パラレルキャリアという新しい働き方が浸透しているものの、趣味のように始める気軽さが持てず、なかなか一歩を踏み出せないという人も多いはず。

今回は、大手IT企業に勤務しながらも、さまざまな組織で二足のわらじならぬ、三足、四足のわらじでパラレルキャリアを実践する高島さんに、始める上での心構え、両立や継続のコツについて聞いてみました。

タカシマさん

「人生をかけてやり遂げたいものは?」という問いに、悩んでも答えが出なかったんです。

ーー学生時代から、社会人になってパラレルキャリアを始めるまでのヒストリーを教えてください。

大学時代は、バンドサークルに所属し音楽に熱中していました。特にプロを目指していたわけではないですが、楽しかったので一生懸命やっていました。学生の頃は、本当に何も考えていなくて、卒業したら就職するものと思い込んでいました。その後、大手IT企業に入社し、技術営業職に就きました。部署異動等ありましたが、今も新卒の頃に入社した会社で働いています。

ーー大手企業に入社し、そのまま同じ会社でキャリアを積み……と、順風満帆そうに思えますが、どのタイミングでキャリアを考えなおすことになったのでしょう?

自分が担当しているもっとも大きい事業が、違う事業部に引き継がれることになり、少し余力ができました。そのタイミングで「新規事業を創出する」というミッションが与えられまして。今まで新しい事業を考えたことなんてなかったので、まずは社外で開催されている無料の新規事業に関するセミナーに行くことにしました。

ーーセミナーを受けてみてどんな印象でしたか?

サラリーマンは、「今までこういうことをしてきたから、〇〇ができます」という役割思考ですけど、起業家って、できるできないに関わらず「やりたいことベース」じゃないですか。この思考の違いを知ったとき、衝撃でした。

このあと、起業家のマインドをワークで実践する時間もあって、そのときに「人生をかけてやり遂げたいものは?」という問いに、悩んでも答えが出なかったんです。苦しまぎれに「早く家に帰ってバンドをすることです」といってしまう始末で(笑)スーパーサイヤ人並の戦闘力を持った起業家たちの前では、今の自分ではとても新規事業なんて作れない、と感じました。

とはいえそこで出てきた「早く家に帰りたい」とう気持ちを一段深堀りしてみようと、認定NPO法人フローレンス代表、駒崎弘樹さんの「働き方革命」を読んだところ、駒崎さんのような社会起業家に興味を持つようになりました。そんなときに、株式会社cotreeが運営している「takk!(タック)」というスキルシェアサービスで、フローレンスの担当者に会うことができて。そこで、いろいろ話をしていたら、今私が関わっている「さきちゃんち」を紹介してくれました。

ーーそれがきっかけで関わるように?

そうですね。社会課題に興味がある人はどんな考え方を持っているのか気になって。まず「さきちゃんち」で開催される中村果南子さん主催の「市民上映会」に行ってみたんです。立派なスクリーンがあって、本格的な会場でやるのかなとイメージしていたのですが、まず主催者が遅刻してまして(笑)

市民上映会の様子。ファシリテーションを行う主催者の中村果南子さん。アットホームな空間で、映画を見た後に参加者同士で「対話」ができる時間がある。

ーーそれは拍子抜けですね(笑)

良い意味で雰囲気がとてもゆるくて、衝撃を受けました。なんなら自分が気づいたらプロジェクターを設置していたりしてて。イベントが終わったあと、主催者の果南子さんと話してみたら、自分とは違う考えを持っているし、頭の回転も速いし。年下ながらとても尊敬しています。

時間通りに到着し、滞りなく準備を行う。こういった当たり前のことが抜けているけど、とんでもない能力を持っているなと気づいて。もし、ここに自分が参加しサポートできればもっと面白いことになるなと思って、活動に関わってみることにしました。

ーーnoteの自己紹介でも拝見していますが、改めてパラレルキャリアの活動について簡単に教えてください。

まず趣味でやっているのが、バンドとキックボクシングですね。FOC(エフオーシー)というキックボクシングサークルも運営していて、そこでは副代表をしています。

パラレルキャリアの部分はすべて無償で関わっております(いわゆるプロボノ)。まず「さきちゃんち」ですね。「さきちゃんち」は、文京区にある子どもやその家族のためのコミュニティスペースで土日を中心にボランティアスタッフをしています。

ボランティアや地域活動って、ゴミ拾いや災害ボランティアのイメージが強かったのですが、「さきちゃんち」の活動を通して、そういったイメージは払拭されました。

認定NPO法人PIECES(ピーシーズ)では、「おしりたたき虫」という役職で活動していまして、これはのちほど説明します(笑)

他にも、先の「takk!」をきっかけに出会った株式会社cotreeのアンバサダーとしてcotreeのイベントやサービスを広めるお手伝いや、産業カウンセラー資格を活かした個人向けカウンセリング/コーチングの実施など。いろいろやりすぎて、よく「何やっている人?」って聞かれることが多いですね。

ーーものすごい活動的ですね……!話を聞いていると、フットワークが軽いなという印象をうけるのですが、なぜ、そこまで知らないところに踏み出せるのでしょう?

自分に確固たるものがなかったからでしょうね。良くも悪くもこだわりがあまりないんだと思います。だからこそ、その道を突き詰めている一流の人に憧れがあるのかなと。自分にないものを持っている人が基本おもしろいんです。同質的な人だとあきてしまうのかもしれません。

パラレルキャリア両立のコツは、いかに考え抜き「やらない」と決断できるか。極論ですが、仕事の大半は自分がやらなくてもいいことだと思うんです。

ーーパラレルキャリアを始めて変わったことはありますか?

自分の内面と向き合う時間が増えたことかな。株式会社cotree代表の櫻本真理さんのご好意もあって、オンラインカウンセリングサービスの「cotree」に関わり、初めてカウンセリングというものに出会いました。最初は自分と全く関係のないものと実はあまり興味がなかったのですが、勉強するうちに、これは会社員も学んだ方がよいと気づいて、自費で産業カウンセラー養成講座に通い、資格を取得しました。

ーー自分の内面と向き合うことってほんとうに大切ですよね。パラレルキャリアをして感じたメリット・デメリットはありますか?

本業で得たスキルをパラレルキャリアに活用でき、そしてパラレルキャリアで得たスキルをまた本業に活かせて、好循環を回せていることがメリットですね。起業家的な視点でものごとを見れるようになって、「そもそも」を問いなおすようになりましたが、いきすぎると、その考え方が「変なこだわり」となって衝突してしまうことがデメリットかもしれません。良い意味で自分の信念ができたから、そこをうまく抑えつつも自分らしさを発揮できるようコントロールしていくことが今後の課題ですね。

ーーなるほど、それは意外なデメリットですね。パラレルキャリアのあるあるで「時間が足りない」という課題がありますが、そちらはいかがですか?

朝は普通に出社して、仕事が多くなければ定時に帰ってパラレルキャリアの活動、就寝は23時、0時くらい、起床時間は6時、7時くらいですね。だから、意外とそこまで「時間が足りない」って感覚はないかな。

ーーもっとハードスケジュールで、睡眠4時間くらいなのかと……!

よくいわれるんです。しっかり寝ているし、なんなら家で本を読んだりゲームしたりもしますから(笑)もともと活動的な方なので、あまりストレスを感じることはないですね。そのかわり、残業しないよう「どうやって時間を減らしても成果を出せるか」を徹底的に考えていますね。だから、「この仕事はそもそも必要ですか?」という提案もしますよ。衝突もありますが、そこは仕事において大切なことだと思っています。

ーー裏を返せば、これだけたくさんのことをしていても、仕事のやり方次第で両立できると?

在籍年数が長くなり経験値が増えてきたからというのはありますけどね。慣れと経験値があるから、今こうやってコントロールできていると思いますし。極論ですが、仕事の大半は自分がやらなくてもいいことだと思うんです。もちろん仕事を放棄するわけではなく、別の解決方法を提案してみたり、適切に委譲したり。いかに考え抜き、素早く意思決定できるかが大切です。

ーー確かに、忘れがちですが「急いで片付けている仕事は、本当に今日じゃなきゃダメなのか」という問いかけは本質的な問いですよね。とはいえ、さまざまなことをしていると、時間やタスクの管理は必要になりませんか?

やったほうがいいよなと思いつつ、具体的には特にやってないですね。気分屋だから、そのときに楽しいと思うことをやっているって感じかな。自分が関わっている認定NPO法人PIECES(ピーシーズ)では代表の小澤いぶきさんも公認の「おしりたたき虫」という役職をいただき、「もうすぐ納期ですよ」とお尻を叩くだけの役目をしています(笑)ささいなことですが、それなりに重宝されています。

ーーツールを使わず、時間管理ってすごい……!それは得意領域なんじゃないですか?

そうですね。社外活動をするようになってから、よくいわれるようになりました。でも会社員で、時間や期限を守ることが得意な人は多いと思うんです。それこそ会社員だと、まんべんなくできる「ジェネラリストタイプ」って多いと思うんですが、一つ突き抜けた「スペシャリスト」タイプは少なくて。だから、社外に出て、「ぶっとんだ人」と一緒に活動することで、本業にそのマインドを持ちかえっていますね。

PIECES(ピーシーズ)活動中の様子。「まきば」と呼ばれるPIECESに関わるプロボノメンバー含めたチームで、様々な専門性を持つメンバーがゆるやかに繋がりつつプロジェクトを遂行する。

パラレルキャリアは「学びの場」。間近でサービスをつくる現場を見られる貴重な経験。

ーーパラレルキャリアやプロボノを始めようとすると、ついお金をやりがいにしてしまう人も多いと思います。高島さんはどこにやりがいを見出していますか?

お金をもらわず、しかもたまにお金を使って参加するって、確かに自分でも「なぜだろう?」と思うときがあります。改めて整理して考えてみると、おそらくパラレルキャリアやプロボノで得られる経験は「無形資産」なんだなと思って。スキルアップ、人とのつながり、マインドの変革とか、それをお金や時間を使って学びにいっている感覚ですね。例えば資金調達してサービスをつくる現場を間近で見られる、これは貴重な経験ですよね。

あと、本業があってそこまでお金に困っていないのが大きいですね。本業がなければ、たぶんパラレルキャリアでもお金前提で動くのが当然だと思います。副業としてのアルバイトもいいですが、もっと本業にも活かせるような実践的な経験をしたいですね。といいつつも、最終的に自分の活動に価値を感じてくれて、お金をいただけるならうれしいですけどね(笑)

ーー社外の活動って、主体的に動かなければなにも起こらず、ただ所属するだけになると思うのですが、自分の役割はどのようにして見つけていますか?

基本的に他の人と比べて「これをしたくない」というこだわりがあまりないんですよね。余った役割を自分が巻き取ることが多くて。人がやりたがらないものをキャッチアップするという方法で役割を見つけています。

今までの活動の「点」を「線」にしていきたい

ーー高島さんの今後の展望について教えてください。

今までパラレルで動いていたものを融合させて、ゆるやかなつながりをつくっていきたいです。例えば、私はバンドをやっていますが、ライブバーでプレゼン大会をして、NPOや心理系の人にバンドマンと交流してもらったり、キックボクシングサークルに別の界隈の人を呼んだり。これだけネットが普及していても、基本的には興味がある人にしかリーチできないじゃないですか。だから、その壁を取っ払って、分断をなくしていければ面白いなと思って。

コラボイベントの様子① ライブバーで開催した「今年1年頑張った人を褒める会」

コラボイベントの様子② キックボクシングサークルFOCで開催した、初心者向けキックボクシング体験会

ーー最後に!パラレルキャリアを目指す人にメッセージをお願いします。

最初は「好きなこと」から関わればいいんじゃないかなと。難しく考えずに、趣味の延長みたいな感じで、まずはやってみたらいいと思います。

続けられないと悩む人もいますが、継続できないのはそれが「本当にやりたいことではなかった」ということ。それがわかっただけでも収穫です。それよりも大切なのは、自分の内面と向きあって、ビジョンの解像度を高めることです。とはいえ、一人で自分の内面と向き合うのはなかなか難しいと思うので、このあたりを悩む方向けに、個人向けカウンセリングやコーチングもこれから広く実施したいと考えています。少しでも気になる方はぜひご連絡ください。

また、今ちょうどおためしで「みんなをやりたい!を実現する会」をサロン形式でつくってみました。最初は、パラレルキャリアを始めるためになにをすればいいかわからない人が多いと思うので、まずはこちらのサロンに入って色々と経験してみてもらればと(笑)