肥大したグローバル経済によって、エネルギー枯渇、食糧危機、水質・大気汚染など、地球環境においてさまざまな問題が発生しています。

 

環境問題への取り組みは世界的に実施されているものの、地球温暖化は進む一方です。このような流れの中で、現在注目されている考え方があります。1970年にオーストラリアの学者によって提唱されたパーマカルチャーという考え方です。パーマカルチャーは、パーマネント(永続性)、アグリカルチャー(農業)、カルチャー(文化)を合わせた造語で、人と自然が共存する社会を作るための手法や考え方を指します。

 

パーマカルチャーの意味とは?

パーマカルチャーとは、持続可能な農業を育むことで、文化そして人が共に豊かになるような仕組みを構築する考え方を意味します。語源は、パーマネント(永続性)、アグリカルチャー(農業)、そしてカルチャー(文化)の3つの言葉から来ています。

具体的には、家庭から出る生ごみを堆肥に変えるコンポスト、DIY、太陽光発電などがあります。これらは、まさに自然の恵みを別のエネルギーに転用し、循環させる事柄、仕組みであり、人が自然と長く共生する手助けをしてくれます。

パーマカルチャーの起源

パーマカルチャーの起源は古く、「パーマネント・アグリカルチャー」という表記で、米国ウィスコンシン大学の土壌学者、F・H・キング教授がすでに提唱していたほか、1929年にはアメリカの地理学者であるJ・ラッセル・スミス氏が、自著「トゥリー・クロップス」の中で言及しています。

その後、1970年代にオーストラリアの生物学者であるビル・モリソン氏と、デビッド・ホルムグレン氏が共著した「パーマカルチャー・ワン」でパーマカルチャーについて言及したことで、一般に広く浸透しました。

日本での動きは比較的新しく、1990年代からと言われています。農山漁村文化協会がビル・モリソン氏の書籍「パーマカルチャー」を翻訳したことで概念が普及して、1996年にはパーマカルチャー・センター・ジャパンが設立されました。

パーマカルチャーとロハスの違い

パーマカルチャーと似た言葉に、ロハスがあります。ロハス(LOHAS)は、「Lifestyle Of Health And Sustainability」の頭文字を取った言葉で、健康的で持続可能な生活様式を意味します。

ロハスとパーマカルチャーはほぼ同じような意味合いで使われていますが、パーマカルチャーに比べると、より広義的な言葉として使い分けがされています。

パーマカルチャーとエコビレッジの関係について

環境負荷の少ない暮らしや、住民がお互いに支え合う仕組みを重視したコミュニティです。パーマカルチャーの思想そのものが体現されており、1998年には国連が選ぶ持続可能なライフスタイルのすばらしいモデル 「100 Listing of Best Practice」にも認定されており、世界中に15,000ヶ所ほど展開されていると言われています。

パーマカルチャーの4つの倫理と12の原則

パーマカルチャーには、4つの倫理と12の原則が定義づけられています。

4つの倫理

  • 地球への配慮
  • 人に対する配慮
  • 余剰物の共有
  • 自己に対する配慮

 

利益や資源を独占せず、浪費せず、他の人と分け与えること、そして、地球から得た恵みに感謝し、住む地球を大切にすること。地球、他人、そして自分、三方それぞれが幸せになるよう生活することが記載されています。

12の原則

パーマカルチャーのパイオニア、デビッド・ホルムグレン氏によって、提言された原則です。

 

・エネルギーを利用する、逃がさない(Catch and store energy)
・観察と相互作用(Observe and interact)
・作物を得る(Obtain a yield)
・再生可能な資源の利用と評価(Use and value renewable resources and services)
・自然の自己調整力を利用する、結果を受け入れる(Apply self-regulation and accept feedback)
・全体設計から詳細を考える(Design from patterns to detail)
・ごみを出さない(Produce no waste)
・分離よりも統合(Integrate rather than segregate)
・今できる小さなことをやる(Use slow and small solution)
・多様性の活用と尊重(Use and value diversity)
・柔軟に変化し、対応していく(Creatively use and respond to change)
・エッジの利用、遊びの必要性(Use edges and value the marginal)

パーマカルチャーで暮らしや働き方はどう変わる?

パーマカルチャーでは、基本の倫理として、地球、自分、人々と共存し、公平に資源や富を分かち合うことが存在しています。パーマカルチャーを体現することで、「自分達だけが、幸せになるビジネスになっていないか」と、より広範的に事業のビジネスモデルを捉え直したり、また自分が普段使う商品やサービスが、「もしかしたら、海外で低賃金で働く人々によって作られたものかもしれない」と製造プロセスに思いを巡らせたりするきっかけになるかもしれません。

 

今まで以上に、自分だけではなく、目に見える周りの人、さらに商品やサービス、画面の向こう側にいる違う国の人、また地球環境について、考えるようになるでしょう。

パーマカルチャーの実践事例

最後に、パーマカルチャーを実践している事例について紹介します。

国内の事例

三角エコビレッジ サイハテ

元々、「自然の里」という団体が保有していた1万坪の敷地面積を譲り受け、東日本大震災が発生した2011年に熊本県宇城市三角町で発足したエコビレッジです。自由と多様性を尊重しており、現在は子供含め、漁師、歌手、大工、バリスタなど、多種多様な人が30人ほどこの地で生活を送っています。

 

アズワンネットワーク鈴鹿コミュニティ

アズワン鈴鹿コミュニティは、2001年に立ち上がった「AsOne=1つの世界」を実現するエコビレッジです。コミュニティではあるものの、規約がない、境界がない、点在して暮らしているなど、一般的なエコビレッジとは一線を画しています。

 

海外の事例

クリスタルウォーターズ

世界で初めてのエコビレッジです。パーマカルチャーを一般に広く普及させたビル・モリソン氏の故郷、オーストラリアにあります。敷地面積850万坪ほどの半数を占める森林は、創立当時のメンバーによる植林でできあがったもの。多様な人だけでなく、さまざまな野生動物も共に、このエコビレッジに生息しています。

 

Eco Village at Ithaca(エコビレッジ・イサカ)

アメリカのニューヨーク州イサカにあるエコビレッジです。70ヘクタールほどの敷地には、3つの居住地区があり、全体で100世帯ほど、0〜80歳までの住民が200人ほど生活しています。

 

フィンドホーン

1962年にスコットランドハイランド州で立ち上がったエコビレッジです。スピリチュアル・コミュニティ「フィンドホーン財団」が母体になっています。毎年、世界70カ国以上の国から1万人以上が来訪し、現地で500人が生活しています。

終わりに

パーマカルチャーの定義は、まだまだ一般には広く浸透・定着していませんが、世界的に、ゼロカーボン(脱炭素)、アップサイクルといった環境配慮型のライフスタイルへの切り替えを推進する機運は年々高まっており、今後数年でパーマカルチャーにも注目が集まるものと思われます。

パーマカルチャーは端的に言えば、日々の選択の問い直しから始まります。

商品を手に取るときに、「こんなにたくさん買って、食べ切れるだろうか」「この製品は、非動物性で作られたものか」といったことを少し考えることで、大量生産、大量廃棄の消費行動から脱却し、パーマカルチャーへ近づく第一歩になるのではないでしょうか。

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等