選手生命が短いとされてきたアスリートやタレントといった職業のキャリアのあり方が変わりつつあります。二足のわらじ、パラレルキャリア、複業……。
アスリートやタレントが本業以外の肩書きを持ちながらも活動を継続することを「デュアルキャリア」と呼び、世間の耳目を集めつつあります。
本記事では、デュアルキャリアの概要やセカンドキャリアとの違い、デュアルキャリアの事例について解説します。
目次
デュアルキャリアとはどういう意味?
デュアルキャリアを直訳すると「デュアル=二重」「キャリア=経歴」となり、主にアスリートがスポーツ活動とそれ以外の進学、留学、就職など2つのキャリアを並行する概念です。アスリートは、幼少期から育成機関でスポーツの英才教育を受け、早期からプロを目指します。競技によって異なりますが、スポーツ分野の多くは年齢とともにパフォーマンスが下がります。一般企業のように定年65歳まで第一線で活躍できる選手はごくわずかです。そのため、選手生命が短い職業とされてきました。
しかし、人生100年時代と呼ばれる現代においては、選手人生を終えた先にも長い第二の人生が待っており、選手の時間にもセカンドキャリアに向けて投資する時間が必要となりました。この傾向はアスリートだけでなく、同じく浮き沈みのある芸能界で活躍するアイドルや芸人などのタレントにも通じています。
デュアルキャリアとセカンドキャリアの違い
セカンドキャリアとは、アスリートが引退後の仕事、キャリアを指します。近年はそこから転じて、早期リタイアした人や定年した人のキャリア、出産・育児、介護を終えた人の社会復帰後のキャリアなども含む幅広い意味合いをもつ言葉になりました。
それに対してデュアルキャリアは競技生活と仕事の両立が図れており、かつそれぞれが
良い影響を与え合っています。
アスリートやタレントが抱える3つの課題
アスリートやタレントで成功する人はほんのごく一握りです。しかも、常に競争が巻き起こる熾烈な世界であり、第一線で活躍し続けるのは血の滲むような努力だけでなく、運も持ち合わせていなければなりません。華々しく活躍している人の裏側には、叶わなかった夢をあきらめ、第二の人生を歩むアスリートやタレントがたくさん存在しています。
しかし、アスリートやタレントのセカンドキャリアは、思うようにうまくいかないケースも多いと言われています。特にトップアスリート、一流タレントであるほどその傾向が顕著だそうです。そこには、どのような課題が存在しているのでしょうか。
社会的なスキル・ノウハウの不足
アスリートやタレントの多くは、秀でた競技力や表現力はあるものの、社会経験が乏しく、社会人として必要な基礎スキルが身についていないことが多いです。中途採用では即戦力を求められるため、選考の段階で落とされてしまうケースも。
過去に培ったスキルの活かし方が分からない
アスリートやタレントには、何か1つのことを極めることに長けてします。しかし、それが当たり前であるため、強みと認識できず、またそのスキルをどうビジネスに役立てるか結びつけて考えることができず、最大限に力を発揮できません。
やりたいことが見つからない
人生の大半をスポーツに捧げてきたアスリート、ダンスや歌などに費やしてきたタレントが新しく情熱を注げるものを見つけるのはそう容易ではありません。燃え尽きてしまい、なかなか新しいアイデンティティを確立できず、仕事に就いたとしても長続きすることが難しくなってしまいます。
デュアルキャリアで得られるメリット
デュアルキャリアでは、アスリートやタレント活動に充てる時間が減るものの、経済的な不安や将来の不安を払拭できます。またさまざまな世界と出会い、新しい価値観や考えを知ることができます。
経済的な安定
アスリートやタレントが抱える悩みがお金です。完全実力主義の世界では、5年後、10年後も今と同じ収入が得られる保証はどこにもありません。デュアルキャリアで他の仕事をすることで、お金の悩みに囚われることなく、競技や練習に集中して取り組めます。
異業種の人脈が構築できる
アスリートやタレント以外の業界、職種の人とのつながりができることで、アスリートやタレント活動をしているだけでは得られない新しい考えや価値観を知ることができます。
パフォーマンスの向上
2つのキャリアを両立することで、それぞれにかける時間は少なくなりますが、それによって少ない時間のなかでどう成果を出すか考えるようになり、パフォーマンスが向上します。
デュアルキャリアのデメリット・問題点
一方で、デュアルキャリアにもデメリットや問題点があります。まず、2つのキャリアを両立させるため、物理的に時間が足りなくなります。場合によっては、どちらも中途半端になってしまう可能性もあります。また、アスリートやタレントは、稽古やイベントといった予定が急に入る、遠征やツアーでは長期間離脱せざるを得ないこともあります。アスリートやタレント自身で予定管理をして、休息の時間を確保しなければいけませんし、職場の理解も重要になってきます。
デュアルキャリアを採用している企業事例
最後に、デュアルキャリア採用を実施している企業事例についてご紹介します。
ベネシード
ベネシードは片山源治郎氏が社長兼会長をつとめる健康補助食品、医薬部外品、化粧品などの企画や販売を行う会社です。片山源治郎氏は、元アスリートの孤独死報道をきっかけにアスリートのキャリア支援の必要性を感じ、15年ほど前から同社でアスリートのデュアルキャリア支援を行っています。元柔道家の松本薫さんも引退後はこのベネシードで働いており、ベネシードの関連会社でヴィーガン対応のアイスクリーム「Darcy’s(ダシーズ)」の製造販売に携わっています。
バリュエンスホールディングス
ブランド品・貴金属・骨董品等の買取および販売を行うバリュエンスホールディングスは、Jリーグのガンバ大阪でプレーをしていた嵜本晋輔氏が立ち上げた会社です。2020年9月には、「アスリートのためのデュアルキャリア採用」を開始しました。これは、10競技10人、計100人採用するというプロジェクトで、経済的な理由やコロナウイルスなどで競技生活をあきらめている人たちの支援スキームとして大きな役割を果たしています。
クローバーホールディングス
鳥取県米子市を中心に14の保育施設を運営するクローバーホールディングスは、女子サッカーチーム「クローバー米子フィオーレFC」を運営しています。選手たちが長く競技人生を歩めるよう、直営する保育施設でのキャリア支援も行っています。また引退後だけでなく、選手期間中も正社員雇用として採用をするため、収入面におけるバックアップも万全です。
まとめ
人生100年時代と言われる昨今。「今を生きる」と同時に「将来を見据える」ことが重要になってきています。従来であればアスリートやタレントが複業やパラレルワークをすることは、「二足のわらじ」と揶揄されてきましたが、その認識は変わっていくことでしょう。まだまだ先の長い人生において、どのように人生を歩んでいくのか。それは、アスリートやタレントだけでなく、今後長寿化する日本人みんなが考え直さないといけない問題なのかもしれません。
この記事を書いたひと
俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya
1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等