一億総活躍社会の実現に向けて始まった施策「働き方改革」。 働き方改革というと、業務効率や、潜在スキルの最大化のように企業の成長につながる話題が多いですが、企業が長期的に成長するために大切なことは、従業員のモチベーションと健康です。従業員が働きたいと思える健全な職場環境と健康的な休暇制度の構築なくして得られません。本日は、有給休暇の取得を促進する「休み方改革」について詳しく解説したいと思います。

日本の有給休暇取得率は世界で最下位?

本題に入る前に、まず世界から見た日本の有給休暇取得率についておさらいします。 2018年に旅行サイト「エクスペディア・ジャパン」が11,144名を対象に行った調査によれば、世界19カ国中、日本は最下位で有給休暇取得率は50%という結果となりました。2008年から、40%〜60%の間を推移しており、最下位を抜けたのは2014、2015年のわずか2年間のみで、世界と比較すると、有給休暇取得率がいかに低いかが見て取れます。

ちなみに、有給休暇取得日数もわずか10日で、アメリカ、タイと並び世界最下位です。 ブラジル、フランス、スペイン、ドイツが有給休暇取得率、有給休暇取得日数ともに同率TOPで、有給休暇の取得率は100%、支給日数も4カ国とも30日とどの国よりも長い事がわかりました。

「休み方改革」で成果を最大化!導入目的や企業事例の紹介

また、同調査で、「有給休暇の取得に罪悪感がある?」という質問に、YESと回答した割合は、日本がTOPで58%、次が韓国55%、シンガポール42%でした。

<参考:世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2018|エクスペディア・ジャパン

長時間労働=上司からの評価が上がるという文化

日本の有給休暇取得率は、世界と比較して、低いことがデータから分かりました。では、なぜ、日本は有給休暇の取得率がなかなか改善されないのでしょうか?それは、日本に潜む「長時間労働が美徳」という考えが定着していると考えられます。

少し古い調査になりますが、2013年に内閣府が3,154人を対象に行った調査によれば、長時間労働をする人は、残業していることで頑張っている、責任感が強いというプラスの印象を与えられる、高い評価をしてもらえると考えている傾向にあることが分かりました。 また、同調査では、「残業削減に効果的」と回答が多かった「短時間で質の高い仕事をすることを評価する仕組み」「部下の長時間労働を減らした上司を評価する仕組み」「長時間労働をさせた上司への罰則の制定」については、実際に施策に結びついておらず、現場の経営判断への諦観が、長時間労働に結びついている可能性もあります。

<参照:「ワーク・ライフ・バランスに関する意識調査」結果速報について|内閣府

休み方改革とは?

休み方改革とは、GWやお盆や冬休みといったの長期休暇と重ならないよう、各社や地方自治体が定期的に休みを確保できるような施策を図り、有給休暇の取得を促す官民一体の取り組みのことです。具体的には、有給休暇の取得率向上や、休暇と絡めた地域創生、休暇の分散化による交通機関の混雑緩和などが目的とされています。 働き方改革は、2016年9月に「働き方改革実現推進室」が内閣官房に設置され、本格的にスタートしましたが、休み方改革は、それよりも前の2014年6月に「休み方改革官民総合推進会議」の前身とも言える「休み方改革ワーキンググループ」が発足され、活動がスタートしています。

休み方改革と働き方改革の違い

働き方改革では、多様な働き方の支援や普及、長時間労働の改善や生産性の向上が主な目的です。これが生まれた背景には、労働人口の減少、非正規雇用と正規雇用間における賃金格差、育児と仕事のバランスなどの問題などがありました。 しかし、働く部分だけでなく、「休む」部分においてもしっかりと見直す必要があります。特に、テレワークやフルフレックスなど、出勤にとどまらないワークスタイルを導入する企業も増えており、仕事と生活を統合させる「ワークライフインテグレーション」が広がりつつあります。仕事、生活どちらかが良いではなく、両方のバランスを整えていくことが、これからの時代は重要となります。

関連記事:ワークライフインテグレーション |毎日の景色を変える働き方

休み方改革における政府の取り組み

厚生労働省主導で、休暇推進のための制度がいくつか導入されています。

キッズウィーク

キッズウィークとは、子供の夏休みや冬休みといった長期休暇に合わせ、一部の祝休日を移動させることで長期休暇を分散化させる取り組みで、親子で過ごす時間を増やす目的で作られたものです。 2017年6月に行われた「教育再生実行会議」で提言され、2018年7月から導入が始まりました。

ワーケーション

ワーケーションとは、「ワーク(Work)とバケーション(Vacation)をかけ合わせた造語で、休暇をとりながら仕事をする働き方のことを指します。2000年代にアメリカで始まり、日本では2017年に日本航空(JAL)がトライアル導入したことで話題となりました。新型コロナの流行に伴い、ワーケーションへの注目が集まり、2020年5月には国立・国定公園、温泉地を対象とした「国立・国定公園への誘客の推進事業費及び国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進事業費補助金」の開始を発表しています。

※公募期間は終了しました(2020年7月時点)

関連記事:旅行しながら働く「ワーケーション」という働き方。バカンスと仕事の両立はできる?

プラスワン休暇

プラスワン休暇とは、年次有給休暇の計画的付与制度を用いて、通常より長い連休を取得することを推進するキャンペーンのこと。土日や飛び石連休にあわせて、休日を1日追加することで、年次有給休暇の取得を促し、長期連休を実現させることを目的としています。

休み方改革がなぜ求められている?

休み方改革が求められる背景には、有給休暇の取得率の低さを筆頭に、以下の3つの理由が挙げられます。

有給休暇取得率の低さ

前述したように、日本の有給休暇取得率は世界と比較しても非常に低いです。厚生労働省が発表している「就労条件総合調査」によれば、2017年の有給休暇取得率は51.1%で、政府が2020年までに目標としている数値、70%にはおよそ20%近くの開きがあります。 2019年4月の労働基準法改正により、年間5日の有給休暇を確実に取得することが義務になりましたが、これが果たして有給休暇取得率の向上に結びつくか、今後の動向を見ていく必要がありそうです。


長時間労働の是正

2019年9月に、一般社団法人日本経済団体連合会が労働者123万人を対象に行った調査によれば、2018年は1,998時間で、2017年の1,999時間、2016年の2,008時間から、減少傾向にあります。ただし、管理監督者においては、2,057時間と、2017年の2,045時間よりも微増で、一般労働者の労働時間が減った分、管理監督者に業務のしわ寄せが来ていると考えられます。

<参照:2019 年労働時間等実態調査集計結果|一般社団法人日本経済団体連合会h

長期休暇の分散化

現状だと、GWやシルバーウィークなど共通の大型連休があることで、交通渋滞や混雑が起こり、家族とゆっくり過ごす時間もなかなか取れないことが課題になっています。しかし、地域ごとに休暇期間を設定し直すことで、極端な混雑緩和や渋滞の緩和につながり、家族との貴重な時間を確保できます。また、国内移動や旅行需要の喚起にもつながるでしょう。

休み方を変えて、より自分らしく充実した働き方へ

業務削減を提案できる

長時間労働に依存せず、所定労働時間内で仕事を終わらせようという意識が芽生えます。 長くダラダラと仕事をこなせばいいという状態から、労働時間が短縮することで、「やる必要のない業務の削減」の提言なども率先して行う主体的な状態に変化します。

メンバーシップ型からジョブ型へ

日本企業の多くは、メンバーシップ型です。メンバーシップ型とは、各部門で業務内容は決まっているものの、人に対し業務内容が明確に限定されません。いわゆる「就社型」です。さまざまな業務をジョブローテーションで経験でき、広く浅く幅広い業務のノウハウが貯まるというメリットもありますが、これが、日本企業の長時間労働を常態化させてしまっている原因の一つでもあります。休み方が変わることで、ジョブ型雇用に変わらなければいけない側面も出てくるでしょう。各従業員ごとに、明確な職務が割り与えられるため、他の職種のサポートに入るということが起こらず、成果さえ上げていれば、休暇をとりやすい状況になります。

休み方改革の導入事例

最後に、休み方改革を導入している企業事例を3つご紹介します。

サントリー

サントリーでは、2016年を働き方改革元年とし、全社員の「最低10日以上の年次有給休暇取得の達成」を目標に、夏季連続休暇および計画年休の100%取得の推進、男性の育休取得率100%に向けた取り組み「WBC(Welcome Baby Care Leave)」を実施しています。

株式会社伊東商会

看護が必要な人が家族にいる場合、対象者1人に対し、年間で5日〜最大で10日まで有給休暇を付与する休暇制度です。第二親等までとファミリーの定義が寛容なのが特徴で、祖父母、孫も対象に入るため、非常に活用しやすい制度となっています。

株式会社富士通

富士通では、2018年から会長や社長を含めた管理職以上に年末年始、夏休みを除く平日の5連休の取得を義務付けています。管理職が休暇をとることで、一般の社員が休みやすくなる風土を作ることが狙いです。

まとめ

「休み=売上のマイナス」そのような考えはもう時代遅れです。仕事と生活が統合されたワークライフインテグレーションが浸透している今、休みも仕事もどちらもケアしていくことが重要になるでしょう。特に、”休み方がへたくそ”といわれる日本人。まずは、自分が休み方改革を率先して実践し、「休みやすい風土」を作っていきましょう。

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑
Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等