仕事の現場で「デザイン思考」という思考プロセスを聞いたことがあるでしょうか?デザイン思考というネーミングから、「デザイナー以外は無関係のこと」「なんだか難しそう」というイメージを持たれがちですが、実は全てのビジネスマンに必要なアプローチ・手法です。 この記事では、デザイン思考の特徴や意味、導入するメリットや欠点など、初心者の人にも分かりやすく解説します。

 

デザイン思考(デザインシンキング)とは?定義や意味について

デザイン思考とは、「ユーザーも気づかない本質的なニーズを見つけ、変革させるイノベーション思考」と定義されます。デザインシンキングと呼ぶこともあります。もう少し噛み砕いて説明すると、「デザイン制作における思考方法を用い、それをビジネスや経営に活かしていくアプローチ」となります。 デザイン思考は、P&GやGoogleといった外資系企業やYahoo Japanといった日本企業などでも導入が始まっています。

デザイン思考の特徴|課題解決ではなく課題発見であること

デザイン思考は、課題解決を促すプロセスではありません。課題を問い直し、本当の問題を発見する姿勢、プロセスです。顧客の真意を探り、本当の問題に行き着いてこそ、デザイン思考の成功と言えます。

デザイン思考とアート思考の違い

デザイン思考と同じく注目されているプロセスがアート思考です。このデザイン思考とアート思考では明確な違いがあります。

アート思考は実現性やニーズに関係なく、自分の自由な発想を起点にアイデアを創出する デザイン思考は、ユーザーやクライアントのニーズを探り、捉え、それを満たすアイデアを創出します。

これは、すでにあるプロダクトをさらに飛躍させる、いわゆる1→100では有効な手段となり得ますが、例えば、0→1の場合は、非現実的で独創的な発想も必要になります。アート思考は、ありえないことをあえて発想するプロセスを行うため、視野が拡張され、競合とは一線を画すイノベーティブなアイデアを作り出せます。 ただ、デザイン思考もアート思考も、それぞれ使い所があり、短所長所を兼ね備えています。どちらが良い悪いという話ではなく、シーンによって使い分けられることが重要です。

デザイン思考(デザインシンキング)なぜ必要?求められる理由

デザイナーの考え方であるデザイン思考(デザインシンキング)がビジネスでなぜ必要なのでしょうか?それは、時代の変化により、ビジネスのあり方も変わってきたことが一番の理由になります。

国内の人口減少、グローバル化の進展や資源不足、AIによる産業構造の変化など、複合的な要因により、社会環境は大きく様変わりし、これまでの常識が通用しなくなっています。Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をとった「VUCA」という言葉が示すように、経済状況はますます混迷を極めています。 多様化し、複雑化した昨今では、仮説を立てたら即座にプロトタイプをリリースし、高速でサイクルを回していくことが求められます。

 

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デザイン思考(デザインシンキング)のプロセス

デザイン思考のプロセスに関しては、ハーバード大学の研究機関「ハッソ・プラットナー・デザイン研究所」のハッソ・プラットナー教授が掲げる「デザイン思考の5段階」が参考になります。

プロセス1.共感 (Empathise)

まず、ビジネスの基本中の基本、ユーザーの思考を理解し、そのニーズを探ります。なぜそのサービスが欲しいのか、サービスを手に入れた先に何を求めているのかを想像します。ここで注意したいのは、「ユーザー第一主義」と「ユーザーに共感する」というのは全く別物であるということです。ユーザーが語る言葉を鵜呑みにするのではなく、自分が本当にユーザーの気持ちになった時、どんな感情を抱いていて思考をするのか、そこまで徹底的になりきることが大切です。

プロセス2.定義 (Define)

多くの場合、ユーザーは自分が求めているニーズの本質を理解していないことが多いです。つまり、「大きなベッドが買いたい」という顕在的なニーズを聞いて終わるのではなく、その先の「忙しい日々でも快適な眠りを作りたい」という潜在的なニーズを探り、最適解を考え抜くのがここでいう定義です。定義は、これからの概念化の下地となるので、慎重に決めていきましょう。

プロセス3.概念化 (Ideate)

定義されたお題に対し、具体的なアプローチを洗い出します。ブレインストーミングなどの手法を使って概念化するのが一般的です。質よりも量を出すことが重要なので、思いつく限り、次々とアイデアを出しましょう。その後、分類して収束させて形にしていきます。

プロセス4.試作 (Prototype)

試作では、概念化したものが動くように実装していきます。動かすことが第一目的であるため、なるべく時間とコストをかけずに、最初の試作品を作ります。プロトタイプは売り上げを出すのではなく、今まで見えなかった課題点を浮き彫りにすることがゴールです。

プロセス5.テスト (Test)

プロトタイピングしたものを市場にリリースし、ユーザーのフィードバックをもらいます。改めて定義で洗い出したニーズに見合ったものになっているかチェックします。最終のアウトプットは真新しいものでなくても問題ないです。本質を捉えてユーザーのニーズを落とし込めていることの方が重要だからです。

デザイン思考(デザインシンキング)のメリット|働き方はどう変わる?

デザイン思考を実践することで、今までの働き方はどう変容するのでしょうか?それは、以下の2つにまとめられます。

”とりあえず”アイデアを提案する習慣がつく

概念化でもあったように、デザイン思考のアプローチでは実現性に関わらずさまざまなアイデアを大量に考案します。つい、失敗を回避するあまり、「このアイデアは出すのはやめておこう」という思考に陥りがちです。ただし、デザイン思考では、失敗は課題を発見するための重要なプロセスです。「とりあえずやってみる」という思考が習慣になることで、失敗に対する恐怖心が薄れ、提案するクセが身についていきます。

多様な意見を受け入れる力が身につく

デザイン思考では、異なる多様な意見を取り入れることが重要です。それぞれの意見を否定せずに、合意形成をはかることで、各意見の可能性がさらに拡張され、皆が考えつかなかった視点や発見を得られます。

デザイン思考の欠点・デメリット

万能に思えるデザイン思考には、一方で欠点もあります。まず、ゼロベースで何かプロダクトを創出するのにはやや不向きな点です。 ユーザーに共感しニーズを探るプロセスは、すでにあるプロダクトにイノベーションを起こす、飛躍させる点では非常に有効な手段ですが、例えば、ユーザーも決まっていない、将来ニーズが出るであろう画期的な商品やプロダクトを開発する際には、デザイン思考では限界が出てきます。

もう1つが、デザイン思考に終始するあまり、プロセス(前提)よりも結果を重要視してしまうことです。デザイン思考では、「ありきたりのアウトプット」になったという状態に陥ることがあります。これは、デザイン思考においては大きな問題ではありません。大切なのは、共感と定義で、いかにユーザーが気づいていない潜在的なニーズを発見するかです。アイデアに斬新さやインパクトさがあるかとは無関係です。「うまくいかない」ところばかりに囚われてしまうと、本質を見失ってうまくいかなくなります。

実践に役立つ!デザイン思考(デザインシンキング)のフレームワーク集

最後に、デザイン思考に役立つフレームワークをいくつかご紹介します。デザイン思考を実践する時にぜひ活用してみてください。

フレームワーク1.共感マップ(エンパシーマップ)

ユーザーの考えや価値観を深く分析するのに役立つフレームワーク。ペルソナが実生活の中で何を感じ、何を考えているのか、以下の問いで明らかにします。

  • 聞いていること
  • 考えていること
  • 感じていること
  • 言っていること
  • やっていること
  • 感じているリスクやストレス
  • 望んでいること

フレームワーク2.ビジネスモデルキャンバス

9つの要素から、ビジネスモデルを分析し、相関関係を描いたフレームワークです。9つの要素に分解することで、今まで目を向けていなかった課題や気づきを得られ、新たなアイデアのヒントを得ることができます。

​​9つの要素

  • パートナー(協力者)
  • 活動内容
  • リソース(資源)
  • コスト
  • 価値
  • 関係
  • チャネル(販路)
  • 収益
  • 顧客

フレームワーク3.事業環境マップ

事業環境マップとはその名の通り、事業を取り巻く環境を「市場」「業界」「トレンド」 「マクロ経済」の4つにカテゴライズし分析するフレームワークです。この4つを正確に理解することで、時代に合わせてビジネスモデルを再定義することができます。

4つのカテゴリ

  • 市場
  • 業界
  • トレンド
  • マクロ経済

 

これに合わせて、優位点 (Strengths)、課題 (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、外的脅威(Thread)の4つの頭文字をとったSWOT分析も合わせて使うと、より室の高いアウトプットが出せるでしょう。

まとめ

デザイン思考(デザインシンキング)は、真新しいアプローチでも小難しいアプローチでもありません。ニーズを探り、仮説を立てて検証するというサイクルを繰り返すいたってシンプルなアプローチです。 シンプルとは言え、「言うは易く行うは難し」で、実際のビジネスに取り入れるにはコツが必要です。まずは本日紹介したフレームワークも参考にしながら、ぜひ自社に取り入れてみては?

 

この記事を書いたひと


俵谷 龍佑

俵谷 龍佑 Ryusuke Tawaraya

1988年東京都出身。ライティングオフィス「FUNNARY」代表。大手広告代理店で広告運用業務に従事後、フリーランスとして独立。人事・採用・地方創生のカテゴリを中心に、BtoBメディアのコンテンツ執筆・編集を多数担当。わかりやすさ、SEO、情報網羅性の3つで、バランスのとれたライティングが好評。執筆実績:愛媛県、楽天株式会社、ランサーズ株式会社等