インテグリティとは、「真摯さ」「高潔さ」を指す言葉で、全体性や完璧性を表すラテン語「integritas」が語源とされています。不祥事やトラブルにより企業が炎上の的になることも増えており、インテグリティという概念がより重要になっています。本日は、インテグリティの意味や企業事例について解説します。

 

炎上の歴史から見る「利益主義」の終焉

SNSという手軽なツールが普及し、いち早く情報を収集できるようになった反面、ネガティブな情報も、またたく間に何百万にものユーザーに広がるようになりました。

つまり、一度炎上してしまうと、数年、数十年先もデジタルタトゥーとして残ってしまうのです。 炎上の事例を紐解いていくと、実に利益主義の終焉と、誠実さを重視する理念経営の大切さを痛感させられます。特に大きく取り上げられた炎上事例で代表的なのが、DeNAが運営していたキュレーションメディア「Welq」です。医療に関する虚偽の情報を記載し、検索上位表示させていたことが発覚。SNSをきっかけに炎上し、テレビでも取り上げられて、結果的に多くのキュレーションメディアも閉鎖に追い込まれるほど、Webメディアに大きな影響を与えました

 

また、近年の例ではかんぽ生命の不適切な契約切り替えの問題が記憶に新しいでしょう。かんぽ生命では人員減少のため、一人当たりに対して、過剰な販売ノルマを設定。その結果、不正契約に走る社員が続出し、不正によるクレームが相次ぎ、問題が発覚しました。

 

これらの炎上に共通しているのは、資本主義のゲームに没頭し目先の利益を追求してしまったことでしょう。コンビニ店員やファストフード店員が店内でふざけた動画をアップする「バカッター」でも分かるように、今は従業員のささいな投稿でもすぐに拡散されます。一人の「不誠実さ」が、企業の生命を脅かしてしまうのです。

インテグリティとは?

インテグリティとは、英語で直訳すると誠実、清廉、真摯という意味です。ビジネスシーンでは、組織のあり方やマネジメントで必要とされる概念で、管理者研修やリーダー教育で用いられます。インテグリティは、不正をせずに業務にあたることはもちろん、法令遵守(コンプライアンス)といった社会に向けての責任や道義、CSRなどの企業倫理を含め、使い方において非常に幅のある概念です。インターネットの普及によって、企業の評価がガラス張りである今、特に企業に求められる姿勢と言えるでしょう。

インテグリティの2つの意味

インテグリティが提唱された歴史は古く、ピーター・ドラッガー氏、ウォーレン・バフェット氏がこのインテグリティをそれぞれの解釈で言及しています。

ピーター・ドラッカーのインテグリティ

1954年にピーター・ドラッカー氏によって書かれた「現代の経営」では、 「人は人の不完全なることを許す。ほとんどの欠陥を許す。しかし一つの欠陥だけは許さない。それが真摯さの欠如である。」 「学ぶことのできない資質、習得することができず、もともと持っていなければならない資質がある。他から得ることができず、どうしても自ら身につけていなければならない資質がある。才能ではなく真摯さである」 とあるように、経営で最も重要な資質は、才能や知識ではなく真摯さであると言及しています。

ウォーレン・バフェットのインテグリティ

スティーブ・シーボルト著「一流の人に学ぶ自分の磨き方」では、以下のように記されています。

「人を雇うときは三つの資質を求めるべきだ。すなわち、高潔さ、知性、活力である。高潔さに欠ける人を雇うと、他の二つの資質が組織に大損害をもたらす」ここの高潔さがすなわち「インテグリティ」を指しています。知性や活力だけでも短期的な利益や利潤を得ることはできるかもしれません。しかし、不誠実さはいずれ誰かの反感を買い、最悪の結果をもたらしかねません。

 

インテグリティとコンプライアンスの違い

インテグリティは、真摯さ・高潔さであるのに対し、コンプライアンスとは法律や社会的通念を守ることを指します。インテグリティとコンプライアンスは密接に関連しています。なぜならば、コンプライアンス遵守はインテグリティがある状態がなければ達成できないからです。 コンプライアンスを遵守するためには、

  • 忘年会で馬鹿騒ぎ
  • 出入り禁止に
  • SNSで取引先の悪口
  • ミスに気づいたが、そのまま修正せずに広報物データを納品
  • 会社のIDカード紛失

 

など、非常に線引きがあいまいなことを判断する必要があります。この判断基準として 必要なのがインテグリティです。インテグリティがあるからこそ、上述したような顛末・トラブルをしたらどうなるのかを予測でき、不誠実な行動を防げます。

インテグリティが、ビジネスや経営で必要な背景

ピーター・ドラッガーやウォーレン・バフェットなど、かねてから提唱されてきたインテグリティが、なぜ今企業に求められているのでしょうか?一つはグローバリズムによる過当競争です。グローバル化により、ビジネス市場は常に変化しかつ不確実性が増しています。大手企業でさえもいつ潰れるか分からない時代、いかに生き残れるか、事業成長できるかを問われる時代になりました。

 

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その結果、現場にしわ寄せがいって、ノルマを達成しようと不正をしたり、ミスをやり過ごして炎上したりとトラブルに発展するケースがあります。 たとえ、見せかけで繕っても企業の実態はインターネットによってすぐに詳らかにされます。少しでも不正が発覚し、不誠実な面が垣間見えれば、糾弾されて炎上してしまいます。 このような状況で必要なのが、不誠実なことに「NO」と言えるインテグリティを持った人材です。同調圧力に屈しない、高潔かつ真摯さを持つ存在が重要なのです。

インテグリティによって変わる働き方

インテグリティを意識すると、働き方はどのように変容するのでしょうか?

他人視点に立てる

インテグリティは、他人視点があってはじめて生まれます。世間、クライアント、ユーザーに不快を与えないか、客観的な目を自然と身につけながら仕事ができるようになります。

利益よりも公益性を大切にする

自社で市場を独占すれば、利益も拡大し、事業の成長性は高まるでしょう。ただし、一つの会社で市場を独占するというのは必ずどこかに偏りが生じます。インテグリティを意識すれば、競合と共生しお互い助け合っていく公益性が育まれ、業界やしがらみを越えて手を取り合うことができ、人としての強い力が身につきます。

 

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主体的な意見を持つようになる

インテグリティを意識するということは、「インテグリティとは何か」という主体的な意見を持つということです。各従業員が主体性を持ち、インテグリティに基づくお互いの価値観を交わしながらも、会社にとって最も良い方向に進むことができます。

 

役割別のインテグリティ

経営者

経営者が持つインテグリティは影響力が強く、全社員に波及します。経営者のインテグリティが会社の行く末を決めるといっても過言ではありません。利益追求だけを考えず、より視座の高い公益性、社会貢献思想などが求められます。

人事

人事においては、採用・育成に関するインテグリティが重要です。求職者のスキルやノウハウに惑わされず、人格を判断し採用を決めます。また、公益性に基づいて優秀な社員の流出を恐れた副業禁止などの行動の制約を行わず、従業員は自社独占のリソースではないことを認識する必要があります。

管理職

社員におもねるのでもなく、自分が嫌われる覚悟をもって会社のために従業員のために真摯に対応します。育成にコストのかかる従業員を見捨てるのではなく、どうしたら能力を最大限引き出せるのか、会社としてではなく人として従業員と接することが求められます。

従業員

ただ指示待ちになるのではなく、自分の意見も世間へ影響を与える大きな声と自覚を持ち、不正はごまかさずに即座にミスを報告することを大切とします。利益や保身のためではなく、自分の尊厳のために業務を推進することが大切です。

インテグリティの企業事例

最後に、インテグリティの実現に向けて取り組んでいる会社の事例をご紹介します。

花王(花王サステナビリティ)

花王サステナビリティは、花王ウェイの企業理念でもある「よきモノづくり」を原点とした活動で、エコロジー、コミュニティ、カルチャーを重点領域としています。カルチャーの領域では、インテグリティを一つの重要項目に挙げています。特にコンプライアンス遵守を徹底・強化しており、各部門におけるコンプライアンス研修の展開、コンプライアンス委員会を設置し、定期的に花王ビジネスコンダクトガイドライン等コンプライアンス関連社内規程の制定・改定の審議、コンプライアンス通報・定着のための教育啓蒙活動の審議などが実施されています。

General Electric社

General Electric社は、インテグリティの概念が深く浸透している会社の一つです。General Electric社の方針にも「揺るぎないインテグリティと高い水準の業務行為をもってあらゆることに取り組む事を方針としている」と書かれています。インテグリティ・ガイドでは、General Electric社がインテグリティに反する場合の厳格な罰則と、インテグリティ違反であると報告したものに対する報復を禁止する旨が規定されています。

 

まとめ

インテグリティは、非常に定義の難しい概念で一朝一夕で実践するのは難しいですが、間違いなく今後企業に求められる概念となるでしょう。ぜひこの機会にインテグリティを意識してみましょう。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等