IT業界を中心に職種として認知され始めてきている「エバンジェリスト」。自社の製品や技術の価値を正しくユーザーに伝え、啓蒙する役割を持つ人材です。とはいえ、エバンジェリストは、明確に業務内容が決まっているわけではないため、いまいちイメージがつきにくい職種ではあります。本記事では、エバンジェリストの仕事内容、求められるスキルなどについて解説いたします。

 

エバンジェリストの意味って?

エバンジェリストとは、正確に分かりやすく自社製品や技術の価値をユーザーに解説する専門人材のことを指します。エヴァンジェリストとも。もともと、エバンジェリストという言葉はキリスト教の「福音伝道者」から由来しています。

 

ドイツの宗教改革者であるマルティン・ルター氏が、1517年に宗教改革を起こし、特権階級に広まっていたキリスト教を民衆に広めることとなりました。ルター自身は「福音伝道者(エバンジェリスト)」と呼ばれ、それに共感するものは、「エバンゲリッシュ(プロテスタント)」と呼ばれました。現在ではドイツにおける最大派閥となっています。このエバンジェリストという言葉の意味が派生し、「自社の製品や技術を伝導するもの」として使われるようになりました。

営業や広報・PRとの違い

エバンジェリストは「伝える」ことが主な仕事であり、広報・PRや営業と混同されることも多いようです。営業は、顧客または見込み顧客に対し、契約または購入につながるように提案を行いますが、エバンジェリストは、社内も含む不特定多数に向けて情報を発信します。

 

広報・PRとも非常に類似していますが、決定的な違いは「中立性」です。エバンジェリストは自社の採用や製品購入を促すのではなく、あくまで専門家として情報を提供する役割であり、ときには他社の技術や製品も惜しまずに解説します。

 

インフルエンサーとの違い

インフルエンサーは、「世間に影響力を持つ人」のことで、正確に言えば職種ではありません。その指標は、SNSのフォロワーの数だけでなくYouTubeやテレビでの認知度や話題性なども含みます。

アンバサダーとの違い

アンバサダーは日本語で大使や使節という意味をもつ言葉です。ビジネスシーンでは、ファンの代表として、商品やサービスを広く普及する役割を担う人のことを指します。エバンジェリストは、あくまで従業員として活動しますが、アンバサダーはユーザーが役割を担うため、金銭の授受がないケースが多いです。

エバンジェリストの意味とは|自社の製品や技術の価値を伝える伝道者|mazrica times

 

なぜエバンジェリストが注目されている?

なぜ近年、エバンジェリストが注目されているのでしょうか。それは一つに急激な技術の進化が挙げられます。1991年にインターネットが商用化されて以来、パソコン、スマートフォン、SNS、スマート家電など、さまざまなIT製品が次々と登場しました。現在では、日々新しいWebサービスが立ち上がり、ユーザー自身が最新動向をキャッチアップし、最適なモノを選択することは困難になっています。そこで、重要になるのがエバンジェリストの存在です。営業や広報の業務を補完する役割として、自身の専門知識やスキルを活かし、より公益性・中立性のある視点から、自社の技術や製品の魅力を正しく伝えることで、ユーザーのニーズの深いところにアプローチすることができます。

エバンジェリストの仕事内容・役割

ここまでエバンジェリストと営業・広報の違いやエバンジェリストの言葉の由来について解説しましたが、ここからは具体的にエバンジェリストの仕事内容について解説いたします。

発表会・プレスイベントでの登壇

エバンジェリストの業務の中心を占めるのが、発表会・プレスイベントにおけるプレゼンテーションです。不特定多数の人に、自社の技術や製品の魅力をわかりやすく伝えます。ただ、中立に伝えるだけでなく、購入につながるようなアクションを作り出すまでがエバンジェリストの役割となります。

プリセールス

最新の技術や製品知識をもとに、営業のサポートを行います。ときには、クライアント企業にデモンストレーションを実施したり、プレゼンをしたりします。

インナーマーケティング

社内に、自社の技術や製品の魅力をより浸透させるよう、勉強会の企画・運営を実施したり、社内報で連載コラムを書いたりして、必要なナレッジを共有します。

SNSやメディアでの情報発信

自社の技術や製品のプレゼンスを高めるため、自身のSNS、会社のSNSやホームページ、ときには外部メディアで専門家として情報発信活動を行います。

エバンジェリストになるにはどんなスキル・能力が必要?

エバンジェリストは、プリセールスから最新情報のインプット、プレゼンテーションなどさまざまな業務を担当することから、幅広いスキル・能力が必要とされます。

プレゼンテーション力

もっとも必要なスキルといっても過言ではないでしょう。社内外の不特定多数の人に向け、中立性、公益性を保ちつつ、自社製品や技術の魅力を伝えることが求められるため、ハイレベルなプレゼン力が求められます。また、ただ伝えるだけでなく、購買や契約を促すような相手を引きつける話術も必要となります。

多角的な視点

中立性、公益性を保つためには、自社の製品や技術だけでなく、競合企業の製品や技術、業界の流れなどを踏まえ、多角的な視点から物事を見て理解しなければなりません。

課題発見力

プリセールスの役割を担うものとして、ユーザーの課題を正確に捉え、そのソリューションを提案するスキルも重要です。ただ、自社製品をセールスするだけでなく、課題解決に必要な方法を全て提示し、顧客の課題に寄り添います。

エバンジェリストの企業事例

最後に、エバンジェリストが活躍する企業の事例をご紹介します。

エバンジェリストの事例1.日本マイクロソフト 西脇資哲氏

日本マイクロソフトの西脇資哲氏といえば、2013年に日経BP社の「我らプロフェッショナル 世界を元気にする100人」にも選出された、いわずと知れた日本を代表するエバンジェリストの第一人者です。さまざまな分野の企業や官公庁での登壇実績などを経て、現在は日本マイクロソフトの業務執行役員に就任しています。現在は、IT業界全体を盛り上げたいという想いから、エバンジェリスト養成講座の主催や、自社の働き方改革にも関わり、多様な働き方を実現しています。

エバンジェリストの事例2.日本ユニシス(現BIPROGY)グループ

日本ユニシスグループでは、2016年に「Foresight in sight」というコーポレートステートメントを掲げ、その取り組みの一環としてエバンジェリストの育成を始めています。日本ユニシスにおいては、エバンジェリストを「裏方で活躍するエンジニアのモチベーションの源泉」と位置づけ、主に社内外への情報発信活動とプリセールス活動などをしています。

エバンジェリストの事例3.サイボウズ

サイボウズには、「kintone エバンジェリスト」と呼ばれる制度があります。「kintone エバンジェリスト」とは、kintoneの豊富な知識や経験を持ち、かつkintoneに関する情報を公の場で情報発信し続ける社外の人をサイボウズがエバンジェリストとして公認する制度です。2014年4月の発足以来、約30名以上の方がエバンジェリストとして公認されています。

どちらかといえば、アンバサダー的な意味合いを含んでいます。

まとめ

エバンジェリストは、「正確に分かりやすく自社製品や技術の価値をユーザーに解説する」という役割はあるものの、業務が具体的に決まっているわけではなく、時代やそのときの状況に合わせて、フレキシブルに、チャレンジングに業務を遂行することが求められます。チャレンジ精神が高い人、好奇心旺盛な人にとっては、最適な職種かもしれません。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等