リカレント教育は、一生涯にわたって教育と就労のサイクルを繰り返す学習制度のことで、北欧諸国から始まりました。日本でも人生100年を見据えた人生設計のあり方が求められており、リカレント教育というものに注目が集まっています。

リカレント教育とは?

リカレントは英語で循環・繰り返しを意味する言葉です。つまり、リカレント教育とは義務教育を終えたあとに、就労と教育を交互に繰り返す学習制度を指します。日本では古くから生涯学習という概念が浸透していますが、生涯学習はより豊かな人生を送ることを目的とした学習です。リカレント教育は、あくまで働くことを前提とした学びであり、少し意味合いが異なります。日本では、リカレント教育と生涯学習が同一に語られており、明確な区別はされていません。

 

リカレント教育の成り立ち

リカレントの歴史は古く、スウェーデンの経済学者ゴスタ・レーン氏が提唱したのち、1969年5月にベルサイユで開催された欧州教育大臣会議で、スウェーデン教育大臣のオロフ・パルメ氏が言及したことが始まりと言われています。

 

1970年にはOECDが教育政策会議で議題に取り上げ、その後1973年に「リカレント教育 -生涯学習のための戦略-」報告書が公表されました。日本でも文部科学省が同書を翻訳し、国内外で大きく認知を広げました。

海外におけるリカレント教育の現状

リカレント教育の発祥の地とされるスウェーデンでは、「コンヴックス(Komvux)」と呼ばれる生涯教育機関があります。コンヴックスは初等・中等教育と同水準の基礎知識の習得、学習意欲のある人への高等教育以上の学習機会の提供などを目的に、20歳以上の自国在住者なら無償で授業を受けられる仕組みです。

 

また、スイスではリカレント教育に近い「継続教育訓練」があります。継続教育は、雇用主が従業員に対して提供しているケースが多いですが、近年は教育機関が提供するケースが増えてきています。

 

リカレント教育の先進国として名高いデンマークでは、リカレント教育とともに「フレキシキュリティ」という概念も浸透しています。フレキシキュリティとは、柔軟性を意味するフレキシビリティと、安全性を意味するセキュリティを組み合わせた造語で、雇用の柔軟性と労働者の雇用安定を両立する考え方です。雇用規制を緩和するかわりに、失業給付と職業訓練プログラム(リカレント教育)への参加を条件にすることで、失業者の再就職のバックアップする仕組みを構築できています。

日本におけるリカレント教育の取り組み

リカレント教育の浸透・普及は他先進国と比べると遅れをとっています。パーソル総合研究所の調査によれば、勤務先以外で自己成長を目的とした自己学習を行っているかという質問に「特に何も行っていない」と回答した割合が46.3%で、14ヵ国で「もっとも何もしていない」割合が高くなっています。

 

参照:パーソル総合研究所「APACの就業実態・成長意識調査(2019年)」

 

その結果は進学数にも表れています。25歳以上の学士課程への入学者割合が2.5%、30歳以上の修士課程への入学者割合が13.2%、30歳以上の博士課程への入学者割合が42.7%と、他先進国と比較して低くとどまっています。

 

参照:高等教育の将来構想に関する参考資料

リカレント教育が広がる背景

近年、国内外でリカレント教育が注目されているのは、以下の3つの理由が挙げられます。

市場の変化

IT技術の発展やグローバリズムなどを要因として、ビジネス環境は日々急速に変化を続けています。変化に対応するためには、働きながら従業員が時代に合った最新の教育を受けられる環境の整備が重要です。

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働き方の多様化

SDGsと呼ばれる世界共通の取り組みが掲げられるなかで、日本でも男女における雇用機会の均等や、個々に適した労働環境の提供など、働き方はより多様化、複雑化しつつあります。終身雇用から”転職が当たり前”の時代へと移り変わりつつあります。従来の社内育成プログラムだけでなく、従業員のキャリアに合わせた学び直しの機会を提供することも
重要になりつつあります。

長寿化と高齢化社会

4人に1人は100歳になると言われる長寿化社会では、就学、就職、引退といった従来のキャリアパスでは通用しなくなっています。それこそ、定年後に再就職をする人もいれば、ミドルエイジでの学び直しを求める人もいるでしょう。100年先を見据えたライフプランの設計が必要です。

 

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リカレント教育のメリット

リカレント教育を行うと、導入する企業にとっても、従業員にとっても多くのメリットがあります。

年収の増加

リカレント教育によって、より専門性の高い知識や技能を習得できるため、結果的に年収が増加します。内閣府の調査では、学習をすることで2年後には10万円弱、3年後には15万円近くも年収が増加することが明らかになっています。

参照:「平成30年度 年次経済財政報告」

自分らしい働き方の実現

リカレント教育によって、働きながらさまざまな技能や知識を習得できるため、キャリアの選択肢が広がります。

リカレント教育のデメリット

リカレント教育を導入することで、従業員と企業双方とも大きなメリットを得られます。
しかし、まだ広く普及していない日本では、いくつか課題も存在します。

 

再雇用の難しさ

リカレント教育が広く浸透していない日本では、学び直しの機会を”空白期間”とみなし、転職市場において不利になる可能性があります。

 

周囲の理解が必要になる

学び直しをするには、長期休暇を取得する必要があります。自分が担当していた業務も別のメンバーに引き継ぐ必要があるため、リカレント教育にたいする一定の理解が欠かせません。

 

教育カリキュラムの不足

リカレント教育の導入率も低く、また導入企業でも教育カリキュラムは少なく、個々のキャリアに合わせた学び直しが十分にできる環境には至っていません。

 

リカレント教育の導入事例

リカレント教育を実践するには、所属先の企業の理解が欠かせません。ここでは、すでにリカレント教育を導入している企業をいくつかご紹介します。

サイボウズ

サイボウズは2012年から「育自分休暇制度」を開始しました。これを利用すると最長6年間、サイボウズを離れて自己成長のためのチャレンジができます。

 

ヤフー株式会社

ヤフーでは「勉学休職制度」と呼ばれる制度を設けています。利用できるのは勤続3年以上の正社員で、専門技能や知識を習得するために最長2年まで休職できます。

 

明治大学

リバティアカデミーは、人間の存在を探求する教育とリカレント教育を基本理念として1999年に設立された生涯学習拠点です。会員制となっていて、会員になると希望の講座を自由に受講できます。資格取得、語学、ビジネス、教養など、幅広い分野の講座が用意されています。

 

まとめ

リカレント教育の重要性を認識する企業も増えてきていますが、リカレント教育のための環境整備にはコストがかかるほか、職場からの長期離脱にもつながるため、労働力不足のリスクが伴います。メリットだけでなくデメリットの側面も認識し、導入を検討してみてください。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等