キャリアラダーとは、英語の「キャリア(職業)」と「ラダー(はしご)」を組み合わせた造語で「キャリアアップのためのはしご」という意味です。従業員がはしごを登るように着実にキャリアアップできるよう整備した人事制度や能力開発の機会・仕組みを指しています。本日は、このキャリアラダーについて解説します。
キャリアラダーとは?
1980年頃アメリカでは新自由主義が台頭し、中流階級が空洞化した結果、富裕層と貧困層に二極化しました。高賃金を得られる層が少数のいわゆる「ガビョウ型」の労働市場に直面したアメリカでは、中間層がスキルやノウハウを持ち労働者全体が上昇していくような仕組みを作ることが喫緊の課題でした。
特に流通、飲食、小売業界における非正規雇用は、将来性のない職を意味する「デッドエンドジョブ」と称され、低賃金労働から抜け出せずに、短期的な離職を繰り返すことが問題視されていました。
キャリアラダーは、学歴の壁から正規雇用をあきらめた人や、デッドエンドジョブについたことで悪循環に陥って正規雇用につけずに苦しんでいる人にキャリアの道筋を示し、正規雇用のチャンスを平等に与えるものです。 ただし、キャリアラダーはどの職種・業界でも当てはまる「特効薬」ではありません。また、キャリアラダーを組織の中に形成するのも容易ではなく、組織全体で連携しながら取り組む必要があります。
キャリアラダーとキャリアパスの違い
キャリアパスは、直訳すると「Path(道)」となり、その組織の人事制度の中でどのように職位や職務を昇格していくか、そのために必要な経験やスキルをまとめた道筋を指します。
それに対し、キャリアラダーは総合職よりは理学療法士、保健師、介護、保育、リハビリテーションなど専門職で用いられます。ただ実際は、企業や病院によってキャリアラダー、キャリアパスの定義が異なるため、それぞれの組織の独自の管理体制のもとに設計されています。
キャリアラダーの目的やメリット
キャリアラダーの目的やメリットは?それは大きく以下の3つに集約されます。
将来の自己のキャリアイメージや目標を明確にできる
組織の中で自分の現在の職位や階級から、どのようにキャリアアップしていくのかが明確に分かり、よりキャリアアップのためのモチベーションが向上します。
スキルの過不足を発見できる
キャリアラダーでは、職位ごとに求められる能力や技能がリストアップ・可視化されています。そのため、今自分が足りているスキルや足りていないスキルを認知できます。
客観的な評価が可能になる
上記したように、必要なスキル・能力が明確化されているため、どうすれば次の階級に上がれるか、具体的な個人の課題が見えるため、非常に透明性の高い評価基準となります。正規雇用・非正規雇用問わず、平等にキャリアアップのチャンスが与えられ、潜在的な従業員の能力やスキルを引き出すことができます。
キャリアラダーが介護/医療業界で広まった背景
まだビジネスシーンで注目されるよりも前から、介護業界・医療業界では積極的にキャリアラダーを導入されていました。なぜ介護業界・医療業界でキャリアラダーが必要だったのでしょうか?
人口構造の変化
ここ数十年の間、介護・医療業界では慢性的な人手不足に陥っています。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査では、2030年までに人口は1億1600万人まで減少し、またその1/3近くが65歳以上を占めるといわれています。高齢者率が全体の7%を超えると「高齢化社会」、14%以上を「高齢社会」、日本は2030年の時点では33%超の「超高齢化社会」に突入します。高齢者が増えれば、労働人口も減少するばかりでなく医療を受ける人口を増加し、人手が不足します。人手不足の状況下では、各々の看護師が自分の役割を理解し、意思決定できることが重要です。
参照:国内人口推移が、2030年の「働く」にどのような影響を及ぼすか|株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「組織行動研究所」
急速な社会環境の変化
グローバル化、ITによる技術革新により、ここ数十年でパラダイムシフトが起こっています。多様な働き方、価値観、ライフスタイル、常に変化する世界の流れにフレキシブルに対応する力が求められます。例えば、多言語化、LGBTへの配慮、コロナウィルスなど未知の疫病への対処など、想像もしていない課題に、模索しながら改善していく姿勢が従業員にも組織にも求められます。
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キャリアラダーの導入方法
キャリアラダーは、従業員のキャリアアップの道筋を立てるサポートの方法にも、そして能力開発を大きくサポートできる仕組みでもあります。導入方法について詳しくみていきましょう。
キャリアの階層化
例えば、病院であれば新人看護師、初級看護師、チームリーダー、教育担当者のように、細かく階層化します。階層が大きすぎると、中長期的な目標が立てにくくなり従業員のモチベーション低下につながります。隔たりがあまり大きくならないよう、細やかな階層構造を作りましょう。
ステップアップのための研修
階層構造にしただけでは、キャリアラダーは仕組みとして機能しません。職位ごとの研修は目指すキャリアと現状のギャップまたは課題を整理する機会として、またより上の職位をめざすモチベーションを高める場として非常に有効です。医療現場では、院内研修のほかに院外研修や海外研修を実施するケースが多く見られます。
教育に携わる人材の確保
キャリアラダーでは、職位別に階層構造にすることはもちろん、教育支援体制の強化が重要です。特に、人数の少ない中小企業・零細企業では教育に携わる人材を確保することが困難なケースが多いです。以前から導入が進んでいる医療業界では、公益社団法人日本看護協会が開発した「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」があります。このガイドラインを活用することで、今まで各施設ごとに作成していたためにキャリアラダーのレベルや基準にばらつきがあったものを、人材不足の病院でも一定水準の教育体制を保つことができます。
キャリアラダーが活用されている事例
最後に、医療現場以外でキャリアラダーを採用している企業事例をいくつかご紹介します。
株式会社メルカリ
メルカリは、創業してから7年の間に急成長を遂げました。2016年7月で376人だった従業員 数は、上場した2018年6月に1140人、そして同年10月期には1639人となっています。規模が大きくなり、会社のバリューである「Go Bold」「All for One」「Be Professional」の解釈も多様化してきたため、まずはエンジニア組織におけるキャリアラダーを構築しました。カルチャーの明文化を進めています。
株式会社GAP
GAPは、キャリアラダーを早くから導入した先駆的企業といわれています。もともと新卒採用で正社員の店舗スタッフを雇用していましたが、半数が2年以内に退職していました。そこで、店舗においては正社員採用を行わず「セールスアソシエイト」と呼ばれる非正規雇用からスタート、エリアマネージャーにステップアップするためのキャリアラダーを構築したことで、今まで以上に非正規雇用の獲得・正規雇用への戦力化に成功しています。
まとめ
キャリアラダーを導入することで、従業員はキャリアの道筋が明確に描けて、スキルアップや組織貢献のモチベーションが向上します。キャリアラダーの考え方を下地に、自社の人事制度や評価制度に採用してみては?
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等