エンパワーメントとは、権限付与や権限移譲のことを指し、ビジネス上での経営や人材育成の面で注目されている考え方です。本日はそもそもエンパワーメントとはどういったものか、使い方やメリット、実践する上で大切なポイントについてわかりやすく解説します。

エンパワーメントとは

エンパワーメントは、英語で「権限付与」「権限委譲」と言い、ビジネスでは現場の業務権限を従業員に委譲し、パフォーマンスを最大限に引き出すことを指します。マネージャーや経営者が方針や業務プロセスを全て細かく指示するのではなく、目標達成するためのプロセスを従業員に委ねることで、従業員が当事者意識を持ち、新たな課題を発見したり、自分に足りないスキルを高めようとする効果が期待できます。

 

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エンパワーメントの成り立ち

エンパワーメントは、中世封建社会の力関係において用いられていた言葉で、カトリック教会勢力が貴族に権力を委譲する法的用語でした。その後、エンパワーメントの重要性を広く世の中に示したのが、哲学者パウロ・フレイレ氏です。

 

パウロ・フレイレ氏は、読み書きのできないブラジル北東部の住民に対し、文字を丸暗記させる方法ではなく、抑圧されている状況を客観視させ、自覚させて主体的に変革させるプロセスによって、識字教育を実践しました。 その後、女性権利運動や先住民運動などの「社会地位の向上」という意味で使われるようになり、現在は社会運動的な意味から派生して、福祉や教育、そしてビジネスシーンでも用いられるようになりました。

OODAループとエンパワーメント

OODA(ウーダ)ループとは、アメリカ空軍で使われていた軍事戦略のことで、空軍のジョン・ボイド大佐が提唱した理論です。「Observe(観察)」「Orient(方向付け)」「Decide(決心)」「Act(行動)」の4つの頭文字をとった造語で、PDCAに次ぐ新たな戦略プロセスとして注目されています。変化の激しい時代では、よりよい正解を追い求めていくことは、あまり適切ではありません。今手元にある情報から、すぐにプロトタイピングし、行動に移すことが重要です。

 

OODA(ウーダ)ループは、従業員がそれぞれ迅速で正確な意思決定をするエンパワーメントにおいても非常に有用な方法の一つになるでしょう。

 

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エンパワーメントを高めるアプローチ方法

エンパワーメントのアプローチ方法には2つあります。

構造的アプローチ

一つが、経営者やマネージャーといった管理者から現場へ業務の権限を委譲する構造的アプローチです。これにより、従業員の能力を最大限に引き出すことができます。

 

心理的アプローチ

もう一つのエンパワーメントのアプローチが、自己効力感を高める心理的アプローチです。心理的アプローチでは、力はそれぞれ人の中に秘めており、自分はやればできるというモチベーションこそ、エンパワーされた状態であると定義しています。心理的アプローチは、Conger & Kanungoによって定義され、リーダーシップやマネジメントに関する研究者Thomas & Velthouseに引き継がれました。

 

4つの要素

  • コンピテンス(自己効力感) 自分はやれば出来るという確信の度合いのこと。自己効力感が高いと、努力への意欲も高くなり、また障害に直面しても耐える力を身に付けることができます。


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  • 影響感

タスクの目的を達成する意図された効果を生み出す度合いのこと。但し、自己効力感との境界は「曖昧」とされています。

 

  • 有意味感

個人の理想や規準という観点から判断されたタスクの目標や目的の価値のことを指します。

 

  • 自己決定感

ある人の行動がどの程度自己決定されたか知覚している度合いのことです。

<参照:エンパワーメント経営はどの道を歩むべきか-「エンパワーメント経営論」序説-

エンパワーメントで得られるメリットや効果

エンパワーメントを活用するメリットは以下の3つです。

メリット①生産性の向上

従業員に権限移譲することにより、部署を連携する業務、承認が必要なイレギュラー業務においても意思決定のスピードが格段に上がり、生産性を高めることにつながります。

メリット②リーダーシップを持つ従業員の育成

トラブルなど不測の事態にも「指示待ち」にならず、自らリーダーシップを持って解決に臨むため、非常にフレキシブルな組織が形成できます。

メリット③潜在的な能力の掘り出し

経営層やマネジメント部門に管理されていたことで発揮できていなかった能力が、エンパワーメントによって引き出され、従業員同士の連携がスムーズになったり、スキルが掛け合わさったりすることで、組織としてのパワーが向上します。

エンパワーメントのデメリット

エンパワーメントを導入すると、能力を引き出す、自律性が養われるなどの利点もありますが、従業員に重圧がかかり、トラブルが増えたり、スキル以上の業務を抱え込んで連携がうまくいかなくなったりするケースもあります。

デメリット①従業員へ過度なプレッシャーがかかる

それぞれがオーナーシップを持つことで、今まで以上に責任感を感じ、中にはプレッシャーで萎縮してしまい、本来の力を発揮できない従業員もいるかもしれません。現場任せにするのではなく、その人に適したキャパシティの業務量か、過度なプレッシャーを与えていないか逐一確認をしましょう。

 

デメリット②サービスカラーが統一しない

特に、接客業ではこれが顕著に表面化します。店舗ごとに全く異なるサービスをしていては、顧客に不平等感を招き、信頼を下げる原因にもなります。明確で理解できるビジョンやクレドなどを作り周知するなど、サービスカラーを統一する工夫が必要になります。

 

デメリット③トラブルなどの事案が多発する可能性がある

特に、エンパワーメントを導入した当初は、従業員のスキルが追いついていない、現場の新しい体制で連携が上手くとれていないといった理由で、トラブルや不測の事態が起こるかもしれません。マネジメント側が上手くフォローに回り、体制を整備しましょう。

 

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エンパワーメントの使い方や注意点

エンパワーメントを活用する際は、以下の3つのポイントに注意をしましょう。

全社あげての協力体制の構築

エンパワーメントは、経営マネジメントから現場レベルまで、全ての従業員の協力のもと行われるものであり、人事だけで導入できるものではありません。経営層と連携し、従業員への権限移譲がスムーズにできるような体制を構築します。

情報を公開する

エンパワーメントで大切なのが情報の公開です。権限移譲されているのに、自分が知り得ない情報があるとなれば、従業員は不信感を抱き、その空気感が全体に伝播します。特に、ベンチャーなど規模の小さい企業なら、なおさら各従業員に与えられる意思決定の裁量は大きくなり、経営や人事、経理等といった機密情報も必要になります。

適切にフォローする

エンパワーメントでは、とにかく部下の判断を尊重しましょう。もしトラブルが起こったとしても、なぜそのトラブルが起こったのか理由を聞き、再発防止策を一緒に考えましょう。強く叱責をしてしまうと、次から失敗できないプレッシャーを感じていまい、本来の能力を発揮できなくなります。

エンパワーメントの導入事例

最後に、エンパワーメントの導入事例についてご紹介します。

星野リゾート

星野リゾートは、社員の流出、業績が伸びなかった過去の失敗を踏まえ、トップダウン方式から脱却、社員が自由に考えて決断するエンパワーメント体制へ転換。ケン・ブランチャード氏のエンパワーメント理論を採用し、現場への情報開示、経営ビジョンの明確化などを行った結果、業績も徐々に回復、退職する社員の数も減少しました。

 

スターバックスコーヒージャパン

スターバックスジャパンでは、接客マニュアルがないかわりに「お客様がしてほしいサービス」を従業員各自が自発的に考えます。入社したら、アルバイト正社員に関わらず、合計80時間に及ぶ研修を受けます。この研修で、ビジョンやミッション、役割、働く意味を学びます。スターバックスのイズムを伝えた上で権限委譲することで、スターバックスのフレキシブルで心のこもった接客対応をスタッフ各自が実践できています。

エンパワーメントに大切なことは自律的リーダーシップの促進

エンパワーメントは、現場に丸投げするのではなく、マネジメント側も適切に現場の従業員をフォローし、それぞれが主体性を発揮できるように働きかける必要があります。また中には、権限移譲されることに向かない従業員もいるでしょう。従業員それぞれの個性を見極め、全社で体制を整え、柔軟にエンパワーメントを導入していきましょう。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等