「会社に雇用される能力」を意味するエンプリアビリティというキーワードを知っていますか?雇用の流動性が高まっている昨今、注目を集めています。この記事では、エンプロイアビリティの意味や種類、高めるための方法について解説します。

 

エンプロイアビリティの意味とは

エンプロイアビリティは、Employ(雇用する)とAbility(能力)を掛け合わせた言葉で、「会社に雇用される能力」を意味します。長期雇用の不安定化を迎えた1980年代終盤のアメリカにおいて、ハーバード大学の社会学者ロザベス・モス・カンター氏が提唱しました。

 

単に専門的な素養やスキルにとどまらず、コミュニケーション能力、思考特性、人柄、性格など、総合的な能力を指しています。

エンプロイアビリティとエンプロイメンタビリティの違い

エンプロイアビリティに似た言葉に、エンプロイメンタビリティがあります。エンプロイアビリティが雇用される力であるのに対し、エンプロイメンタビリティは「雇用する力」を意味する対義語です。多くの受け皿がある(雇用を支えられる)大企業を指す言葉ではなく、優秀な人材に選ばれる力を指します。先進国、とりわけ日本においては、少子高齢化が社会問題となっています。近い将来、訪れる人手不足に備えるためには、ただ福利厚生や給料などの条件面を整備するなど表面的な対策を行うのではなく、社会貢献性やビジョンなど、本質的に魅力のある会社でないといけません。

エンプロイアビリティの種類

エンプリアビリティは、絶対的/相対的、外的/内的の4つに分類することができます。1つずつ解説します。

絶対的/相対的エンプロイアビリティ

絶対的エンプロイアビリティとは、時代・環境にかかわらず価値をもつ能力を指します。近年は、「AIが仕事を奪う」とまことしやかに言われていますが、クリエイティブ性の高いスキル、高度な対人コミュニケーションが求められる仕事は、まさに機械に代替不可能な仕事といえるでしょう。

 

相対的エンプロイアビリティはその逆で、時代やトレンドによって需給バランスが変わる能力を指します。例えば、コンビニやスーパーのレジ打ちは、少しずつ自動レジに転換を始めていますし、自動運転の普及が進めば、タクシードライバーやトラックドライバーなども代替されるかもしれません。

外的/内的エンプロイアビリティ

外的、内的は社外、社内と言い換えることもできます。つまり、外的エンプロイアビリティは今の組織だけでなく社会にとって求められる能力を指します。例えば、サービスや商品をセールスする能力、文章を書く能力などは、他組織でも転用可能なスキルといえるでしょう。

 

一方、内的エンプロイアビリティは、現在所属している会社においてのみ必要とされる能力です。「社外だと通用しない」リスクも孕みますが、社内での評価が高いことから、リストラなどのリスクを回避できる利点もあります。

エンプロイアビリティが注目される背景

なぜ、1990年代に提唱されたエンプロイアビリティが、今注目を集めているのでしょうか。そこには、いくつかの要因が考えられます。

終身雇用制度の終焉

まず1つに挙げられるのが終身雇用制度の存在です。長らく日本では、終身雇用制度によって従業員の雇用が保障されてきました。しかし、バブル崩壊後における経済の停滞、少子高齢化などの要因もあいまって、終身雇用制度は徐々に終わりを迎えつつあります。能力が不足していても会社に居座るということが許されなくなってきているのです。

このような状況下では、従業員は社内だけに通用する内的エンプロイアビリティだけでなく、外的エンプロイアビリティも身につけていかないといけません。

目まぐるしく変化するビジネス環境

デジタル技術の発展、ニーズの多様化、新規市場創出のスピード向上、それに伴う競争の激化などによって、ビジネス環境はより不確定で混迷を究めています。このようななかでは、会社だけでなく個人のキャリアも確固たる正解を見つけることは難しくなるでしょう。

 

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ただ、どの時代にも通用する絶対的エンプロイアビリティを身につけておけば、たとえ今いる会社がなくなったとしても、違う環境で活躍することができます。

エンプロイアビリティを構成する3つの要素・スキル

エンプロイアビリティを構成する要素としては、厚生労働省が「エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書について」でまとめている3つの要素が参考になります。

 

  • 職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの
  • 協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの
  • 動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するもの

 

以上3つを「特定の専門知識・技能」「思考特性や行動特性(協調性・積極性など)」「個人的属性(動機・人柄・性格・信念など)」と少しわかりやすく噛み砕いて、それぞれ解説いたします。

1.特定の専門知識・技能

もっとも可視化しやすいのが専門知識・技能です。例えば、セールス、マーケティング、システム開発、経理などといったスキルが挙げられます。

2.思考特性や行動特性

思考特性や行動特性とは、柔軟に物事を捉える力、コミュニケーション能力、企画力、協調性、ロジカルシンキングなどを指します。専門知識・技能と比較すると、普遍的な能力で、絶対的エンプロイアビリティや外的エンプロイアビリティに一致します。

3.個人的属性

動機・人柄・性格・信念、価値観など、その人自身の特性を形成する要素を言います。これは、1と2がソフトだとしたら、個人的属性はハードといえます。その人に内在するものであり、具体化することは困難なものです。

エンプロイアビリティを高めるための方法・取り組み

では、どうすればエンプロイアビリティを高めることができるのでしょうか。

多様な価値観をもつ人との接点を作る

社内の他部署や他事業部との交流も大切ですが、やはり同じ組織には同じ様な考え方や価値観をもつことが多いです。複業やプロボノなどを通じて真逆の発想や価値観をもつ人とともに語り、行動をすることで、自分の弱みや強みに気付くきっかけになるでしょう。

 

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経営者の視点をもつ

経営者の視点に立つことで、事業全体に対して俯瞰的に見れるようになります。例えば、社内ベンチャーを立ち上げて事業開発の経験をしてみたり、複業で自身の名前で事業にチャレンジするのでも良いでしょう。そうすることで、不足している知見やスキルを自覚できるかもしれません。

 

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終わりに

「雇用され続ける力」は、一見、生活のために会社に残る「ぶらさがり社員」のようなネガティブな印象があるかもしれません。しかし、エンプロイアビリティとは、先に述べたように今所属している会社にのみならず、どのような組織でも雇用されることを目指す、ビジネスパーソンにおいて欠かせないスキルといえます。ぜひ、本日の内容を見て、参考にしてみてください。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等