育児や介護と両立するための制度として注目されている「時短勤務」。正式名称を「短時間勤務制度」といい、育児・介護休業法改正により、法律で導入が義務化されました。本記事では、時短勤務制度の概要とメリット・デメリットなどについて解説いたします。

時短勤務とは?

時短勤務は、正式名称は「短時間勤務制度」といい、正社員のまま通常8時間の勤務を6時間に短縮する勤務制度を指します。2009年に実施された育児・介護休業法改正により、事業者は時短勤務の導入が義務となりました。 3歳未満の子どもを養育する従業員は、この時短勤務制度を活用できます。申し出があった場合、事業者はその要望に応じなければいけません。

フレックスタイム制との違い

時短勤務は、就業時間自体が短縮されるのに対し、フレックスタイム制は始業・就業の時間を任意に決められる制度」を指します。 一般的には、出勤の必要がある「コアタイム」と出退勤前後の自由に選択できる「フレキシブルタイム」に分かれます。

 

時短勤務では、一日あたりの所定労働時間が決まっていますが、フレックスタイムでは1週間などで労働時間が決められており、仮に1週間あたり40時間と決まっていたとすれば、月曜日に7時間、火曜日に8時間、水曜日に6時間、木曜日に8時間、金曜日に11時間と自分の裁量で労働時間を決められます。また、会社によってはコアタイムを持たない「フルフレックス制」にしているところもあります。

 

関連記事:フルフレックスという選択肢|変わる働き方

時短勤務が成立した背景

では、なぜ育児・介護休業法改正をして、時短勤務の導入義務を事業者に求めるようになったのでしょうか。それには、大きく「若手人材の不足」と「多様な働き方の実現」といった要因が関係しています。

 

若手人材の不足

バブルが崩壊し、勤務し続ければ給料が上がる時代は終焉を迎えました。また、少子高齢化によって「大家族」から「核家族」へと家族形態も移り変わり、育児・介護と仕事の両立をすることが一般的となりました。しかし、男性は会社へ出勤し、女性は一人自宅で家事や育児を行うという従来の暮らし方では限界を迎えており、「ワンオペ問題」として問題視されています。 このような負のループに入った結果、婚姻件数は年々減少傾向にあります。厚生労働省の調査によれば、1972年の婚姻件数109万9984組のピーク時と比較すると、2019年には59万8965組と約半分の数値になっています。

 

参考:人口動態統計月報年計(概数)の概況 2019年|厚生労働省

多様な働き方の実現

グローバリゼーション、IT技術の発展により、ビジネス環境はより複雑化・高度化し、画一的な正解のない時代へと突入しました。正解を選ぶのではなく、自分自身で選択肢を選び、それを正解にしていくことが求められています。組織としては、従業員個々をバックアップするように、多様な働き方を実現できるような職場環境の整備を行う必要があります。

 

関連記事:VUCA(ブーカ)の意味とは?|激変する時代を生き抜くのに欠かせないフレームワーク

時短勤務の利用条件や対象について適用期間はいつまで?

時短勤務には、適用期間や利用条件などが定められています。

時短勤務の適用期間はいつまで?

育児の場合

育児の場合は、前述したように3歳未満の児童の育児に限られます。また、3歳を超える児童であっても小学校就学の始期(満6歳)までは、事業者には短時間勤務制度実施の努力義務が課せられます。

 

介護の場合

要介護状態と認定された対象家族1人につき、制度の利用開始から通算3年以上であり、いつまでという期間の制約はなく、事業者と労働者において個別に期間を調整することになります。

 

利用条件や対象について

育児や介護目的で時短勤務をする場合ともに、以下に該当する場合は利用対象外となります。

・入社1年未満の労働者

・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

・業務の性質又は業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者

もし、事業的に実施が難しい場合は……

・育児休業に関する制度に準ずる措置

・フレックスタイム制度の導入

・始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ(時差出勤の制度)

・事業所内保育施設の設置運営

 

その他これに準ずる便宜の供与のいずれかを実施する必要があります。

 

参考記事:母性健康管理に関する用語辞典

時短勤務のメリット

時短勤務には、仕事と育児の両立ができるだけでなく、収入源の維持や自分の時間を持てるというメリットもあります。

仕事と育児の両立

会社を休職あるいは退職してしまうと、現場から長期間離れてしまうため、なかなか元のキャリアに戻るまでには時間がかかります。しかし、時短勤務では育児もしつつ、今ある仕事をそのまま継続できます。 特に保育園や病院などは、17時や18時ごろで閉まることが多いため、ストレスなくゆとりを持って育児ができます。子どもが成長しまた仕事に力を入れたいなどその時のライフステージに合わせて、自分の働き方を切り替えることができます。

収入源を維持できる

配偶者がいる場合はもちろん、シングルマザーやシングルファザーの場合、休職あるいは退職をしてしまうと、収入はゼロになります。時短勤務で給与が減るとはいえ、有給休暇も通常の勤務同様に取得する権利がもらえます(時短勤務分に相当する金額をもらえる)。収入源を絶やさずに、生活を安定させることができます。

 

自分の時間を持てる

「育児ノイローゼ」という言葉があるように、育児だけに専念していると気が滅入るものです。育児とは別に、自分が活躍できる場所を持つことで気分転換できるし、一旦育児から離れて心のゆとりを持てるようになります。

 

時短勤務のデメリット

一方、時短勤務では、給与が少なくなる、仕事が終わらないといったデメリットもあります。

給与が少なくなる

時短勤務では、勤務時間を6時間に制限されるだけでなく、原則、時間外労働や所定外労働(残業労働)も制限されるため、給与が大きく減少します。

仕事が終わらない

労働時間が減る分、育児に時間を避けますが同時に決められた時間までに終わらせる必要もあります。もちろん、終わらない分はチームメンバーなどにフォローしてもらう方法もできますが、今まで以上に「時間内に終わらせる」という意識が求められます。

迷惑をかけている、と負い目を感じてしまう

他のメンバーに業務のしわ寄せがいくため、時短勤務利用者は迷惑をかけていると負い目を感じがちです。アイデムが実施した調査では、時短勤務利用者の実に78.4%が「負い目を感じる」と回答、また時短勤務利用者と一緒に働く人も、58.6%の割合で「不満がある」と回答しています。

 

参考記事:平成28年版パートタイマー白書|アイデム

 

時短勤務利用者と現場で働く従業員が対立関係にならないためには、しっかりとコミュニケーションをとり、お互いの意見や考えを共有することが大切です。また、会社側も時短勤務利用者が悩みを抱えこまないように相談窓口の設置や、一部の従業員に業務負担がかからないような組織体制の構築が求められます。

時短勤務の導入事例

最後に時短勤務制度を積極的に導入している企業事例についてご紹介します。

ソニー

従業員一人ひとりが全力で仕事できる環境を整備することを掲げ、その一環として「両立支援制度」を設けています。在宅勤務制度だけでなく、育児期フレックスタイム勤務や育児短時間勤務、休暇制度など従業員のキャリアに寄り添った多様な制度が設立されています。

 

そのほか、両立について考えるイベント「Working Parent’s Meeting」や家族を会社へ招待する「ファミリーデー (職場見学会)」なども実施しています。2007年には、東京労働局長より子育てサポートにおいて一定の評価をされた企業に送られる「子育てサポート認定事業主マーク(通称、くるみん)」を取得しています。

 

株式会社丸井

丸井は、従業員のおよそ45%が女性ということもあり、短時間勤務制度や出産休暇、育児や介護などで転勤が難しい場合に利用できる「エリア限定制度」など、出産・育児をする従業員をサポートする制度を多数用意しています。

 

「イクボスアワード2015グランプリ受賞」「プラチナくるみん認定取得」、女性活躍の先進企業に送られる「SMBCなでしこ融資」など、働き方に関する賞を多く受賞しています。

 

まとめ

今や時短勤務は、育児・介護休業法改正により義務化されており、従業員の「権利」とされています。またテレワークの普及も多くの企業で進んでおり、今まで以上に育児や介護と仕事の両立がしやすい環境になりつつあります。 時短勤務制度を上手に活用し、より充実したワークライフを送りましょう!

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑
Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等