将来の働き方や生き方などを決める方法「キャリアデザイン」の他に、キャリアドリフトという方法があるのをご存じでしょうか。キャリアドリフトは節目以外のキャリアをあえて決めずに、柔軟にキャリアを構築していく考え方です。

 

キャリアドリフトの定義とは

キャリアドリフトは、神戸大学の金井壽宏教授が提唱した概念です。キャリアドリフトの「ドリフト」は、漂流を意味する英語です。つまり、キャリアドリフトとは、節目以外のキャリアはあえて決めずに、柔軟にキャリアを構築していく考え方を言います。

たとえ、40歳、60歳、定年後のキャリアをデザインしても、その通りに人生が進むとは限りません。特に、絶えず変化が起こる昨今においては、10、20年先の未来を予測することは難しくなっています。

 

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だからといって、目標や理想を持たずに、ただ流れに身を任せて、日々を過ごすだけでは張り合いのない人生になってしまうでしょう。そこで、キャリアドリフトの考え方を取り入れて、結婚や転勤、出産といった節目にキャリアを見直すことで、進む方向を間違えることなく、充実した人生を歩むことができます。

キャリアドリフトの類義語、関連語

キャリアデザイン、キャリアアンカーなど、キャリアドリフトに類する言葉が多数存在します。ここでは、その違いについて解説します。

キャリアデザインとキャリアドリフト

キャリアデザインとは、仕事において将来なりたい姿や理想像を設計し、それに向けて実現する方法や考え方を言います。よく、キャリアデザインとキャリアドリフトは対義語として語られがちですが、キャリアドリフトはキャリアデザインの方法の1つです。キャリアドリフトは、キャリアデザインと比べると、より柔軟で余白の多い設計方法といえます。

 

キャリアアンカーとキャリアドリフト

船の錨を意味する「アンカー」という言葉が表すように、ライフスタイルやワークスタイルで絶対に外せない価値観や考え方を軸にライフプランを構築する考え方を指します。キャリアドリフトでキャリアを構築していく際に重要な指標といえます。

 

プランド・ハップンスタンスとキャリアドリフト

プランド・ハップンスタンスとは、スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した理論で、計画的偶発性とも呼ばれています。偶発的に起こる出来事をポジティブに捉えて、それを成功のヒントにしていく考え方です。

 

キャリアドリフトを成功に導くために重要な考え方の1つで、提唱者のクランボルツ教授によれば、プランド・ハップンスタンスには3つのポイントがあると示しています。

 

  1. 個人のキャリアの8割は「予期しない偶然の出来事」によって形成される
  2. その偶然の出来事を最大限に活用し、キャリアの形成に役立てる
  3. 偶然の出来事をただ待つだけではなく、引き寄せるよう努力をし、キャリア形成の機会を自ら構築するキャリアドリフトのメリット

 

キャリアドリフトで、キャリアを描くことでどのようなメリットが得られるのでしょうか。ポイントとしては2つです。

柔軟に変化に対応できる

自分が進みたい方向やあるべき理想像に固執しすぎると、突然舞い込んできた偶然のチャンスや出会いをみすみす見逃してしまいます。

変化の激しい昨今においては、20年、30年先のキャリアイメージを設計したところで、2、3年後にはその常識さえも覆り、まったく意味のなさないものになる可能性が高いです。

キャリアドリフトでは、結婚や転勤、出産といった節目に、立ち止まってキャリアについて考えるだけでなく、あえて余白を作り、環境に流されてみることも重要視しています。小さな波(変化)を乗りこなすことで、大きな波(変化)にも耐えうる柔軟性を身につけることができます。

モチベーションを持続できる

設計したキャリアイメージに沿って忠実に行動をしていると、「思った生活と違う」「こんな仕事をしたかったわけではない」と、理想と現実のギャップに苛まれることになります。現実は、そう単純ではありません。さまざまな要素が複雑に絡み合い、時には予期せぬ出来事に遭遇します。それを障害や壁と思わず、チャンスととらえることで、自分を予期せぬ場所まで運んでくれるかもしれません。

キャリアドリフトを実践する4つのポイント

最後に、キャリアドリフトを実践するうえで重要なポイントについて解説します。

ポイント1.人生を通して叶えたい理想像や目標を決める

ただ無為に人生を過ごすだけではキャリアドリフトとは呼びません。道標ともなるような、理想像や目標を設定しましょう。

理想像や目標というと、つい「やりたいこと」を探してしまいますが、簡単に「やりたいこと」は見つかりません。まずは「どうありたいか」「どんな人になりたいか」という切り口で考えてみましょう。

ポイント2.節目で、キャリアを見直す

結婚や転勤、出産といったライフイベントだけでなく、下記のようなものもキャリアを見直す節目となります。

年齢

年齢を重ねると、体力だけでなく、精神面においても変化をもたらします。周りからの見られ方、同世代の友人や知人との比較などによって、時には危機感や焦りを感じることもあるでしょう。

喜怒哀楽

日々の出来事によって生じる喜怒哀楽も、小さな節目です。喜びや楽しさが蓄積されれば、成功体験となり、新しいチャレンジへの一歩を踏み出すきっかけとなります。特に、怒哀など負の感情は非常に重要なシグナルです。「どうすれば現状が好転するのか」「このストレスフルな状況から抜け出すにはどうしたら良いか」と考えるきっかけになります。

仕事における失敗や成功

失敗や成功によって気付かされることは非常に多いです。失敗や成功と向き合い、今後自分のあり方やキャリアをどうしていくべきなのか。考えるきっかけになるでしょう。

ポイント3.アクションを起こす

「変化に柔軟に対応する」と「1つのことを長く続けられない」は別です。方向性を決めたのであれば、一定の期間は相応のリソースをかけて、目標達成に向かって奮起しましょう。目の前の課題や目標に邁進していれば、やがて変化やチャンスは訪れます。

ポイント4.計画遂行だけを意識せず、偶然を楽しむ

わかりやすくいうと、キャリアに余白を作っておくということです。すべて計画通りにキャリアを進めようとすれば息が詰まってしまいます。キャリアの軸が明確になっていれば、少し寄り道をしても、また戻れば良いだけです。偶然のチャンスや機会を楽しみましょう。

終わりに

昨今は、国際情勢の不安定化、異常気象の増加、科学技術の発展など、さまざまな要因によって変化の激しい時代になっています。5年先、いや3年先でさえも見通すことが困難になりつつあります。

キャリアドリフトのように、自分の核を持ち、起こる変化に動揺するのではなく”楽しむこと”こそが、現代を生き抜くのに大切な考え方と言えるでしょう。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等