプログラムと就業支援サービスの提供が開始しており、登録したユーザーのみ受講することができます。
なぜ、リスキリングが注目されているのか?その背景について
なぜ、今世界中でリスキリングが積極的に行われているのでしょうか。その背景としては大きく以下の3つが挙げられます。
ビジネス環境の変化
人工知能やIT技術の進展により、我々の生活の利便性は向上していますが、その一方で、既存の仕事がAIやロボットに奪われる恐れもあります。2020年に世界経済フォーラムが発表した報告によれば、2025年までに8,500万人分の雇用がなくなり、9,700万人分の新しい仕事が生まれると予測しています。
参照:The Future of Jobs Report 2020
VUCAと呼ばれる先の読めない激変の時代を生き抜くには、常に自らを変化に適応させていく必要があります。
関連記事:VUCA(ブーカ)の意味とは?|激変する時代を生き抜くのに欠かせないフレームワーク
人手不足
日本は、先進諸国のなかでもずば抜けて少子高齢化国家であることは周知の事実でしょう。2022年に総務省が行った統計によれば、労働人口の中核を占める生産年齢人口(15〜64歳)の割合は全人口の59.4%で、統計開始の1950年以来、もっとも低い数値となっています。
人手不足の現状は、DX推進にも影響を及ぼしています。総務省が米国・中国・ドイツ・日本の4か国を対象に行った調査では、日本がDXの課題として人材不足と回答した割合がもっとも高く67.6%でした。
参照:情報通信白書令和4年版
平均寿命の伸長
人生100年時代と言われる昨今では、従来では当たり前だった教育、就職、引退の3ステージ型のキャリアでは通用しなくなりつつあります。就職せずに起業をする選択肢、休職して留学に行く選択肢、引退後に復職する選択肢など、常に時代に合わせて自分のキャリアを拓いていくことが求められています。
関連記事:ポートフォリオワーカーとは|複数の仕事を持ちながら、変化にしなやかに対応していく働き方
リスキリングを行うメリット
リスキリングを行うと、会社と従業員双方にどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。まず会社側のメリットとしては、従業員が新しい知識やスキルを学習してくれるため、今までには出なかったアイデアや考えが生まれます。ひいては、新規事業の創出や既存事業のイノベーションをもたらします。
また、リスキリングをする文化が定着すれば、別の業務でも活躍できる人材が増え、結果的に会社全体の業務効率も高くなるでしょう。
従業員側のメリットとしては、リスキリングを通して「学ぶ→現場で実践する」のサイクルが身に付くため、より知識やスキルが深く定着します。結果として、会社外でも通用するスキルや能力を身につけることができます。
リスキリングの進め方
ここでは、リスキリングを進めるために欠かせない3つのポイントをご紹介します。
目的を明確にする
何のためにリスキリングを実施するのか、目的を明確にしましょう。目的が明確になっていないと成果がぼんやりしてしまいますし、また従業員を納得させられる理由付けもできません。どういうビジョンのもとに組織改革をしたいのか、そしてそのために従業員がどういったスキルを身につけるべきなのか、ロードマップを描くことが重要です。
教育プログラムを整備する
ここでいう教育プログラムというのはOJTではありません。リスキリングの要諦は、新しい業務に必要な知識やスキルを学ぶことです。そのために必要な教育プログラムの開発・整備を行いましょう。ただし、リソースがない場合は内製化にこだわらず、外部のコンテンツやプラットフォームの活用も1つの手です。
実践の場を用意する
スキルや知識を習得してもらうだけでなく、その後新しい業務やプロジェクトに関わってもらうなど、実践の場も用意しましょう。新しい知識やスキルを学んでも、それが会社に生かされるのか、また自分の成長にどうつながっていくかが見えないと、モチベーションは維持しません。
リスキリングの企業事例
最後に、リスキリングを導入している企業事例についてご紹介します。
AT&T
リスキリングの事例で代表的なのがAT&Tです。2013年から、いち早く「ワークフォース2020」というリスキリング推進プログラムを立ち上げ、また、2017年には学習プラットフォーム「パーソナル・ラーニング・エクスペリエンス」の提供を開始しました。その結果、社内の技術職の81%が社内異動で充足。さらに、リスキリングプログラムに参加した従業員は、そうではない従業員と比べると、評価は1.1倍高く、表彰数は1.3倍多く、昇進は1.7倍多いことがわかっています。
日立グループ
日立グループでは、デジタル人材の育成強化を行うため、リスキリングへの積極投資を実施。2020年に、eラーニング形式の基礎教育研修「デジタルリテラシーエクササイズ」を設立しています。「DXとは」「課題の定義」「実行計画の立て方」「計画の進め方」などで構成される講座で、全従業員16万人が対象となっています。
富士通株式会社
DX人材の強化、生産性の向上を目指すべくリスキリングを推進。2021年12月には、富士通グループ会社に所属する従業員を対象とした教育プログラム「Global Strategic Partner Academy」を開設しました。講座内容はITサービスに特化しており、ServiceNow、SAP、Microsoftなどの製品・サービスについて学ぶことができます。また、実践編では、富士通社内のプロジェクトにアサインされ、業務を学びながら新しい知見やノウハウを獲得する内容になっています。
終わりに
デジタル技術の急速な発展が進む昨今においては、会社もそこで働く従業員にも、変化への適応力が求められます。リスキリングを正しく活用すれば、変化に耐えうる社内人材を育成できますが、リスキリングそのものが目的化してしまうと、むしろ業務効率化を阻害する要因になってしまいます。本日紹介したポイントを参考に、自社にとってリスキリングが本当に必要なのか、検討してから導入を進めましょう。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等