組織活性や人材開発において、常に頭を悩ますのが「やりがいをどう作るか」。
AIやロボットの活用が当たり前になる未来では、単純労働は代替され、よりクリエイティブな力が求められていくでしょう。そのためには、各人のやりがいをどう引き出すかがカギとなります。

 

そこで注目されているのがジョブクラフティングです。ジョブクラフティングとは、主体的に仕事の意味を見出し、仕事をやりがいのあるものへと再定義する手法です。本記事では、ジョブクラフティングの概要やメリット、導入方法などについて解説します。

 

ジョブクラフティングの意味とは?

ジョブクラフティングは、2001年イェール大学の准教授エイミー・レズネスキー氏とミシガン大学教授のジェーン・E・ダットン氏によって提唱されました。仕事を意味する「Job」と、手作業で作る「Craft」を合わせた造語で、主体的に仕事の意味を見出し、仕事をやりがいのあるものへと再定義していく手法のことを言います。

ジョブクラフティングとジョブデザインの違い

ジョブデザインは、経営者が仕事や業務を割り当てて、従業員のやりがいを引き出す手法を指します。あくまで経営方針の一環であり、そこに従業員の意図は存在しません。その一方で、ジョブクラフティングは従業員が仕事のやりがいや意味を見出し、主体的に仕事を構築していく方法で少し意味合いが異なります。

ジョブクラフティングが注目されている理由

ジョブクラフティングという手法が、なぜ注目されるようになったのでしょうか?その大きな理由がリモートワークの普及です。リモートワークは、どこにいても働けるという点において大きなメリットがありますが、従業員同士のコミュニケーションは希薄になっています。特に入社したての若手社員は気軽に上司やメンターに相談できなくなり、より自律的な働き方が求められるようになりました。

関連記事:リモートワークとは|新しい働き方のメリットと潜む問題点について

 

コロナは終息に向かいつつありますが、一度普及したリモートワークが元に戻ることはなく現状維持の形で、このままリモートワークを採用する会社も多いでしょう。

 

やはり、リモートワークで場所の制約がなくなると、少なからず帰属意識や一体感は薄れるため、組織に対する遠心力が働いてしまいます。会社としては、リモートワーク下でどう仕事のやりがいを醸成するかがカギとなります。

 

ジョブクラフティングなどの手段を使うことで、従業員自ら仕事に対するやりがいや意識を問い直し、仕事をやりがいのあるものに変えていく取り組みが重要になるのです。

ジョブクラフティングのメリット

ジョブクラフティングを実施すると、以下のようなメリットを得ることができます。

主体性が身に付く

仕事の意味や意義を捉えなおす過程で、主体性が育まれます。したがって、上層部から降りてきた目標や目的に向かって機械的に動くのではなく、自らその目標や目的の意義や意味を考え、動いていけるようになります。

モチベーションの向上

ジョブクラフティングとは、いわば内発的動機付けの手段の1つです。一般的に、昇給や昇進、休暇といった外発的動機付けの効果は一時的なものであり、中長期的な人材開発にはつながらないとされています。外発的動機付けだけでなく、同時に内発的動機付けもあわせて実施することで、長く、そして自発的に従業員のモチベーションを高く保つことができます。

 

参考記事:トータルリワード|金銭的報酬と非金銭的報酬を組み合わせて、従業員のモチベーションを底上げ!

生産性アップ

ジョブクラフティングを通して、仕事の意味を再定義できているため、たとえ困難やトラブルに見舞われたとしても、それをやりがいととらえて乗り越えていくことができます。やりがいを感じている従業員が増えれば、円滑に回るようになり、結果として組織全体の生産性の改善につながります。

ジョブクラフティングのデメリット・注意点

ジョブクラフティングを取り入れる際には、下記のデメリット・注意点を意識しましょう。

やりがい搾取にならないように注意

ジョブクラフティングは、あくまで従業員のやりがいを引き出す手法です。そのやりがいを悪用し、正当な給与や報酬を支払わないとなると、それは「やりがい搾取」にあたります。

押し付けや強制は厳禁

ジョブクラフティングは、従業員の自主性を尊重するものです。会社側が一方的に仕事や業務を割り当ててしまうと、それは押し付けとなり、ジョブクラフティングは成立しません。

ジョブクラフティングの尺度・測定方法

ジョブクラフティングを測定する方法としては、京都大学の教授、関口 倫紀氏らがエイミー・レズネスキー氏とジェーン・E・ダットン氏の概念に基づいて開発した「ジョブクラフティング尺度」を参考にすると良いでしょう。

 

「タスククラフティング」「認知クラフティング」「人間関係クラフティング」の3つのカテゴリに分類され、全部で9つの項目があります。9つの項目に回答するだけなので、簡易的なジョブクラフティングの適性検査にも活用できます。

 

タスククラフティング

1.仕事をしやすくするために必要な作業を追加したり不必要な作業を減らしたりする
2.必要と感じれば新たな作業を自分の仕事に加える
3.仕事の中身や作業手順を自分が望ましいと思うように変更する

 

関係クラフティング

4.仕事を通じて積極的に人と関わる
5.仕事を通じて関わる人の数を増やしていく
6.仕事で関係する人々の状況を把握し、相手の便宜をはかる

 

認知的クラフティング
7.自分の担当する仕事を見つめ直すことによって、やりがいのある仕事に見立てる
8.自分の担当する仕事を単なる作業の集まりではなく、全体として意味のあるものだと考える
9.自分の担当する仕事の目的がより社会的に意義のあるものであると捉えなおす

 

引用:ジョブ・クラフティング尺度|HRM STUDY

ジョブクラフティングを実践する方法・やり方

最後に、ジョブクラフティングを実践する方法・やり方について解説します。基本的には、人事と現場の上長やメンターが連携し、研修や1on1などの機会を通して推進するのが一般的です。

心理的安全性の確保

ジョブクラフティングでは、従業員がのびのびと主体性を発揮できる環境が必要不可欠です。厳しいノルマが課されていたり、組織内の関係性が悪く気軽に意見交換できなかったりすると、ジョブクラフティングを実施してもうまくいきません。まずは、心理的安全性の確保に努めましょう。

関連記事:心理的安全性の作り方と高める方法について【グーグルも実践】

業務の洗い出しと整理

次に、業務の洗い出しと整理を行います。洗い出しと整理ができたら、現段階でどのくらいジョブクラフティングができているか、簡単なメモ書きや表で良いので、まとめてもらいましょう。

弱み・強みの把握

ジョブクラフティングをするには、まず何より従業員自身が強み・弱みを把握していることが重要です。SWOT分析などのフレームワークを使い、自身の強み・弱みの分析をしてもらいます。

計画を立てる

最後に、ジョブクラフティングを進めるための計画を立ててもらいます。ポイントとしては、各業務において下記の3点を必ず記載することです。

 

  • 仕事のやり方(HowTo)
  • 周囲との関係
  • 仕事への捉え方

 

なお、実行率を高めるため、5W1Hなどの切り口を使い、具体的に落とし込みましょう。

まとめ

ジョブクラフティングは社員の自主性を育む施策ですが、組織の意向が強すぎるがゆえに、やりがい搾取になったり、反対に任せっぱなしでジョブクラフティングの取り組みが形骸化したりする恐れもあります。本日のポイントを参考に、入念に計画をしてから実施するようにしましょう。