働き方改革の推進に伴い注目されているキーワードがディーセントワークです。本記事では、SDGsとも関係の深いディーセントワークの定義や意味について解説します。
ディーセントワークとは?
ディーセントワークのディーセント(decent)は、直訳すると「きちんとした」「まともな」という意味を持ち、「働きがいのある人間らしい仕事」を指します。ただ、労働に見合う正当な対価が得られるだけでなく、人としての尊厳も保たれていなければいけません。ディーセントワークは、1999年に開催された第87回の国際労働機関(ILO)の総会にてファン・ソマビア事務局長によって初めて使われました。
ディーセントワークとSDGsについて
2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年9月に国連サミットで採択された国際目標のことです。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されており、2030年までの達成を目指しています。
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SDGs目標8「働きがいも経済成長も」で定められているゴールには、『包摂的かつ持続可能な経済成長およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセントワーク)を促進する』と、ディーセントワークの記載があります。
国際労働機関(ILO)が定義するディーセントワーク
第87回の国際労働機関(ILO)の事務局長報告と、2008年に開催された第97回総会で採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」で、下記の4つの目標が掲げられています。
1.仕事の創出-必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事を作り出すことを支援
2.社会的保護の拡充-安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備。社会保障の充実。
3.社会対話の推進-職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政・労・使の話し合いの促進。
4.仕事における権利の保障-不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障、尊重
引用元:国際労働機関(ILO)
厚生労働省が定義するディーセントワークについて
厚生労働省でも、日本の現状に沿ってディーセントワーク推進のポイントを以下の4つにまとめています。
(1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られる
(2)労働三法などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められる
(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬も出来る
(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受ける
引用元:https://jsite.mhlw.go.jp/wakayama-roudoukyoku/banner/decentwork.html
ディーセントワークが注目されている理由
なぜ、ディーセントワークが注目されるようになったのでしょうか。理由としては、SDGsへの関心の高まりと格差の拡大などが挙げられます。
SDGsに対する関心の高まり
2019年に世界経済フォーラムが行った調査によれば、28ヵ国において日本の認知度は最下位で「聞いたことがある」が49%、「よく知っている」が8%でした。
参照:Global Survey Shows 74% Are Aware of the Sustainable Development Goals
2021年に損害保険ジャパン株式会社が行った調査によれば、「まあまあ知っている」が48.1%、「よく知っている」が23.6%と認知度は大幅に高まっています。(同調査、昨年比でも大幅に上昇)
参照:「SDGs・社会課題に関する意識調査」~認知度は約8割、達成に向けて個人と企業に求められるものとは~
格差の拡大
日本は「一億総中流社会」と言われていました。しかし、バブル崩壊を境に均衡は崩れ、所得格差は拡大しています。2018年に独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によれば、可処分所得が厚生労働省公表の貧困線を下回っている世帯の割合は、母子世帯で51.4%、父子世帯で22.9%、二人親世帯で5.9%となっています。
参照:子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2018(第5回子育て世帯全国調査)
またコロナ禍による急激なビジネス環境の変化により、それに適応できる会社とそうでない会社が二分し、格差拡大はさらに悪化すると想定されます。
ディーセントワークのメリット
ディーセントワークを採用すれば、会社としてのイメージアップだけでなく、優秀な人材の採用や定着の向上などのメリットが得られます。
優秀な人材の採用と定着
家庭との両立、社会保険面での保障体制の構築など、やりがいを持てる人間らしい仕事を目指すことで、優秀な人材からの応募数の増加や、定着率のアップにつながります。
企業のイメージ向上
性別、国籍、家庭環境など、それぞれの従業員の事情に合わせた働き方を構築することで、ダイバーシティに理解のある会社としてイメージアップにつながります。
関連記事:ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)|多様性を受け入れ活かし合う仕組み作り
SDGsやESGがバズワードになっているように、会社が果たす社会的責任の範囲は年々広く深くなっています。取引先や株主だけでなく、従業員、従業員の家族、地域社会、地球環境などさまざまなステークホルダーの視点に立って考えることがより一層求められるでしょう。
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ディーセントワーク実現を阻む課題
これだけ魅力的な取り組みであるディーセントワークですが、日本には実現を阻むさまざまな課題があります。
最低賃金が低い
厚生労働省の調査によれば、もっとも高いのが東京で1,041円、もっとも低いのが沖縄と高知で820円でした。
OECD(経済協力開発機構)が2020年に発表している「real minimum wage(実質最低賃金ランキング)」と照らし合わせると38ヵ国中14位で、実質最低賃金が1位のルクセンブルクとは8.4ドルほど差が開いています。
なくならない長時間労働
総務省の調査によれば、週労働時間が60時間を超える労働者は2019年で6.5%と、前年から0.4ポイント下がっているものの、厚生労働省が掲げる目標5%以下にはいたっていません。
また、エン・ジャパンがミドル世代を対象に実施した調査では、自社の残業時間の増減傾向について質問をしたところ、実に47%と半数近くが「変わらない」と回答しています。「増加傾向」と回答したのは26%、「減少傾向」と回答したのは27%でした。また、「1ヶ月の残業時間はどのくらい?」という質問に対して、31%が「月40時間以上の残業をしている」と回答しています。
参照:ミドル2000人に聞く「残業時間」実態調査―『ミドルの転職』ユーザーアンケート―
ディーセントワークを導入している企業の取り組み事例
最後に、ディーセントワークを導入している企業事例をご紹介します。
都築電気株式会社
ディーセントワーク推進のために、本社オフィスを改装しました。テレワークに適したオフィス空間になっており、お客さまやビジネスパートナーとともに活用できる「ライブオフィス」を筆頭に、一人で集中したい時、議論したい時など目的別に最適な形の空間をそれぞれ構築しています。
マンダム
マンダムでは、ディーセントワーク実現に向けて、ストレスチェックや従業員意識調査、治療と仕事の両立支援といったヘルスケアサポート、フレックス制や育児介護支援制度の導入などを実施しています。また、多様な人材が活躍できるよう、障がい者用駐車スペースの確保やユニバーサルトイレの設置といったハード面だけでなく、日本ユニバーサルマナー協会と連携し、さまざまなメンバーと円滑にコミュニケーションをとれるようにするユニバーサルマナー研修も実施しています。
終わりに
ディーセントワークは、SDgsと紐付いている世界的に推進されている概念でありますが、
まだまだ普及度は低いです。しかし、ディーセントワークの推進は企業に大きなメリットをもたらします。ぜひ、本日の内容を参考にしてみてください。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等