「ナレッジワーカー」を知っていますか?この言葉は著名な経済学者、ピーター・ドラッカー氏が1969年に出版した「断絶の時代」で提唱された言葉です。知識やノウハウによって新しい価値を生み出す「知的労働者」のことを指します。
このナレッジワーカーはどことなく掴みどころがなく、人によって定義が異なる言葉でもあります。本記事では、ナレッジワーカーの意味、今の時代にどのようなナレッジワーカーが必要とされているか、そしてナレッジワーカーがもたらす新しい働き方について解説いたします。
ナレッジワーカーとは?
ナレッジワーカーは、英語のナレッジ(知識)とワーク(労働)を組み合わせた造語で、「専門知識や経験則によって既存のものに新たな付加価値を生み出す労働者」を指し、「知的労働者」とも呼びます。
よくホワイトカラーと同じ意味合いで扱われることがありますが、ホワイトカラーは名前の通り「白いワイシャツを着て仕事をする=机上(オフィス)で働く労働者」の総称で単純労働も含みます。それに対し、ナレッジワーカーはあくまで自分の知見やノウハウを使って問題を解決する役割を果たします。
ナレッジワーカーとマニュアルワーカーの違い
マニュアルワーカーは「単純作業労働者」を指し、決められた規則に沿ってどれだけ正確にスピーディーに遂行できるかが求められます。ナレッジワーカーの対義語に当たります。それに対しナレッジワーカーは、今ある業務から課題を抽出して新たな仕事を作り出したり、規則を変えて課題に対する施策を提案します。
ただし、今後はAIが普及し、単純労働が機械に置き換わるため、マニュアルワーカーにもナレッジワーカーのように知識や知見を活かし課題解決するスキルが必要になるでしょう。マニュアルワーカー、ナレッジワーカー、双方の間の境界線は徐々にあいまいになると考えられます。
ナレッジワーカーを育成するプロセス「ナレッジマネジメント」
ナレッジマネジメントとは、各従業員が持っている知見を社内でシェアし業務に反映する取り組みを指します。ナレッジワーカーを育成する際に重要なプロセスです。一橋大学の野中郁次郎氏の「知識経営」が元になっており、この考え方は今でも世界中の多くの企業で採用されています。
ナレッジマネジメントの目的は、「暗黙知」を「形式知」に変えることです。暗黙知とは、勘や経験則など個々に内在されている非言語化された知見やノウハウのことで、反対に形式知はマニュアルなど明文化されて誰もが継承可能な知見・ノウハウを指します。形式知を増やすことで、企業には今までよりもさらに多くの知見が蓄積し、かつ新しく入った従業員に淀みなくノウハウを継承でき、持続可能な組織を構築できます。
なぜナレッジワーカーが注目されている?
1969年と古くに提唱されたナレッジワーカーが、なぜ今注目を集めているのでしょうか?
それは、以下の3つに集約されます。
ナレッジワーカー注目される理由①マーケットインの終焉
マーケットインとは、ユーザーのニーズを把握し、そのニーズに見合ったものを開発・販売するマーケティング手法ですが、VUCAと呼ばれる変化が早く不安定な時代では、通用しなくなりつつあります。これからは、生産者が良いと思うものを作る「プロダクトアウト」が主流になります。プロダクトアウトで重要なのは、次々とプロトタイプをリリースし、リアルタイムで改善するスピード感です。技術力だけでなく、自らの経験やナレッジを持って複合的・多面的に考えられるナレッジワーカーの存在が必要になります。
ナレッジワーカー注目される理由②越境人材の必要性
AmazonがECを軸に、動画配信(Amazonプライム)、音楽(Amazon Music)、IT(AWS)と業界を次々と越境したように、今多くの企業でこの「業界の越境」が始まっています。業界を飛び越え、新たなナレッジやノウハウを吸収し、自社に反映・活用できる人材が求められます。
ナレッジワーカー注目される理由③明確な課題・答えがない
車が発明され、テレビが発明され、インターネットが発明され、豊かになり、誰もが明快に理解できる課題はなくなりました。ユーザーは常に情報の波に埋もれ、自分の課題も分からない・見つけられない状態にいます。このような時代だからこそ、専門的な知見やノウハウを持ったナレッジワーカーが必要とされます。
ナレッジワーカーの種類|該当する仕事・職種について
ナレッジワーカーを、具体的な仕事・職種に表すと…
- コンサルタント
- アナリスト
- 専門医
- エンジニア
など、何か専門のスキル・ナレッジを有しており、かつマニュアル化できない職種や仕事はナレッジワーカーに該当します。また、2016年にアメリカのメディア「The Cheat Sheet」の「10 New Jobs People Will Have by the Year 2030」という記事では、将来生まれると予測されている仕事について、以下のように書かれています。
- ボットロビイスト(Botlobbiest)
- 未来通貨投機家(Future currency speculator)
- 生産カウンセラー(Productivity counselors)
- 微生物バランサー(Microbial balancer)
- ミーム・エージェント(Meme agent)
- ビッグデータ・ドクター(Big data doctor)
- クラウドファウンディング・スペシャリスト(Crowdfunding specialist)
- 未来の仕事スペシャリスト/リクルーター(Jobs of the future specialist/recruiter)
- 組織改革家/企業変革家(Disorganizer/corporate disruptor)
- プライバシー・コンサルタント(Privacy consultant)
<参照:10 New Jobs People Will Have by the Year 2030>
これらは、全てが専門的なナレッジを使った仕事で、単純労働のものは一つもありません。単純労働はITに委譲し、より高次的な知識を活用する仕事が新たに増えるでしょう。
変わりつつあるナレッジワーカーの役割とスキル
ナレッジワーカーは、もともと自らの専門的知識や経験則に基づき、課題を解決する役割でした。しかし、時代が進むにつれ利便性は増し、答えのある課題は減っています。例えば、昔なら「遠くの人と会話したい」という課題に対し、「電話機を発明する」「糸電話を作る」という解決法で済みました。しかし、世界中の人とやりとりができている今、「多様な価値観を持つ人とどうコミュニケーションをとるか」「ネットリンチをなくすにはどうすればいいか」といった、より深く複雑で正解のない課題が増えています。
つまり、ナレッジワーカーに求められている役割は「正しい問いの設定」です。答えがない中でも、自らのナレッジを元に問いを設定し、それに向けて課題解決していく。言い方を変えれば、課題を自ら作り出し(引き出し)、解決することと言えます。
そのためには、「新しいナレッジの吸収」も必要です。激動の時代において、新しいナレッジを吸収しないことには、現状の正確な課題分析や把握はできません。常に、ビジネス環境における課題はなにか、トレンドはなにか、これを常に注視し続けられる好奇心が大切です。
ナレッジワーカーがもたらす新しい働き方とは
業界を越境する働き方
インターネットの発展により、業界を越境する動きが増えてきつつあります。ナレッジワーカーにおいて最も重要なのは知見で、異業種の人と交流することは非常に重要です。業界にとらわれず、さまざまな人と交流する働き方が大切です。
契約形態にとらわれない働き方
ナレッジワーカーにおいて、複業禁止、リモート禁止など制約のかかる働き方は、パフォーマンスを下げます。業務委託など柔軟性の高い契約を交わし、のびのびと社内外の情報を吸収することで、多角的・複合的な視点が養われます。
▶︎▶︎複業に関してはこちらの記事を参考に
▶︎▶︎リモートワーク に関してはこちらの記事を参考に
場所・時間にとらわれない働き方
ナレッジワーカーは、単純労働でもなく、明確な課題解決を求められる役割でもありません。暗中模索の中で、自らの知見で問いを設定し、解決策を考えます。その中では、無駄とも思える旅や遊びからなにか大きなヒントが得られるかもしれません。仕事と遊びの境界線をなくし、自由に過ごすことがナレッジワーカーの知見の源泉になりえます。
関連記事:フルフレックス(フルフレックスタイム制)とは|メリットとデメリットについて
まとめ|自分にしかできない価値を生み出そう
ナレッジワーカーは、専門家でありつつ、他の業界のエッセンスを参考に、新たな価値を作る、今の時代にマッチした働き方です。企業に新しい風を吹かせるナレッジワーカーという働き方を、実践してみてはいかがでしょうか?
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等