テレワークで人とのコミュニケーションが希薄になっている昨今、ストレスを抱える人も多いのでは?怒りは自分のストレスを発散する、人間がもつ防衛本能の一つですが、使い方を間違えれば、パワハラやモラハラと誤解されて、信頼を失いかねません。本日は怒りを制御し、うまく付き合うための手法、アンガーマネジメントについてご紹介します。
目次
アンガーマネジメントの意味とは
アンガーマネージメントは、怒りと上手に付き合い、適切な問題解決やコミュニケーションを図る方法スキルを指します。認知行動療法をベースとして、1970年ごろにアメリカで開発されました。その後、2011年に発生した世界同時多発テロによる社会不安によって、一気にアンガーマネジメントが普及しました。日本では、2011年にアンガーマネジメントの世界最大組織である「ナショナルアンガーマネジメント協会」の日本支部が設立され、徐々にメディアでも認知され始めています。
よく誤解されがちですが、アンガーマネジメントの目的は「怒らないようにする」ためではありません。怒りは、人間を含め動物が本来もつ防衛本能であるため、決して悪い感情ではないのです。大切なのは、怒りに振り回されることなくコントロールできることです
アンガーマネジメントが求められる背景
アンガーマネージメントが注目されている背景には、価値観の多様化とハラスメント防止対策強化の2点が挙げられます。
少子高齢化による労働力不足が深刻な問題として叫ばれています。そのなかで、長期的に重要になってくるのは、病気、介護や出産などの理由により働けない人材や、グローバル人材やシニア世代の活用です。多様な人材がお互いを許容し、共存するためには、個々が負の感情をコントロールでき、衝突しないような意識・マインドをもつことが重要になります。
株式会社ネオマーケティングの調査では、「パワーハラスメントに該当するような行為を受けた経験はありますか?」という質問に対し、42%が「ある」と回答しています。また、「どのような内容か」という質問に対しては、「精神的な攻撃」が圧倒的に多く73.8%、次に「過大な要求」が35.8%となりました。
参照:経験率は驚きの4割以上!パワーハラスメントに関する調査
年々、ハラスメントの定義は多様化し、モラハラ、アルハラ、マタハラなどさまざまな言葉が誕生しています。たとえ、恫喝や暴力といったわかりやすい言動でなくても、無自覚におこなっているささいな行動がハラスメントにつながるケースもあります。十分注意して行動する必要があるでしょう。
関連記事:リモハラ(リモートハラスメント)とは|事例や定義と対策について
怒りの構造
アンガーマネージメントの話をする前に、今一度、人が怒るメカニズムについて解説します。怒りという感情は、著名な心理学者であるアルフレッド・アドラーが提唱した、「第一次感情」と「第二次感情」で説明できます。
第一次感情とは、失望、恐怖、嫉妬、虚しさ、自己嫌悪といったネガティブな感情です。この感情は生活のなかで日々蓄積されていき、なにかの出来事をきっかけに怒りという第二次感情が発動します。特にわかりやすい感情が「失望」です。自分の期待通りにいかなくて、つい強く当たってしまった……。誰しもがこんな経験をしたことがあるかもしれません。
多くの場合、人は第一次感情を意識しておらず、怒るきっかけになった出来事にたいしての言動や行動だと思いこんでいます。アドラーの名著、「嫌われる勇気」にも「怒りは外的要因で怒るのではなく、怒りたいから怒る」とあるように、怒りは自らの意思で無意識に選択をしています。
怒りの裏に潜む、失望、恐怖、嫉妬、虚しさ、自己嫌悪といった感情を理解しない限りは、抜本的な解決はのぞめません。
怒りの感情は損でしかない?3つのデメリット
怒りに身を任せて行動をすると、具体的にどのようなデメリットがあるのでしょうか。
信頼関係を壊す
部下の失敗を叱責する、上司の方針に納得できずに猛抗議する、相手側に非があることもありますが、大切なのは問題解決であって、感情をぶつけることではありません。相手が気分を害せば、信頼を失い、最悪の場合は解雇やクレームなどのトラブルに発展することもあります。また、役職があったり、大きな権限を持っていたりする人が、強い口調で叱責するとパワハラとなり、さらに大きなトラブルに発展するリスクがあります。
エネルギーの消耗
怒りは、多大なエネルギーを消費します。ある心理学の臨床実験では、1時間怒り続けると残業を6時間に匹敵するほどのエネルギーを消耗することが報告されています。怒りが収まるまでは、仕事に集中もできないし、怒りが鎮まってもすでに消耗しきっていて、とうに仕事をする気力はなくなっています。
業務効率の低下を招く
怒ると、著しく自身のエネルギーを消耗するだけでなく、周りのモチベーションややる気を低下させたり、社内の雰囲気が悪くなったりして、全体の業務効率が低下します。怒りの言動に耐えられず、離職する従業員も出てくるでしょう。
ジョージタウン大学の教授であるクリスティーン・ポラス氏の研究によれば、直接、暴言を吐かれた人は、処理能力が61%、創造性が58%下がり、自分の所属しているグループに対して暴言を吐かれた人は、処理能力が33%、創造性が39%下がる結果が出ています。
また、他人が暴言を吐かれるのを目撃した人でも、処理能力が25%、創造性が45%下がるといわれているように、怒りの感情が及ぼす影響範囲は広く、まさに百害あって一利なしといえるでしょう。
アンガーマネジメント実践をすると得られる効果・メリット
アンガーマネジメントを実践すると、以下のような効果・メリットが得られます。
- 人間関係のトラブルが減る
- 多様性に寛容になる
- 業務効率が上がる
- 建設的なコミュニケーションが生まれる
怒りの裏側になる「期待はずれだったな」という失望の感情、または「暇なのに忙しそうにするな」という自身の内側にある嫉妬の感情を理解することで、怒りの感情をだすことなく、自分の気持ちや思いを相手に伝えることができます。対人関係が良好になるだけでなく、周囲に与える印象も変わり、社内全体の雰囲気も明るくなります。
アンガーマネジメントで怒りを抑えるテクニック・やり方
最後に、アンガーマネジメントの方法について解説いたします。ポイントは大きく以下の5つになります。
6秒間数える
アンガーマネジメントですぐに実践できるのがこの方法です。怒りのピークは6秒間と言われています。この6秒間に耐えることで、怒りにまかせた言動を抑えられて、大きなトラブルを回避できます。ただし、この方法を何度も使っているとストレスがたまり、効果が薄れてきます。他の方法とあわせて実践しましょう。
自分と他人の課題を分離する
頻繁に怒りの感情が出る人は、自分が解決すべきではない課題にも頭を悩ましている可能性があります。たとえば、善意で仕事を手伝う意思は自分自身ですが、それに対して感謝をするかは相手の課題です。「せっかく手伝ったのに感謝の言葉が少ない」と感じ、腹が立ってしまうのは、自分と他人の課題を混同しているからです。自分がコントロールできないことに介入しないようにするだけで怒りのポイントが大きく減少します。
関連記事:マインドフルネスで働き方改革|従業員のストレスを軽減し創造力を高めるプロセス
紙に書き出して、怒りの内容を可視化する
なにに怒っているのか、過去の出来事を振り返って書き出すと、自分の許容範囲が見えてきます。また、可視化することで「なぜこんなくだらないことでイライラしているのだろう」と冷静になるきっかけも作れます。
許容範囲とは、自分のなかにある”べき論”です。前述したように、自分と他人の課題は別物です。他人の課題にこだわらず、自分の気持ち、自分がどうしたいかを突き詰めて考えることで、許容範囲は自ずと広がります。
アサーションを行う
「相手が遅刻をしたのに謝罪をして来なかった」など、向こう側に非がある場合、怒りを抑え込むのが難しいこともあります。上3つを実践し、ある程度アンガーマネジメントができるようになったら、アサーションを意識し、自分の意見を適切に表明しましょう。
アサーションとは、相手の立場を尊重しながら自分の気持ちや感情を表現する方法です。特に、相手に指摘をしたり、誘いを断ったりするときなど、少し言葉がきつくなる場面で有効に働きます。
まとめ
怒りという感情は悪いものではありません。否定してしまうと、ひたすら怒りを抑え込むだけになって、解決に進みません。怒りの根本にある感情や考えを明確化し、変えられる部分は変えること、そして、他人の課題に介入しないことで、怒りのポイントを減らせます。ぜひ本日ご紹介した方法を参考にしてみてください。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等