新しいイノベーションを創出するために、さまざまな企業が取り入れている社内ベンチャー。社内ベンチャーが会社にどのようなメリットをもたらすのか、必要な理由や企業事例とあわせてご紹介します。

 

社内ベンチャー(社内起業)とは?

社内ベンチャーとは、新しい製品やサービス、事業を生み出すために設立される組織のことを指します。ビジネスを取り巻く環境は、ビッグデータや人工知能といった最新技術の普及、新型コロナウイルスの感染拡大により、めまぐるしく変化を遂げています。主力事業に対する危機感から、破壊的なイノベーションを起こし、事業転換を図りたいと考える会社も増えてきています。

 

とはいえ、急速な事業ピボットはリスクを伴います。しかし、社内ベンチャーであれば、既存のリソースを活用してスモールスタートできるためリスクを伴いません。また、社内ベンチャー制度の普及によって、イントレプレナー(社内起業家)を育成でき、メリットも大きいです。

 

社内ベンチャー(社内起業)と子会社の違い

社内ベンチャーと子会社は似ていますが、意味合いは異なります。まず子会社はその名のとおり、親会社に意思決定機関(株主総会)を支配されている会社を指します。しかし、経営判断や事業運営にかんしては、独立して自由に行うことができます。

 

一方、社内ベンチャーは、子会社、事業部など形式を問いません。事業部単位で立ち上げて、軌道に乗ったら分社化して子会社または完全独立会社として事業継続するケースが多いです。

 

社内ベンチャー(社内起業)が必要な理由

さまざまな企業で社内ベンチャー制度が取り入れられている理由には何があるのでしょうか?大きく以下の3つに集約されます。

 

イノベーションの創出

ビジネス環境は、グローバリゼーション、ビッグデータや人工知能といった最新技術の普及などを要因として、予測不可能なほどに急激に変化しています。GAFAが出版業界、音楽業界に変革を起こしたように、既存事業を継続しているだけでは、やがて新規参入者に置き換わられてしまいます。社内ベンチャーによって、イノベーションを創出し、自社の優位性を保つことで、さらに事業を飛躍させることができます。

 

人材の定着率向上

組織が大きくなるほど、セクショナリズムが強く作用し、各部門の対立が生まれます。こうなると、成長は鈍化して衰退の一途をたどります。チャレンジを尊重する風土を会社全体に根付かせることで、従業員のモチベーション向上につなげることができます。

 

若手人材の早期戦力化

事業経営では、経営だけでなく経理、採用、営業、広報など、さまざまなナレッジを学べます。社内ベンチャー制度で成長の機会を与えることで、潜在的な能力を引き出すことができます。

 

社内ベンチャー(社内起業)のメリット

社内ベンチャー(社内起業)のメリットは、企業側、従業員側双方にあります。まず、企業側においては、新たなビジネスモデルの構築を行えます。社内ベンチャーによって立ち上がった新事業が軌道に乗れば、主力事業にできます。また、新しい業界へ参入するきっかけにもなります。また、社内ベンチャー制度というチャレンジングな組織風土によって、起業家マインドが旺盛な人材を採用しやすくなります。

 

従業員側のメリットとしては、社内の人材、資金、ナレッジ、取引先、ブランドなど潤沢なリソースを活用して、事業を始められることです。通常であれば、資金融資を受ける、事務所を借りる、従業員を雇用するなど、それ相応のリスクを背負います。しかし、社内ベンチャーであれば、万が一事業が失敗に終わっても、借入金の返済や従業員の解雇などを行うことはありません。

 

社内ベンチャー(社内起業)のデメリット

メリットがある一方でデメリットも多く存在します。
まず、企業側のデメリットは失敗した場合に多くの損失が出てしまうことです。新規事業はチャレンジしてみないとわからない側面も多く、それゆえ社内ベンチャー制度は、資金力がある大手企業で多く採用されています。

 

従業員側のデメリットとしては、自分で会社を起業したときと同様に、失敗する確率が高いことです。すでにビジネスモデルが確立されている既存事業と比較すると、失敗した際の損失金額も大きいです。

 

また、会社のバックアップがあってリスクが小さいという安心感からか、社内ベンチャーに手を挙げた従業員もモチベーションを維持するのが難しくなります。そのため、事業が中途半端な状態で頓挫してしまったという事態になることもあります。

社内ベンチャー(社内起業)の作り方

ここでは、社内ベンチャーが機能するために必要なポイントを解説します。

 

報酬や給料を定義しておく

まず、成功の基準を定義しましょう。「市場調査する」なのか、「収益の柱を構築する」なのか、明確にする必要があります。そのうえで、成功した場合に支払う報酬・給料も明示しておくと良いです。

 

新規事業を立ち上げるのは、想像以上に精神力、体力が試されます。ゴール(成功)があいまいで、見返りも見えなければ、社内ベンチャーに関わる従業員はすぐにモチベーションが下がってしまうでしょう。

 

新規事業は、0→1を作ることが価値となるので、既存の人事評価制度で判断できないケースが多いです。どのくらいの報酬や給料がほしいのかをヒアリングし、その目標にコミットとさせるなど、自発的なアクションができる環境を整備しましょう。

会社機能を実装させる

社内ベンチャーは、あくまでほかの事業部や部署と独立した組織体であるべきです。新規事業の創出にはある程度のスピード感が求められます。既存の部署との連携が発生すると、共有や承認に時間がかかります。結果、思うように事業が成長せずに、投資コストを回収するまでに至らなかったということも起こりえます。最小限でも良いので、独立した会社機能をもたせましょう。

 

セーフティーネットを構築する

とはいえ、社内ベンチャーのメンバーにすべてを丸投げするのもよくありません。伴走者や壁打ち相手などを準備する、事業が失敗したさいの対応をあらかじめ示しておくことで、安心してチャレンジに臨めますす。

 

社内ベンチャー(社内起業)の成功例

最後に、社内ベンチャー制度を導入している企業事例をご紹介します。

無印良品

無印良品は、もともと1980年に合同会社西友で作られたプライベートブランドです。当時は家庭用品9品目、食品31品目しかありませんでした。その後、商品のバリュエーションを増やしていき、1988年には無印良品事業部を設立。1989年には良品計画を設立し、翌年に独立しました。

 

スープストックトーキョー

今や駅ナカ、商業施設などで見かけるスープストックトーキョー。実はスープストックトーキョーも、もともとは三菱商事の社内ベンチャーでした。創設者である遠山正道氏は、当時、日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社に出向しており、そこでスープストックトーキョーの草案「スープのある一日」を起案しました。

 

その後、第1号店として「Soup Stock Tokyoヴィーナスフォート店」を出店しました。2008年には、遠山正道氏が全株式を取得し、事実上の独立会社となりました。今では、Soup Stock Tokyoを54店舗、その他関連の飲食店を多数展開する会社へと成長しました。

 

SHOWROOM

SHOWROOMは、スマートフォンやパソコンなどの端末からライブ配信および視聴ができるストリーミングサービスです。2013年に、当時DeNAに勤めていた前田裕二氏が社内ベンチャーとして設立しました。その後2015年にスピンアウトしています。今や登録ユーザーが150万人の動画配信プラットフォームに成長しています。

 

スタディサプリ

CMでもおなじみのスタディサプリ。実は、リクルートの社内コンペ「Ring(リング)」によって生まれた事業です。R25やカーセンサー、ゼクシィと呼ばれる主力事業も、この「Ring(リング)」によって事業化されています。2021年は、オンライン学習の需要が増えたこともあり、会員数は157万人、導入数は高校で2,500校以上、小中学校で600校以上となっております。

 

終わりに

社内ベンチャーでは、社内のナレッジを活用して、ローリスクで新しい事業の創出ができます。そればかりか、リーダーシップ人材の育成や新しい収益源の構築などのメリットも享受できます。しかし、新規事業創出にあたって相応の投資は必要で、失敗に至った場合は投資元本を回収できないケースもあります。最悪の想定も加味し、制度を設計することが肝心です。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等